先日のブログで紹介したリゾームさんの主催したセミナー「震災緊急未来対策ミーティング」の中で、

RBKの飯嶋さんが紹介したお話には大変感銘を受けました。


ダイドーリミテッドの前身会社である紡績会社は関東大震災にあって、工場も帳簿もすべて失ったそうです。


その中で、創業者は残った社員たちになんと言ったか?


「記憶の限りの負債を書き出せ」と言ったそうです。


つまり「債権」よりも「負債」を優先させたのです。


ふつうは逆でしょう。すこしでもキャッシュの回収に走るのが危機の常道です。


ところがこの会社は、「負債」返還を優先した。


これが取引先の信用につながり、後の発展につながったといいます。


並みの器量ではこんなことはできないでしょう。


この話をきいたときふと、近江商人の家訓を思い出しました。


「三方よし」で知られる近江商人の知恵は、商業に携わる人にとって、いまの時代とくに大切な灯になるような気がします。


近江商人の一人外村與左衛門の家法書には「心得書」があり、


その中には、


「商品の値が下がる前に売りきってしまって上手く売り逃げたと喜ぶのは心得違いである。買い手は高く買わされたのだから懲りてしまう。売った後で値があがってお客に喜んでもらうのが商人の心得である」とあります。


たしかに値上がった利益の可能性を捨てているのですから「損」です。でも顧客が喜べば長い取引ができ、将来の楽しみも増えます。


一取引ごとの利益を実現して極大利益を追求する考え方ではなくて、長い目で見て長期的経済合理性の原理に立つのが近江商人の理念であり、知恵なのです。


「負債」を優先したお話もここに淵源があるような気がします。


故渥美俊一先生は、戦後商業にアメリカの近代的チェーンストア経営理論を導入した人として知られていますが、ご自身も松阪商人の末裔であり、近江商人をはじめ江戸期の商人道を深く研究しておられました。


一見、相反するように見える2つの知恵を融合させたのが、渥美先生が終生変わらぬ恩師として慕い続けた倉本長治先生という人です。


わたしもその一端をかじった人間として「商人道」の研究は欠かせないライフワークです。


震災後の混迷を見るにつけ、「商人道」と「科学的経営」はどちらが欠けても、今後の商業は成立しないと思います。


月刊MDもこの2つの視点を大事にしていきたいと思います。