朝一で、宮崎吾郎監督の「コクリコ坂から」見てきました。




なぜか休日なのに朝一しか時間がなくて・・夜はまたお客様がいらっしゃって、飲み会です(笑)。




1日なーんにもしない日がほしいなあと思うのですが、なかなか難しいですねえ。




で、「コクリコ坂から」なんですが、前作で酷評されて、やはり親父が偉大だと大変だなあと思っていたのですが、




ちょこっと感想を。




映画は、とても丁寧だなあと思いました。小津安二郎ばりとは言いませんが、日常の一コマ一コマを描写しています。




これはこれでとてもいい。




パンフレットで石田ゆり子さんが、同じことを書いていましたけど、日常のディテールを丁寧に描くことはジブリの伝統であり、アニメは虚構であるがゆえに、細部をごまかしてしまうと、その作品の持つ虚構をもって語る「なにか」が根底から崩れます。




でもなにか足りない。




ストーリーの起伏、伏線の張り方という意味ではありません。




メーンストーリーの主人公同士の淡い恋と出生の秘密、サブストーリーとして描かれる「カルチェラタン」(学生会館)の取り壊し問題、




さらには、主題歌である「さよならの夏」と映画全体のキャッチコピーでもある「上を向いて歩こう」(劇中挿入)




これらがあるところでは、うまく伏線がはってあるし、全然シンクロしてないなあと思ったところもある。




では、なにが足りないのか?




たぶん「日常のエンターテインメント」が欠けているのではないかなあと。




トトロのさいごのとうもころし




空飛ぶ宅急便やさん




空飛ぶ豚




小学校5年生のわたしを連れて田舎暮らしを経験するOL




バロンとの旅を夢想する小説家志望の女の子




引っ越しの途中で八百万の神様のための風呂屋で働くはめになってしまった女の子




(こう書くとなんのこっちゃですが)




これらは、みんな丁寧に日常生活を描きつつ、どこかにファンタジー的なエンターテインメント要素がある。




現実とファンタジーが巧みに折り重なって、最後、現実の世界に帰っていく。


ファンタジー、つまりエンターテインメントというフィルターを通して、以前より、ずっと現実に向き合える、好きになる。


いろいろ辛いことがあるんだけど、人生を前向きに考えることができるのではないか。


これは駿監督のもっとも得意とした手法です。




原点は、「絵本」の世界。




駿監督は大学時代、児童文学研究会にも所属した児童文学フリーク。軍事関連(船、飛行機、車など)と並んでマニアックと言われます。絵本のもつ現実とファンタジーの世界の見事な融合を映画の世界で表現したと言えるでしょう。




でも私は吾郎監督は、親父のマネをする必要はないと思います。自分の方法論を苦しんで試し、つくりあげていけばいいと思います。




これは、比べようもありませんが、同じ「2代目」の持つプレッシャーです。これを克服しなければなりません。




映画を見ていて思ったのですが、




世代的に、吾郎監督は、東京オリンピックのころの高校生の持つ心象風景を知ることは難しいでしょう。文献をあたり、いろんな同時代の作品をみて感じ取ることはできますが、実体験はない。




もっと、自分が実感できる時代で勝負すればいいのになあと思ったのですが、




一方で、自分の経験感覚に引き寄せて自分の知らないことを想像して表現する方法を試す、これがほんとうのプロなんだろうなあとも思いました。




例を挙げると、




わたしもトトロの時代は現実には知らない。




でもお母さんが入院して待つ、子供の不安などは、普遍的です。




夕暮れの里山のあぜ道にたたずむお地蔵さん、巨大な鉄塔・・。これも田舎出身なら、原風景です。




おもひでぽろぽろは、高畑さんの作品ですが、




これも、ビートルズが来日した時代は知らない。




でも、女の子だけが体育館に呼び出されたり、スカートめくりをしたり(笑)、




学級会で廊下を走る奴を取り締まったり・・これもいくつかの世代に共通。




わたしはひょっこりひょうたん島じゃなくて、プリンプリン物語、人形劇三国志の時代でしたが、




ふとこの映画を見るたびに、小学校時代のことに思いをはせることができます。




小学校のときになにをしてたっけ?という気持ちになれる映画ってそんなにありませんよね。




これが「日常生活のエンターテインメント化」だと思います。




丁寧に日常を描いた上に、もうひとつどんなスパイスを振り掛けるか。




これでその映画はその人の心に残ります。これがジブリ作品が長きにわたって愛されてきた淵源ではないかと思います。



例えていえば、コクリコ坂は、丁寧に日常を描いているのですが、トトロでいえば、お母さんにとうもころしをネコバスに乗らないで届けたようなものというとわかりやすいでしょうか。


これは、小売業の売場もまったくおなじです。




ふだんの生活でつかう日用品は生活必需品(コモディティ)とも言いますが、それを並べるだけ、提供するだけでは面白くありません。その中にどれだけエンターテインメントを持ち込めるか。




これがお店の価値ですよね。