ユニクロの柳井正さんの『希望を持とう』を読んでいて、
あらためて「自分で考えて、行動し、その行動と結果に責任を持つ」ということの難しさについて考えました。
シンプルな真理です。でもこれをどれだけ自分はやり切れているか。
ユニクロには、「店長十戒」という柳井さん起草の文言が店舗に掲げてあります。
ざっと挙げてみましょう。
1)店長はお客様の満足実現のため的確な商品と隙のない売場づくりに命をかけろ
2)店長はサービス精神を発揮し、目の前のお客様のための全力を尽くせ
3)店長はだれよりも高い基準と高い目標を持ち、正しい方向で質の高い仕事をしろ
4)店長は鬼となり、仏となり部下の成長と将来に責任を持て
5)店長は自分の仕事に、だれにも負けない自信と異常なまでの熱意を持て
6)店長は社員の模範になり、部下と本部に対してリーダーシップをとれ
7)店長は販売計画を考え抜き、差別化と付加価値を売場で生み出せ
8)店長は経営理念とFRWAYに賛同し全員経営を実践しろ
9)店長はほんとうによい服をよい店で販売し、高い収益をあげ社会に貢献しろ
10)店長は、謙虚な心で、自分に期待し、どこでも通用する世界の第一人者になれ
この「店長十戒」はどんどん改定されるそうで、柳井さんらしい、てんこ盛りの内容になっています。
チェーンストアのもっとも戒めるべき組織問題は、本部の官僚化です。
生地の買い付け(生産地選定、品種指定まで含む)をおこなうバイヤーともなれば、扱う金額は巨大です。
これがバイヤーを勘違いさせる。
世界の優秀なチェーンはこの本部権限の肥大化と官僚化をいかに克服し、現場(売場)に権限を委譲していくかについて心を砕いています。
肥大化した官僚組織が、いかに機能不全に陥るかについては、いまの日本の政治官僚機構をみれば一目瞭然でしょう。せっかく世界から集まった義援金はいまだ、50%以上が眠ったままです。
あすから仕事をはじめたい、生活を再設計したい人、つまり現場で生きている人を支える仕組みとノウハウについては日本は実に乏しいのではないかと思います。
いままでは、ある被災地の水産加工工場を復活させるためには、用地を再度取得して、従業員を集め、補助金を申請して、設備を入れて、漁が復活してから仕事が再スタートする方法しかありませんでした。
*その用地取得のために、いろんな既得権が阻害しているという報道がありましたが、これを一からクリアしていくのでは遅すぎです。
いまは違います。現場ノウハウを持つ人が残っていれば、他地域にある水産加工センターをかりて、そのセンターを最新のノウハウを詰め込んだセンターとして育成します(ここに世界からの投資を集めます)。そして、そのセンターの価値を高めて、多くの食品スーパーマーケットが使えるような「プロセスセンター」になったとき、センターを自社に組み込みたい流通業に売ります。
売ったお金を原資にして、地元の雇用を生む復興のための水産加工センターを再度つくればいい。
この方法は、ニトリさんで行われた方法のアレンジバージョンです。
現場の発想と人材、ノウハウから積み上げて、自身の価値を高めてリアルビジネスに落とし込んでいく方法です。
ひところ流行った大企業の社内ベンチャー制度と似ていますが、大企業における社内ベンチャーの成功例が少ないのは、やはり、「現場力」をプロフィットセンター(利益の源泉)と考えていない風土にあるような気がします。
それにしても、
「店長=世界に通用する第一人者」と定義する小売りチェーンはなかなかありませんね。
これは柳井さんの危機感の裏返しなのでしょう。
ユニクロは、社員ののれん分け制度があります。わたしもかつて取材させていただきましたが、
「スーパースター店長制度」といって、店舗のフランチャイズオーナーになるものです。年収は1000万円以上に跳ね上がります。そのぶんリスクをとらねばならない。
この制度、導入されて十年以上経つのですが、現在までに従業員から独立したのは9人。つまり1年に一人でるかでないかという確率です。
ユニクロには世界に1000人ちかくの店長がいますが、ちょっと意地悪な見方をする人は、柳井さんが理想形とする店長は、100分の1しかいないと言います。
でも、わたしは、そういうものなのだろうなと思います。全員がスーパースターになれるわけではありません。でも9人とはいえ、10年以上かけて理想形を生み出しているわけです。
人材は短期育成などできません。「地獄の訓練」とやらで、鬼軍曹をいくらつくったところで、指揮官が盆暗なら、かつての日本軍です。そういうオーナーはけっこういます。
「民族大移動」戦略(本部スタッフの半分を外国籍にする)も「FRMIC」(一橋大学とのコラボ)も中長期の人材育成を考えたものですね。
店舗現場をいかに人材輩出のプロフィットセンターにするか。これは小売業の永遠の課題でしょう。
店舗が人材輩出のプロフィットセンターとなれば、どんな場所でも、残った手元資源を生かして、新たなビジネスを生むことができるのではないかと思います。