部員その2です。
私とは対照的に、相棒は随分と機嫌が悪くなったようだ。
普段なら小気味よく決まるシフトも、何処か落ち着きが無く、エンジンは咳き込むように回った。
今振り返れば、相棒の警告に耳を澄ませるべきだったかもしれない。
だが、この時の私はおもちゃを与えられた子供の様なもので、そいつは無理な注文だった。
あっという間に我々は羽田を過ぎていた。
目的地の大黒埠頭まで半分を過ぎたあたりである。
そのとき悪魔が耳元で囁いた。さぁ、もっとスピードを上げるんだ、と。
スロットルを思い切り踏み込むと、マシンは弾かれたように加速した。
何もかもが順調に思えた。
そのときだった。
ぼん、という鈍い音がキャビンに響いた。
エンジンは力を失い、私はどうにか車を路肩に寄せた。
振り向くと、そこにはフロントから黒々とした油を垂らし、無残な姿を晒すミニの姿があった。
「大丈夫?レッカー呼んだ方がいいんじゃない?」
女は車を停めて駆け寄ってきた。
私は酷く憔悴していたので、悪いが私の携帯でレッカーを呼んでくれはしないか、と頼んだ。
「オーケー、任せて。」
彼女は手際良く番号を調べ、通話ボタンを押した。
しかし、ロードサービスは電話に出なかった。
電話は妻と繋がっていた。
どうやら彼女がレッカーを呼ぼうとした直前に、痺れを切らした妻が電話をかけてきたらしい。
そういう訳で、私の冒険は突然終わった。
「奥さんと仲直りしてね。」
女は申し訳なさそうにそう言い残し、夜の闇に消えていった。
とりあえず帰ったら妻に謝ろう。女は強いのだ。真実を話せば解ってくれるさ。
私はそんな事を思いながら帰路についた。
しかし、私が思っていた以上に妻はタフだった。
自宅に帰ると妻と娘の姿は無く、机の上には離婚届が置いてあった。
中年の大冒険が、いま始まる。