部員2です。
ぼくは平凡だ。
何をやっても印象に残らないのがこわくて、何もしてこなかった。
その事がぼくをますます平凡にした。

でも、ぼくには一つだけ人と違うところがある。
それは東中野に住んでいる、ということだ。
正確に言えば、今日からぼくは東中野に住む。
小説や漫画で変なことが起こるのは決まって中央線、特に中野・吉祥寺界隈だ。
だから世の中の人が帰省している大晦日に、わざわざ埼玉から引っ越してきたのだ。

荷解きが終わると同時に玄関のベルが鳴った。
そこには神父のような外国人が立っていて、
十字架があるべきところには、わさびがぶら下がっていた。
「アナタハ、わさびノ存在ヲ信ジマスカ?」
僕は状況をうまく飲み込めず、適当に返事をした。
すると神父は満足げに頷き、
「アナタハ、善イ人デス。コレヲ差シ上ゲマショウ」
と言って一冊の冊子を僕に渡すとそのまま帰ってしまった。
表紙には『新約・ワサビ教のススメ』と書いてあった。



冊子によると、わさびは西暦11年にイスラエルはエルサレムにて発見され、
来年は記念すべきミレニアムである。
また、聖書には最後の晩餐の際、キリストもわさびを食したという記述がある。
欧米人にわさびを苦手とする人が多いのは、このような宗教的背景があるから、だそうだ。
ちなみにワサビ教徒は大晦日にわさびを買う、らしい。

ばかばかしい。

時計を見るともう八時を過ぎている。
駅前のスーパーでは刺身の安売りが始まっているはずだ。
そうだ。調味料もないから、ついでに醤油とわさびも買っておこう。