中国のAI事情
中国は今やAI(エーアイ)大国。その技術力で、世界の覇権を握ろうとしているそうだ。
本当なのだろうか?
●AI(エーアイ)食堂
上海に最近オープンした食堂。
調理するのはAIロボット。
例えば、ラーメンを注文すると、ロボットが麺を茹で、スープを注いで、カウンター越しに提供される。
メニューは、豚の角煮、海老の塩焼き、野菜炒めなど、煮る、焼く、炒めるなど、さまざまな調理工程をこなし、メニューは100種類以上に及ぶ。
それだけではない。AIは、その日の気温や湿度を考慮して、味付けを調整する。
さらに、将来的には、その人の好みや、アレルギーの有無なども、吟味して調理・提供できるようになるという。
●交通システム
食堂だけではない。
中国の大手IT企業のロビーにある大スクリーンにその街の交通システムが映し出されている。街中に監視カメラを設置し、最適な赤信号と青信号の切り換えを曜日、時間帯などに応じて調整し、渋滞が発生しにくいタイミングに変えていく。
AI導入により、渋滞率が急激に下がり、救急車の到着率も従来より数十分早くなったという。
食堂や交通システムだけではない。
中国では今後、ありとあらゆる分野でコンピューター制御の導入を図っていくという。
あらゆる分野というのは、民生用に限らない。軍需分野でも(というより、これが本丸だと思うが)AI技術を駆使して、世界一を目指す。
さらに、こうしたシステムを周辺の新興国に売っていくことを考えているらしい。
中国で急速にAI技術が進展していることは、聞いていたが、ここまでとは、正直驚いた。
●AI大国
中国がAI大国であることは、数値の上でも示されている。
米国・スタンフォード大学の調べでは、次の3点について、中国が世界一だ。
①出版されたAI関連論文数
②引用されたAI関連論文数
③AI国際会議での登壇者数
論文の中身や質まではわからないが、数だけでも、こんなに、論文が出されているとは、初めて知った。中国のAI研究がここまで急速に拡がるほど、盛んになっていることを示すものだ。
こうした事態に、米国の元国防総省高官は、次のように言って、米国の「遅れ」を嘆き、中国の「脅威」を指摘した。
「米国の一部政府機関のサイバー防衛水準は『幼稚園レベル』だ。AI開発競争で米国はすでに中国に敗れた。
中国は新興サイバー技術が発展していて世界の覇権を握るだろう」
軍事分野のAI技術導入は、どの国も熱心に取り組んでいると思うが、中国の技術は世界レベルに達しているらしい。
この高官のコメントは、米国の焦りをも意味している。
●共産党とAI
中国がAI技術を導入しやすい理由として、中国独特の事情がある。
一つは、国をあげて莫大な金額を投資していること。
二つ目は、総人口に比例して研究者数が多いこと。
三つ目は、小型で安いロボットを作る技術があること。
現在、中国は国をあげて、次々と安いロボットを投入して、さまざまな分野にAI技術を利用している。
さらに、共産党という政治体制が、AIを利用しやすい環境を提供している。
つまり、政府がインターネットを管理し、個人の医療記録や購入記録などの情報を集めやすい国なので、それらの膨大なデータが蓄積され、AIがより早く賢くなる、ということだ。
中国は、実際にAI技術を導入しながら、14億人の国民を対象とした巨大な社会実験を行っているようなものだ。
その意味で、国民の個人情報が、AIの学習に、こんなに役立っている国は、世界のどこにもないだろう。
●米国、日本は
一方、米国や日本で、中国のように個人情報の膨大なデータを国が管理して、AIの技術開発のために利用できるか、というと難しい。
実際、米国では、グーグルなどのIT企業に情報を求めても、「倫理」を盾に拒否されるという。
日本でも同様だと思う。
逆に、国がそんなに簡単に個人情報を利用するような事態があってはならない。
日本でも、マイナンバーカードの普及を、国や自治体が熱心に呼びかけている。
今月20日からは、健康保険証としても使えると、その利便性を訴えているが、普及率は38.6%に過ぎない。
その理由のひとつが、国が個人情報を利用したり、情報漏れが起きることを、多くの人が危惧しているからだ。
AI技術導入により、私たちの生活が便利になるのは良いが、その裏に、国による個人情報の管理と掌握があっては困る。
元米国高官の危惧は理解できるが、あくまでも個人の権利をしっかり守った上での、AI技術開発あって欲しいと思う。