トランプ大統領の大誤算

 

 

   今月3日、米国がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害してから、中東情勢の緊迫化は一気に高まった。
   いったいトランプ大統領はどこまで先を予測して、司令官殺害の命令を下したのか?
   殺害の根拠に疑問がある。と同時に、事態の緊張度をここまで予測してなかったのではないか? と思えてならない。
   結局、再選を狙って武力を誇示したいトランプ大統領の独りよがり、その場しのぎの判断の結果が、深刻な紛争の火種を作ったといえる。

 

   
●司令官殺害の根拠
   最大の問題は、ソレイマニ司令官殺害の根拠だ。
   トランプ政権いわく、「司令官が米国の外交官と軍人を攻撃する計画を進めていた」とし、それを「差し迫った脅威」として、殺害は自衛のための措置だった、としている。
   
   だが、いまだにその「計画」についての、明確な証拠や具体的な説明はないまま。米国内からでさえ、その判断に批判が相次いでいる。
   
   ABCテレビなどが行った米国の世論調査でも、イランに関するトランプ氏の対応を「評価しない」が56%にのぼった。さらに、司令官殺害により米国が「より安全になった」と答えた人が25%だったのに対し、「安全ではなくなった」が52%だった。
   
   こんな根拠のないままの作戦実行を命令したトランプ大統領。
   紛争の火種を自ら蒔いた。
   
●シーア派武装組織
   殺害を受けて、イランはイラクの米軍基地にミサイルによる報復攻撃を行った(8日)。
   しかし、米国はその報復攻撃に対しては、軍事力は行使しない。経済制裁の強化を行うとした。
   これで、いったん両国の対立は小康状態になった(ようにみえた)。
   
   だが、12日、米軍が駐留するイラクの空軍基地にロケット弾が打ち込まれた。
   相手は今のところ不明だが、イラクの親イラン武装勢力(人民動員隊)ではないかと、言われている。
   
   イランはこれまでにソレイマニ司令官が軸となって、イラクやシリア、ソマリアの一部などの周辺の地域にシーア派の武装組織を育て、武器や物資の供給、および訓練などを行ってきた。
   そういう意味では、ソレイマニ司令官は米国にとって、目の敵だったのかもしれない。
   
   だからこそ、司令官殺害に対する怒りはイランにとどまらない。
   こうしたシーア派武装組織すべてに、米国への報復攻撃の口実を、米国自らが作ってしまったのだ。
   
●報復の連鎖となるのか?
   しかし、トランプ大統領はイラン周辺のシーア派武装組織の強固な繋がりと、その軍事力をどこまでわかっていたのか?
   本音では全面的な衝突を避けたいイランだが、司令官がいなくなった今、こうしたシーア派武装組織を誰がコントロールするのか?
   いや、できるのか?
   
   トランプ外交はいつも場当たり的ではあるが、今回の司令官殺害の影響度をどこまで計算していたのか?
   
   へたをすると、イラン周辺のあちこちで報復攻撃の応酬が始まり、報復の連鎖となる可能性もある。
   最悪、中東に駐留する米軍基地はイラン周辺のシーア派武装組織の報復攻撃に曝され続け、米軍兵士は中東から全面撤退の憂き目にあうかもしれない。
   
   あるいは、どこかで、突発的な衝突が起きる可能性も否定できない。
   となると、トランプ大統領の判断(司令官殺害)は紛争の火種を新たに作っただけだ。
   それは、大誤算だった、といわざるを得ない。