{FAA1B676-6881-498A-8F26-AF87F483C919}


流通関連の素晴らしい訳本をいくつも出されている太田美和子さんの新刊本。


米国ニューイングランドにドミナントを築くスーパーマーケット、マーケット・バスケット。75店で年商5000億円を超える。ウェグマンズなどと同じく、古き良きリージョナルの繁盛モデルだ。


この企業が3年前、ファミリー企業にありがちなお家騒動に巻き込まれた。


単純な図式に当てはめれば、


ビジネススクール出身で株主利益最優先の新CEOが、顧客と従業員優先主義で圧倒的支持を得ていた旧CEOを会社から追い出し、顧客、従業員、取り引き先が連帯し1年以上にわたる抗議活動の末、元に戻り、かつての日常を取り戻したという話。


抗議活動のデモは顧客を巻き込んで、ピーク時には200万人にも及んだという。この様子は連日テレビ報道され、後にはドキュメンタリー映画にもなった。新旧CEOは創業家の従兄弟同士。互いに会社の行く末を考えた信念のぶつかり合いだった。


書籍の筆者は地方紙で長年良質な取材を重ねてきたベテランゆえ、勧善懲悪的要素はあるものの、上からの変革を違和感を感じながらも、受容していく事例が多い中で、従業員、取引先だけでなく顧客が声をあげたという点で稀有な出来事と判じている。一方でエピローグにて、戦い済んで、日常を取り戻した後のかれらの課題をも淡々と浮き彫りにしている。


カミュの「ペスト」に重ねれば、共通の敵があるうちは人は信じられないような、自己犠牲を厭わない結束をするが、熱狂過ぎ去りし後、静かに失われていくものがあることを、このマーケット・バスケットの騒動も暗示している。


合理主義と、創業の信念はときに激しくぶつかる。ウォルマートもサム・ウォルトンに対抗し、幹部の大半が従業員を連れて大量辞職する時があった。サムもまた顧客と従業員、取引先のプロフィットシェアとディスカウントの方法の徹底で顧客と従業員、取引先の絶大な支持を得ていた。その方法論はまさにマーケット・バスケットが踏襲していたものだ。


渦中にあれば、何が正しい選択かわからない。経験ではない、歴史に学ばない限り、選択、決断はできない。


マーケット・バスケットの事例はあらためてそのことを思い知らされる。