「時には決算の話をしようか」のファイナルです。




流通業の「生産性」を計る数値というのはいくつかあります。




代表的なものを挙げると、




1)スペース生産性(坪あたりの営業利益額)


2)人時生産性(一人の時間当たりの粗利益額)




になります。

あとは、商品の生産性(交差比率=商品回転率×粗利益率)。200%が、利益商品の基準です。


決算では、ROI(総資産利益率)、ROE(株主資本利益率)、という指標がメーンです。




ここでは、「一人当たりの営業利益額」という数値を拾ってみましょう。




これは、従業員ひとりあたりどれだけの営業利益額=(売上からすべての経費をひく*人件費も含む)を稼いだかという指標です。これは流通業のビジネスモデルを比較する上ではけっこう重要な指標になります。


*細かな注はありますが、ざっくり考えます。




まずは、先日のブログでも出した、食品スーパーのオーケーさん。


売上は2000億円を超えています。




営業利益額は128億1100万円


従業員数はパートアルバイトさん含めて 約2000人です。




そうなると、一人当たりの営業利益額は、


約640万円になります。




ちなみに厚生労働省の国民生活基礎調査(2009)によると、


世帯所得平均は、2010年推計で530万円です。(世帯人数2.6人、世帯数4800万)




オーケーさんは、一人当たり世帯所得平均以上を稼いでいる計算になります。

なぜこの指標を使うのかというと、儲けたお金で、どれだけ平均所得の人を雇えるかという、潜在雇用力を示すことにもなるからです(企業は社会保険など実際はこの倍近く負担しなければなりませんが)だから、オーケーさんなら少なくとも4000人以上の雇用力があるわけです。もちろん、内部留保、次なる投資の原資にしなければなりませんから、あくまでも参考指標です。でも一人当たりの給料を増やすか、雇用を増やすか、産業の社会貢献はこの2つに集約されるように思います。


これを基準にしてみていくと、




ドラッグストアの優等生サンドラッグさんは、




売上は3606億5500万円


営業利益額は、198億100万円です。


従業員数は、5014人(パートアルバイト含む)


*パートアルバイトさんは本来8時間換算の人数ですが、ここでは厳密にしていません。




一人当たり営業利益額は約395万円です。




ユニクロさんはどうでしょうか。




売上は8360億円(2011年通期予想)


営業利益額は1215億円です。


従業員数は1万2264人




一人当たり営業利益額は、990万円です。




売上2兆円超のヤマダ電機さんも大体同じレベルです。ユニクロさんの単価は服ですから500-4000円前後、ヤマダさんは家電ですから単価はその10-100倍です。でも一人当たりの営業利益額が同じになるなんて面白いですね!




通販のアスクルさんはどうでしょうか。




売上は1889億9100万円


営業利益額は69億1300万円


従業員数は769人




一人当たり営業利益額は、898万円です。




コンビニ最大手セブンイレブンさんは、




売上約3兆円


営業利益額は1691億5200万円


従業員数は 5729人




一人当たり営業利益額は、2952万円です。




こうして見てくると、




流通各業態のトップクラス企業は、世帯平均年間所得以上のお金を一人が稼いでいる計算になります。*残念ながらドラッグストアは達成していません・・




通販企業も、売上も営業利益額も少ないですが、ユニクロさん並みに稼いでいるということになります。流通サービス業の生産性アップのために、通販モデルは今後もっと研究されなければならない重要分野です。




コンビニは断トツに高いのですが、これはコンビニというモデルが、フランチャイズ方式による独立オーナー企業に商品とサービスパッケージを提供する「製造卸」というものだからです。




コンビニの実部分での一人当たり営業利益を出そうとすれば、平均店舗従業員(2名)×店舗数を足さなくてはなりません。*そうなると約568万円なので大体世帯所得平均になります。




ちなみにこれを異業種で比較するとどうでしょうか?




ざっくりですが、金融、IT、商社関連は大体平均5000万円、自動車、製薬メーカーなどの製造業は平均1500―2000万円くらいになります。




金融の生産性が高く流通が低いのは、その扱う対象の特性があります。


金融資産は一人で1万人分の資産を持つことが可能ですが、胃袋は一人で1万人分の消費ができない。服や靴だって100人分持つ人はまれです。




そのかわり、対象は一人ひとりでもマスで集めれば大きい。売上規模で言えばウォルマートは世界トップクラスの金融機関、自動車メーカー、石油会社に匹敵します。




しかし一般に言われることは、流通は生産性が低い、したがって給料も低いというのが「就活」の大学生でも常識なようです。




ですが、金融の高い生産性は本来社会に還元し、次なる産業育成のための原資として使われなければならない。*いまは国債を買う原資になっています。




メーカーは競争に生き残るために膨大な研究開発費にまわさなければならない。




メーカーは生き残りのために研究開発費に儲けを投じていますが、金融はどうでしょうか?次世代の産業育成のためにその高い儲けを回しているでしょうか・・。




流通はたしかに現状、他産業に比べると低い生産性になっています。しかし見方を変えれば改善部分、伸びしろが非常に高い分野とも言えます。*ドラッグストアはもっとも伸びしろが大きい!




すくなくとも、一人当たりの営業利益額を1000万円にもってくることができれば従業員の皆さんの給料が増えます。そしてこれは個人消費拡大の原資になります。




給料が増えることが一概に従業員満足につながるわけではありませんが、従業員満足を高める指標がひとつでもアップすれば、顧客満足も高まるのではないかと思います。




流通の生産性を高めるための情報提供、これは月刊MDに求められる最大テーマのひとつだと思います。