日本出遅れ 退避失敗

 

 

   8月31日、米国はアフガニスタンから撤退し、20年間にわたる「米国史上最長の戦争」が一応、終結した。
   今後、アフガニスタンは、イスラム主義勢力タリバンが掌握していくのか、他の武装勢力との内戦が続くのか、予断を許さない状況だ。
   タリバンのカブール占領以降、各国は国内にいる自国人および現地スタッフなどの退避活動を進めた。その活動において、日本は明らかに出遅れた。
   
●日本大使館、外務省
   8月上旬。
   現地日本大使館では、JAICA(国際協力機構)のメンバーなどとともに、退避の方法などについて検討に入っていた。その時は、配偶者や子供なども含めて約500人を民間チャーター機で運ぶ予定だった。
   
   外務省も防衛省に対して、自衛隊機派遣を要請する考えを伝えていた。
   だが、事態の進行は、想定以上のスピードだった。外務省幹部は「見誤った」と認めている。
   
   8月15日、首都カブール陥落。
   同じ日に、茂木外務大臣が10日間の中東歴訪に旅立っている。
   この予定は前に計画されていたものだろうが、明らかに、タリバンの動きを読めていなかった証拠だ。
   
●大使館員は国外へ
   カブール陥落から2日後。日本大使館員12人はカブール空港から英軍機で国外に脱出。
   現地スタッフは取り残される形になった。民間機の運行が止まり、想定が崩れたからだ。
   
   アフガニスタン人スタッフは、日本大使館員から
「助けたいが間に合わなかった」と言われた。

   8月上旬に退避計画をたてている際にも
「心配しなくていい。他の国が退避のアクションを取れば日本も続くから」と告げられた。

   別のスタッフも、8月上旬頃、タリバンが進攻してくるから、早く退避した方がいい旨、伝えたが、「事態がそんなに急転することはない」と言われた。
   
   これらを総合すると、日本はタリバンの進攻がこんなに早いとは想定していなかったのだろう。
   
●ようやく自衛隊機派遣へ
   政府内での検討を終え、自衛隊機派遣を決定したのは22日。すでにアフガン政権崩壊から8日たっていた。
   
   そして、最初の自衛隊機がカブールに到着したのは26日。
   米軍が撤退期限とする31日を考えると、実質2~3日しか活動猶予がない状態だった。
   
   しかも、自衛隊は、法律上、空港の外に出て、活動することはできない。退避を希望する人は、自力で空港まで向かうしかないという、歯がゆい状況だ。
   タリバンが空港までの道路を制圧し、検問している状況で、自力で空港に向かうのは多大な危険が伴う。
   
   結局、自衛隊機3機、政府専用機、隊員約300人を派遣して、退避させることができたのは、カタールの支援を受けて空港に来た日本人1人と、米軍から依頼された旧政府関係者14人だけだった。
   
●それでも退避した国々
   アフガンの状況は、どの国にとっても退避に関しては同じように困難を伴った。
   
   だが、そんな状況でも、
    英国   約1万5千人
    ドイツ   5347人
    カナダ  約3700人
    フランス 約3000人
    韓国   390人 
    
   完璧ではないのかもしれないが、様々な関係者などの退避任務を、それぞれ完了させた。さまざまな危険な状況の中で、いろいろな手段と情報を駆使して、退避を行った。
   
   日本だけが、大使館員を早々と退避させ、500人もの人を残してしまったという事実は、世界から見ても、相当恥ずかしい事実だ。
   
   例えば、韓国。
   大使館員を国外退避させていたが、4人を現地に戻し、米国が契約する現地のバスを確保。タリバンの検問は米軍に同乗してもらって通過した。
   
●邦人保護は?
   日本大使館員が、早々と退避してしまったら、現地の状況の把握が出来なくなり、ますます他のスタッフの退避計画が立てられなくなる。
   
   そして、何よりも、大使館の役割は、現地の邦人保護なはずだ。同時に、残ったスタッフの安全確保もしなければならない。しかし、それらの任務を果たすことなく、敵前逃亡のような行動に、疑問を抱く。
   
●状況の把握と出遅れ
   日本が退避に出遅れたことは、明らかだ。
   それは、日本政府および大使館が、現地の情報をきちんと把握出来ていなかったことの裏返しでもある。
   
   日本は、アフガニスタン政府立ち上げの時から、日本国民の税金をたくさん使って「支援」という形で尽力してきたはずだ。
   
   だが、実際、どれだけ現地の情報を把握し、タリバンとのパイプ作りに役立っていたのか、今にして思うと、残念だが、日本の貢献度を疑いたくなる。
   
●信頼
   今回の退避活動の出遅れは、十分な情報の掌握が出来ていなかったことによる。
   今後、このような事のないように、徹底的な検証を行って欲しいと考える。
   
   さらに、まだアフガン国内に残っている約500人の退避に向けて、尽力して欲しい。
   500人の中には日本人はもちろん、アフガニスタン人スタッフも大勢いる。彼らの中には、何年間も日本大使館で働いてきてくれた人など、日本とアフガニスタンのために尽力してくれた人たちだ。
   
   こうした人たちを救えなかったら、見捨てたりしたら、今後、日本が海外で働くスタッフに信頼されないことになる。
   それは、日本が海外で活動していく上で、手となり、足となる人に信頼されない。最終的には人を集めることが出来ないということにもなりかねない。
   
   日本はいざとなったら、見捨てる、という誤ったメッセージを出すことにならないよう、あらゆるルートを使って、救出に全力で取り組んで欲しい。