我が家は古い公団の10階にありまして、
大震災時、やはり本棚がやられました。
余震冷めやらぬ中、飛び出た書籍はとりあえず下に積んだまま状態になっています。
その中で、目に留まったのがこれ。
軍事史関連は、かつてその道に進みたいなあと漠然と思った時期もありましたが、
いまは趣味的なレベルでしか読んでいません。
この本も、もうなんども読み返した本なんですが、
最近の原発の大本営発表が続く中、あらためてぱらぱらめくりました。
「インフォメーション」と「インテリジェンス」をテーマにしたものは、
「失敗の本質」や最近は、佐藤優さんにも好著がありましたが、
小谷賢さんのこの本は、類書の中の白眉だと思います。
わかりやすく言えば、前者は、ただ集めてきた生情報やデータのこと
後者は、分析、加工された情報のことです。
インテリジェンスの分析、評価は、インフォメーションの断片をつなぎあわせて、インテリジェンス=(情報)を生み出す過程です。よってなにが価値があり、ないのか、時間的、属人的などあらゆる角度から膨大な断片を選び取っていきます。
この分析は高度な専門技術と経験が求められます。
日本軍は、暗号作成、解読などすぐれたインフォメーション解読能力を有しながら、
「インテリジェンス軽視」「長期的視野(大戦略)の欠如」「セクショナリズム(責任転嫁)」によって、
情報戦に敗れました。
著者はこのキーワードを手掛かりに、太平洋戦争を丁寧に分析しています。
日本軍は、けっしてインテリジェンス能力に劣っていたわけではありませんでした。
しかしそれはほとんどが、軍事情報の分野や作戦計画に対応するものでした。
総力戦や大戦略のレベルになると対応しきれなくなったのです。
総力戦や大戦略のレベルの情報分析には、経済、産業情報や相手の文化、国民性などトータルな観点からの視点が必要であって、そのような大局的視野にたった分析スタッフは当時圧倒的に不足していたのです。
「坂の上の雲」の主要人物のひとり明石元二郎はインテリジェンス分析能力に優れた軍人として知られています。ロシア人社会に入り込んで、その社会情勢の大変化(ロシア革命)をつかみ、日露戦争の長期化を防ぐ策を講じたことが知られています。
太平洋戦争期のリヒャルト・ゾルゲ博士も、日本軍の開戦時期というインテリジェンスをつかむために日本人の深い特性をあらゆる面から分析したことが知られています。
政治のことはあまり言いたくないのですが・・、
大本営発表と、断片的なインフォメーションに群がりなんの分析評価もなく垂れ流すマスコミ、テレビほかで見かける専門家という人種を見るにつけ、
まさしくインテリジェンス能力の欠如が事態を刻々と悪化させている気がしてなりません。
情報を受け取る側のほうも、まさしく情報処理能力の欠如のために、断片的インフォメーションをもとに、水を買い占めたりする行動に走ります。これは日本人の精神的風土にもかかわっています。
いまだにこの国家的危機という状況の中で、一省庁の一機関と民間会社という「平時組織」が現場対応しています。
これもインテリジェンス能力の欠如の最たる例です。
国民の命、健康、経済を守るためになにが必要なのかという「大戦略」がなく、それに基づいて施策を打てる命令系統がないのです。
こういった指摘はインターネット上ではちらほら出てきていますが・・。もっと大きな声にしていかないと、本当に危うい状況が今後の日本を覆います。