多分、日本で一番お産が多い病院だと思いますが、横浜の「堀病院」で、助産師でなく、
看護師が内診をしていたことが、大きな問題になっています。

発端は、平成16年同病院で出産されたお母さんが、産後に出血多量でその後、三次病院
に搬送され、多臓器不全でなくなられたことが発端になっているようです。



お母さんがなくなるということは、わたしたち産科医にとっても、本当に辛いことなのですが、
福島の前置胎盤の手術後にお母さんが亡くなられたときもそうでしたが、
厚生労働省やメディアは、適切な医療をしていれば、お母さんが亡くなることはない、
お母さんが亡くなるのは何らかの医療過誤があったから、と信じているように思えます。
でも、それは大きな間違いです。

福島の件では、わたしたち医師には到底納得しがたい、業務上過失致死で産科医が
逮捕されました。今回の件は、業務上過失致死での立件は難しそうだったので、保健師
助産師看護師法の違反容疑で立件しようとしているのかもしれません。ただ、保健師助産
師看護師法には看護師による助産行為の禁止はあっても、内診の禁止の記述はありま
せん。今の厚労省が内診を助産行為と解釈しているということです。



だから、看護師が内診していいんだと、言うつもりはありませんし、内診が助産行為なの
かを議論するつもりもありません。ただ、わたしが疑問なのはなぜこの時期になのか、
ということなんです。
出産時の内診は、それまでは医師の監視下であれば看護師は内診をおこなってもいい
という医師法のもとでの解釈できました。ところが、2002年11月に、厚労省看護課長名
で「看護師の内診禁止」の通達が一斉に各都道府県に出されました。

どうして、産婦人科医、助産師も不足していて、産み場所がどんどんなくなっていく時期、
しかも、厚労省は助産師学校をのきなみ閉鎖していておいて、助産師を募集してもすぐに
集まる状況ではないこの時期に、あえて、この通達を一方的に出し、そして、今回に
至っては強制捜査までしたのかが、理解できません。
きっと、何か政治的な背景があるとしか思えないのです。

本当にお産の質、あり方を考えるのであれば、こんな魔女狩りのような一方的なやり方は
かえって逆効果とわたしは思います。実際、この通達後にかなりの産婦人科医院が産科
をたたみました。堀病院も、2002年の通達が出され、九州の産婦人科医院が実際に摘発
されてから、助産師を募集したけど、集まらなかったとコメントしています。



それから、メディアの報道のあり方にも、いつも憤りを感じます。本当に、この問題を
真剣に考えているのであれば、こんな報道の仕方はないだろうな、と思います。
堀病院ではすべてのお産に医師が立ち会っています。少なくとも、看護師が内診をしたか
ら、助産師がかかわっていなかったから、お母さんが亡くなられたのではないでしょう。
最近、産婦人科医不足、産院の閉鎖問題をどう考えてゆけばよいのかという記事も多く、
現場の状況もある程度は理解してくれているのかと思ってましたが、結局は、本質から
外れた、こんな日和見的な書き方しかできない。



もちろん、間違いは間違いと糾弾することは必要です。でも、どんな状況でも、その背景も
よく知らずに、一方的に医療者(権威側?)が悪いと決めつけるやり方は、献身的に現場
で働いている医療従事者をますます追い詰めるだけで、今回の件でもまた多くの産科医
療従事はお産の現場から離れていくことでしょう。ますますお産が防衛的な環境で行われ
るようになり、産むものにとっても、より窮屈になっていくことでしょう。そもそも、もし、年間
3000人のお産を取り扱っている堀病院が産科を閉めたら、その妊婦さんたちはどこへ
行けばよいのでしょう? お役所的に言えば、それは誰の責任になるのでしょう?

今回のような思いどおりにいかなければ罰して排除しようとするあり方をすすめていく
ことで、今のこの国にどんな徳をもたらすのでしょうか。言いたいこと、議論したいことは
山ほどあるのですが、この問題は、奥が深く、とてもここでは語りきれません。

このような事件が起こるとますます産科領域の医療者は減るのではと
危惧してしまいます。
この悪循環を断つためにはどうしたらいいのでしょうか…。
やはり私は根本に患者家族と医療者との距離の問題を感じます。
以前起こった産科医が逮捕された事件と同じものを感じるのです。
この患者家族と医師の距離感をどうにかしたいなと…真剣に考えています。

医療者でない仲間からこんなコメントをもらいました。そうなんです、この問題の根底には
医療者と患者さん、家族、社会のあいだの距離、温度差があるんです。
ちょっと複雑になりますが、さらに言えば、現場スタッフと厚労省、産婦人科中枢、さらに
は、厚労省と産婦人科中枢、そして、組織としての産婦人科と助産師との距離感も
大いに関係しています。そんな争いをしてる場合じゃないんだけどな・・

前から書いていますが、このあたりに少しでもかかわっていければと考えています。
まずは、ひとりの産科医として、医療者として、ひとりの人として、わたしの感じること、
思うこと、考えることを、これからも正直に語ってゆければと思います。