ワンコイン検診のケアプロ社長、川添さんから、
「被災地での生活習慣病の早期発見&予防のための検査活動の経過」についてのレポートが届きました。
ケアプロさんは、「被災者をNPOとつないで支える合同プロジェクト(つなプロ)」の一員として、被災地に看護師を派遣しています。
避難所生活は、不眠、栄養の偏り、運動不足によって高血圧や糖尿病などの慢性疾患の進行が懸念されていました。
地域や近隣、ボランティアで集まってきた医師、看護師の方だけでは対応しきれないのが現実です。
そこでケアプロさんは宮城県内7ヵ所で避難所で実施可能な自己検査キットを用いて、延べ453名の方に対し、HbA1c(糖尿病)やアルブミン(栄養状態)などの検査を実施しました。
避難所ごとの結果を、同所内の診療所、近隣から往診する医師に伝え、必要な方には診察、処方をしました。
同報告には、現状の課題と改善結果が記されています。
たとえば現状では、
血圧は、収縮期・拡張期ともに要受診・要注意が一般平均よりも16-24%高く、「不眠」「ストレス」「運動不足」「食事の塩分過多」などがその原因として浮き彫りとなりました。
糖尿病も年代が高くなるにつれ要受診・要注意が増える傾向がありました。
そこで、現状把握をもとに、食事、運動などの改善活動を行った結果、
糖尿病は要注意が60%から39%に、血圧も収縮期血圧の要注意が50%から31%に改善、拡張期血圧も58%から31%に改善したそうです。
改善の結果自体も素晴らしいのですが、
わたしは、この報告のもっとも重要な点は、
「定点検査」の大切さだと考えています。
「定点検査」は「定点観測」とも言い換えられます。
「定点観測による問題の早期発見」、これはビジネスでも大切ですね。
わたしの知っているある先生は、米国のウォルマート、日本の西友さんの売場をずっと「定点観測」しています(アメリカは20年、日本は10年くらい)。
「定点観測」をすれば必ず「差異」が生じます。その「差異」にどのような意味があるのか。これを考えるだけで、取引や売場づくりなどにおいていまなにが起こっているのか、大体のことが推測できるといいます。
話を戻しましょう。
長期にわたる被災生活、そして慢性疾患ということを考え合わせれば、定期的な健康診断が欠かせません。
また薬の投与後のモニタリングも重要です。
避難所に医師、看護師、薬剤師、保健師さんなどすべて常駐、あるいは定期巡回していただければいいのですが、
多箇所におよぶ避難所、また通常生活に戻った人々のくらしを考えれば、すべての方に定期健診を施すことは困難です。
そこで、外であっても検診が容易にできる「自己検診キット」の活用は、とても重要です。
ただ残念ながら、この「自己検診キット」の活用は、医師、薬剤師、厚労省、自治体、さらにその中にいる人によって賛否が分かれているのも事実。人の体を調べるという行為は、さまざまな法律が張り巡らされていて、解釈が異なっているのです。
よって、このような改善効果をもたらす「定点検診」も、非常時の特別措置だと考えて終わってしまう可能性も高いのです。
個人的には、今後の少子高齢化が進む地方都市において、自己検診による「定点観測」の場としてドラッグストア、薬局を活用するということは大きな社会貢献だと思います。
ですが、ドラッグストア、薬局でさえも、クリアしなければならない問題がたくさんあります。
制度疲労や組織の官僚化は、問題が起こらないよう起こらないようにして「してはならぬこと」の細則を積み上げていくことによってもたらされます。*言い方を変えると、「してはならぬこと」が「してもいい」人たちの既得権益保護になっています。
その結果、もっとも大事な、「健康診断を推進して、定点観測を行い、早期に問題を発見、健康生活を維持する=医療費の削減」という大命題がおろそかになってしまう本末転倒が起こります。
ケアプロの川添さんの話によると、健康診断の定期受診率は先進国の中でも非常に低いそうです。
国民皆保険の国であり、大企業、大組織勤めをしている人は実感しにくいかもしれませんが、全体で考えると、健康診断による定点検査の実績は実は非常に乏しいのです。
定点検査による早期発見は、これからの地域医療を考える上では非常に重要です。
人も、お金も、設備も潤沢にあるわけではありません。
制約条件下で最大の成果(医療費をかけずに健康生活を維持していくこと)を出す方法を構築する必要があります。
このケアプロさんの活動が現状の課題を解決していくひとつの突破口になってほしいと思います。