最近、身近で起こったホスピタリティについての考察です。
「ホスピタリティ」というのは小売業や飲食、旅行などサービス業の根幹をつくる精神で、
日本語に訳すと難しいのですが、よく「おもてなし」と同義につかわれます。
この「おもてなし」を分解していくと、
「献身的なサービスによって送り手と受け手の満足度が最大限に高まる方法」とわたしは理解しています。
つまりサービスする側の一方的な献身でもだめで、サービスの受け手もその献身に応えるだけの器量がなければ本当に素晴らしい「サービス」は成立しないということです。
最近、打ち合わせでランチョンにいったときのことです。
すこしはやい時間に行ったので、まだ2組しか席は埋まっていませんでした。
そのレストランはオープンキッチンや個室もあるゆったりとした100席程度あるところです。
タキシードをきた女性の先導で我々2名が案内されたのは、なんと先客2組の間の狭い席!?でした。
まあ、窓際から順番に埋めていくというのは飲食業のセオリーのひとつでもあるんですが、ちょっとがっくりきました。
天井高も5メートルくらいある広々とした空間の片隅でいかにも順番に案内しています的、詰め詰め状態・・
レストランの品格もうたがってしまいます。
一度席についたのですが、どうも落ち着かないので、
ホールキャプテンらしい人間に、
「混むと思って予約させていただいたんだけど、いまの時間帯はまだそんなに埋まっていないので、もうちょっとゆっくりできる席に変えてほしいんですが・・」
こういうと、かれは、気が利かず申し訳ありませんでした。すぐ席をご用意します。ということで、
とてもゆったりした席に変えていただきました。たぶんそのレストランでもっともいい席です。
さて、最初の案内女性ですが、彼女は合理的な判断をしていると思います。
・これからお昼のピークタイムになるから詰めていく方がいい
・わたしの知っている常連さんじゃないし、まあ一見さんだから、ここでいいだろう
・あんまりこのレストランに見合うような格好していないし・・(笑)
こう考えると、彼女は正しい。
しかし、わたしは同じようなレストランで以前案内されたときは、
先導のホールスタッフは、
「ご予約有難うございます。ゆったりめのお席がよろしいですか?それともテーブル席のほうがよろしいですか?」
と尋ねてくれました。
そのときは連れがまだ到着しておらず、一人だったのですが、そのときは私の目上の方との仕事の話をまじえたランチョンだったので、
「ちょっと仕事の話もするので、テーブルのほうがいいですね」と答えたところ、
話がしやすいように、すこし喧騒から離れた場所にわざわざテーブルをセッティングしてくれました。
どういう目的でランチョンにきたのかということを、さりげなく先導する中でつかんで対応してくれたわけです。
よってわたしは目上の方とランチョンの場合は、そのレストランをつかう率が高くなっています。
その方が気に入っていただければ、レストランのお客様を増やします。
これがほんとうの「ホスピタリティ」ではないかと思います。
戻りますが、
冒頭の先導女性は正しいのですが、「ホスピタリティ」という点では、ちょっと足りなかった。
ランチョンを予約するということは、やはり目的があるからです。
ホールキャプテンらしき人は、そのあたりの事情をさすがにすぐ察しました。
まあ、席案内されて、いきなりこんなリクエストをすれば、ただランチを食べに来たおばさまたちとは違うということはわかります。
さて、もうひとつ、出張のためにホテルを予約しました。
その場所ははじめて訪れる場所だったので、いつも出張時には一休やホテルズドットコムなどを利用するのですが、
そのときは、ホームページでホテルを探してそのホテルのホームページを開いて電話番号を探して予約をいれました。
無事に予約がとれたのですが、
予約受付の女性が最後、こんな一言を言ってしまったのです。
「今回は、お電話で承りますが、次回からはどうぞホームページ(を開いているなら)をご利用ください」
いつもなら、私も結構短気なので、すぐ予約を取り下げるのですが、
バタバタしていたので、スルーしました。
実は、この受付女性とのやり取りの中で、
禁煙か喫煙かを聞かれたので、禁煙がよいですと伝えました。
ホームページを開いて電話番号を検索したのですから、それではどんな部屋があるかみてみようと思ったので、朝食付き、ツインのシングルユースというゆったりしたプランがあったので、この部屋がいいですねとやり取りになったのです。
そこで、たぶん受付からすれば、
「ホームページ見てるのなら、ホームページで予約すればいいのに。なんのためにホームページサービスがあるのよ。こちらはただでさえ少ない人数でまわしていて受付で忙しいのに・・」と思ったかどうかはわかりませんが、まあそんな気持ちが最後の一言になったのでしょう。
ですが、ホテルというのは、電話ひとつ応対の良しあしで品格とサービスレベルが決まってしまう究極のサービス業です。
それはビジネスホテルでも高級リゾートでも同じです。
ビジネスホテルだから、安いんだから、ホームページで予約してください、ではリピーターはつかないでしょう。
低価格ビジネスホテルでも優れたチェーンは、電話でもネットでもいつでも予約が取れますし、予約にはどちらを使ってくれなんて言いません。しかも意向もちゃんとききます。
先ほどのレストランではありませんが、「お部屋は広めのほうがよいか」「あすははやい出発なのか」「朝食はいるか」。
こういう中から、相手のニーズにあった最適な選択肢を提供する。
低価格だから安かろう、悪かろうではないのです。
すこし前、札幌に出張したとき、これは実名を出しますが、クロスホテルさんを予約していたのですが、
チェックインせず、そのまますすきので飲んでしまい、ホテルの戻りは12時近くになっていました。
このホテルの屋上は大浴場があるのですが、時間は12時まででした。
12時5分くらい前だったので、あすの朝に入ろうかと思っていたのですが、
ホテルの受付のかれは、にっこりと
「大丈夫ですよ。お疲れでしょうから、時間気にせず入られてください」
と言いました。
こういうすぐれたホテルマンがいるとやはり定宿にするのが人情というものです。
よくプレミアカードやプラチナカードを提示して部屋をグレードアップしたという自慢話の類はよく聞きますが、
まあそれもあるのでしょうが、わたしはやはり、サービス業の人間は「カード」ではなく「人」で判断する力をつけるべきだと思います。
「人」を心からもてなしたい・・その気持ちを受け止めてサービスの受け手もまたサービスを受けるにふさわしい客たらんとす・・。
まさに「茶の精神」「一期一会」がサービスの本質だと思います。