ハリウッドが本気で作った時代劇 「Shogun 将軍」 | meaw222のブログ

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今日は、ハリウッドが本気で作った時代劇「Shogun」について書きます。

 

  小説「将軍」と1980年のドラマ化

 

小説「将軍」とは、ジェームズ・クラベルが1975年に発表した小説です。

ジェームズ・クラベルの小説「将軍」の主人公は、西洋人ながら武士となり、家康のアドバイザーを務めた実在の人物、ウィリアム・アダムズ(三浦按針)です。

そして、登場する人物は、全て実際の歴史上の人物を当てはめていますが、史実の枠を超えて物語を紡いでいます。

 

小説には、かなりあからさまな人種差別が見られます。例えば、日本人の登場人物は西洋人の名前をうまく言えない設定であったり、日本女性はエキゾチックで好色な人形として描かれています。

 

また、村人がおじぎをしなかったからという理由で、役人にいきなり切り殺されたり、何の詮議もなく、主人公たちが捕えられ投獄された上、無差別に船員の一人が連行され釜茹でにされてしまうなど、当時の日本でも考えられないような荒唐無稽な描写も見受けられますが、こうした一種人種差別的な描写は、戦争時に日本軍の捕虜となったクラベル自身の体験を反映しているのかもしれません。

 

しかし、この小説が発表された当時は、日本の歴史や日本文化が十分に知られておらず、東洋の神秘の国での冒険活劇かつラブロマンス小説として、ベストセラーとなります。

 

これを受けて、1980年にアメリカ合衆国・NBCでドラマ「将軍 Shogun」として、1980年9月15日〜9月19日(5日連続放送)に放映された後に、好評により劇場公開用に編集され上映されています。

この時の主要出演者は、リチャード・チェンバレン、三船敏郎、島田陽子となっています。

 

 

当時としては、時代考証など十分に行われておらず、時代背景も小説に書かれている通りに映像化されます。欧米の視聴者にとっては、いままでにない時代設定、人物描写、そしてストーリーなどが受けてドラマは好評となります。当時としては進歩的な作品だったのかもしれない。

 

しかしながら、少なくとも白人の作り手側は日本文化にどっぷりつかった作品になったと思っていたようですが、現実は東と西の違いにしか目が行っておらず、どうしも日本人の人物描写や考え方並びに所作については、日本人から見るとかなり違和感のあるものでした。

 

  2024年版「Shogun 将軍」

 

この小説「将軍」が、2018年に再びリメイクされることとなります。

そして、6年の年月をかけて制作され、製作会社FX(ケーブルテレビ会社)によって、この小説「将軍」の原作の魅力を損なうことなく改変(翻案)し、文化的な細かな点をよく分かっている視聴者(日本人)の鑑賞にも堪え得る作品に仕上げます。

 

2024年版を製作するに当たって、制作者たちは、グローバル化を背景に、東西の差異よりも共通点に目を向けます。

 

主人公であるブラックソーンは、本ドラマにおいても粗野で無教養な男で、原作同様に異文化に対して当初は反感を抱きますが、早い段階で環境に順応、周囲の人間を人として理解するようになります。

 

また、日本人も、異国での冒険活劇の単なる小道具ではなく、ブラックソーンと同じような動機や欠点や欲求を持つリアルな人間として描かれています。

 

その結果、小説で中心的に描かれていた按針(ブラックソーン)と戸田鞠子(細川ガラシャ)のロマンスは、脇に追いやられて、虎永がメインキャラクターになり、前作よりも日本側視点に傾いたオーセンティック(本格的)な時代劇の様相を帯びるようになります。

 

それと共に、日本側の視点を中心に持ってくるに当たっては、言語も重要な役割を果たしています。原作と違って本作は、大多数を占める日本人キャストが口にする日本語だけでほぼ話が進みます。(ただし、ポルトガル語が英語と同じなのは若干混乱しますが。)

 

これについては、主演の虎永を演じた真田広之が、同時にプロジューサーを兼ねたのも大きく影響してます。詳しくは後に書きたいと思います。

 

さて、今回の「Shogun 将軍」のストーリーですが、時代設定は1600年の関ケ原の合戦前夜。それまで日本を統一していた太閤がこの世を去り、諸国は5人の大老によって治められていました。関東地方を治める大名、吉井虎永は、大坂城の城主でもある五大老のひとり、石堂和成の策略によって他の大老たちと対立関係に陥ってしまいます。

 

そんな折に、英国人航海士ジョン・ブラックソーンらの乗っていた船が、日本に漂着します。

彼らは直ぐに捉えられ、ブラックソーンは吉井虎永の詮議を受けることとなります。

 

ブラックソーンは、ポルトガルによって独占されていた日本との貿易を開始する為と、カソリックとプロテスタントの対立の為に、吉井虎永は、窮地を脱して日本を統一するため、そして、戸田鞠子は、明智光秀の娘といった不遇の境地を救ってくれた吉井虎永の為に、それぞれの思惑が絡まって物語が進行していきます。

 

物語は、歴史上の人物をモデルに書かれていますが、ストーリーをより理解できるように、役柄と歴史上の人物及びそれぞれの俳優を一覧にすると以下の通りとなります。

 

 

 

アメリカ制作の作品であるにもかかわらず(撮影地はカナダのバンクーバー)、根本的に、これは日本のドラマとなっています。その結果、原作と比べて歴史的にも芸術的にも精度の高いものになっています。これまで日本を描いた欧米のどんな映画やドラマより上回っていると言っても、過言ではないと言えます。

 

その証拠として、初回エピソードの世界配信開始から6日間で900万回の再生回数を記録。これはDisney+の世界配信されたドラマシリーズの再生回数としては歴代1位です。また、アメリカの映画評論サイトであるRotten Tomatoesでの批評家スコアは2024年3月5日時点で99%という非常に高い評価を維持しています。

 

このドラマは、2月27日に放送を開始して、今日までに4話が放送されていますが、すでに欧米では社会現象になる程の注目を集めており、エミー賞受賞することは確実視されているほどです。

1980年版も、ドラマが好評で編集により映画化されましたが、2024年版も同様に映画化されるのではと思います。

 

  俳優・真田広之のこのドラマにかけた思い

 

今回のドラマのオファーを受けた主演の真田広之さんは、オファーを受ける上である条件をつけたそうです。

 

それが、日本語による会話、日本人俳優と時代劇専門スタッフを日本から呼ぶことだったそうです。これには、真田さんが、出演した2003年の映画「ラストサムライ」で成しえなかった後悔によるものだったそうです。

 

 

映画「ラストサムライ」は、アメリカ映画ながら、日本を舞台に日本人と武士道を偏見なく描こうとした意欲作で、主演がトム・クルーズであり、多数の日本人俳優が起用されたことも話題を呼びました。

 

真田広之さんは、撮影開始時点ですでに英語が話せた事を生かし、演出面で日本人から見ておかしく感じる部分が無いかといった微細な部分に関して、ほとんどの撮影現場に立会って意見を述べ、結果的にスーパーバイザー的役割もこなしていました。

 

しかし、真田さんの真摯な態度は、アメリカ人スタッフの理解をえられずに(不評を買い)、最終的には不完全な形での描写となってしまいます。真田広之さんにとって、この時の後悔は、月日が経っても消えることはなかったそうです。

 

そして、今回の「Shogun 将軍」のドラマ制作で、「ラストサムライ」で成しえなかったオーセンティック(本格的)な日本人の描写の為に、日本の専門家を使い、戦国時代の生死感や名誉等を、現代風に解釈せずに画像に落とし込みます。(その為に、一部残酷な描写等が入れられています。)

 

また、同時に大切にしたことは、日本語の美しさや日本人の所作がより日本的にすることでした。日本を題材とした映画やドラマでも、いままでは、日本人以外のアメリカに住むアジア系アメリカ人で英語を母国語とする俳優が多用されており、どうしても、不自然さが残っていました。

 

従って、真田広之さんは、共同プロジューサーとして、この不自然さを取り除くために、時代劇専門の日本人スタッフ及びエキストラに及ぶまで日本人は日本人の俳優さんに演じさせることとします。また、ただ単に、日本式のやり方を押し付けるのではなく、より本格的に見えるように、アメリカ人スタッフとも話し合いを重ね、色々な視点からより本格的なドラマ作りを進めたそうです。

 

真田さんの今回のドラマに、この様な思いがあったからこそ、我々日本人が見ても何も不思議に感じずに、ストーリーに没入できる本格的な時代劇が完成しています。

 

 

4話まで見て、2016年のマーティンスコセッシ監督で、小説家・遠藤周作さんの「沈黙」を原作とした「沈黙/サイレンス」を思い出しました。

 

 

この映画は、日米の最高のスタッフ及び俳優陣により、原作のすばらしさも相まって素晴らしい映画となっています。また、ドラマ「Shogun 将軍」と同様にこの映画もハリウッドが本気で作った映画となっています。

時間のある方は、こちらもお勧めですので視聴してみてください。

 

最期に、このドラマ「Shogun 将軍」は、思わぬ副産物を産み出しています。

それが、本格的な作品を作るのに障害となっているのが、誤ったポリコレやウォーク化であると気づかされたことでした。ハリウッドや映画ドラマ関係者が、薄々とは分かっていましたが、この誤ったポリコレとウォーク化が、どれだけ作品の真実性をダメにしているのかを知らしめる結果となっています。

 

現に、この「Shogun 将軍」が、社会現象までになると、SNS等でこのドラマに黒人が登場しないのはおかしいという論説が張られているそうです。

果ては、「勇敢な武士には、黒い血(黒人の血)が流れている」など、聞いたこともないような文章が、真実であるかのように語られている事です。

戦国時代に、通常は、黒人の侍など存在しないことは、日本人であれば皆知っている事です、このドラマに黒人が登場したならば、それだけこのドラマの真実性が台無しになるか容易に想像できます。(確かに、織田信長が、弥助というモザンビーク生まれの黒人を部下に持っていた資料もありますが、これ以外に武士になった黒人の資料は存在していません。)

 

残り、6話ありますが、このまま、ポリコレやウォーク化に侵されず、ドラマの真実性を突き詰めていってほしいものです。

また、このドラマに触発されてポリコレやウォーク化で、おかしく成ったドラマや映画から、真実性を重んじたドラマ映画製作を目指してもらいたいものです。

 

残念ながら、この「Shogun 将軍」を配信しているのが、日本ではディズニープラスだけとなっています。(アメリカではHuluはディズニーの子会社化されており視聴できますが。)

 

ネットフリックスやHuluの様にメジャーな配信サービスでないので、加入している人は少ないとは思いますが、このドラマだけを見るために、その間だけでも加入する価値はあると保証します。