月刊MD編集長(2代目)のブログ

梅がちらほら。

東京は暖かな日が続いています。



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桜も好きですが、梅は菅公ゆかりで、こちらも好きですねえ。

立春過ぎて急に、春のにおいが立ち込めてきました。


ピーンと張りつめた空気から、この緩んだ、生々しいにおいへの転換はなんともいいですよねえ。


あるカタログだったと思うのですが、

漆芸の人間国宝だった松田権六さんによる梅花絵図の万年筆に一目ぼれして以来、NAMIKIの梅花蒔絵の万年筆がほしいのですが、なかなか手に入りませんねえ。さすがに高いです(笑)。


土曜の朝は、図書館へ。



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図書館で、松田権六さんの「うるしの話」を久しぶりに手にとりました。

第一部の漆と漆芸の話ももちろんですが、第二部の自伝がすこぶる面白い。


中でもお気に入りのエピソードは、


若き日の松田権六が日本の郵船会社の欧州航路客船の一等船室に漆を使わせてくれと頼んだところ、


郵船会社は、


寒暖差の激しい地域を通過する長い船旅で、とくにインド洋のすさまじい蒸し暑さの中、漆なんてかぶれるし、剥げるし、そもそも材料費も高いなどいろいろ並べて8項目の「拒否」理由を挙げて突き返したところ、その8項目について反駁し、なんとか2対の扉を漆で装飾した。


結果、漆を使わなかった扉は、渡航中2度も塗り替えを余儀なくされたが、漆の扉は一度も剥げることなく、出航前のままであった。


しかもその漆の扉は、各国の寄港地で絶賛された。


松田権六は、会社の予算内のお金しかもらわずに、見事な蒔絵を施していた。図柄は藤の花が長く垂れている下に蛇籠がある日本調。


若き日の松田権六は、この仕事を通して西洋人に漆の美を喚起させ、近代生活に漆芸の新しい分野を開拓しようと考えていたのだ。


この若き野心は、見事に当たった。フランスや英国などの一流の船会社が、漆を船内装飾に採用しだしたのである。


この話は、後日談がある。第二次大戦後、フランスの船会社は「敗戦後の日本でマツダは困っているだろうから、彼と彼の家族をひきとって面倒見たい」と申し出たという。


いい話ですねえ。


でも松田権六のすごいところは、当初船会社が突き付けた「漆を採用しない8項目」を、漆芸家は生涯の戒めとしなければならないと考えたところです。


ちょっと挙げてみますね。


1)漆はかぶれるからいけない

2)漆は熱風や潮風に耐えないからいけない

3)漆の採用は係員の増員になるからいけない

4)漆は繕いが目立つからいけない

5)漆は高くつくからいけない

6)漆の作業は時間がかかるからいけない

7)漆は造船界にいまだ実例がないからいけない

8)漆の技術養成は至難だからいけない


粗悪な材料を使えば当然、かぶれたり、熱風に耐えられない。

ひとたび加工技術を誤ればはがれ、二度と仕事の依頼はこない。

作業計画を綿密に立てなければ、期限に間に合わない・・。


これってすべての仕事に通じると思います。

置き換えてみましょう。


・まがい物じゃなく、本物の材料を使うこと

・加工技術(プロセス管理)こそ仕上げ(結果)に差がつく

・無駄なコストをかけるな

・後始末より前始末

・予算内、時間内でやることも腕のうち

・先例のないことに挑戦せよ

・己の精進だけではなく、後進の育成ができてはじめて一人前



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図書館のエントランスには大谷石が使われています。

旧帝国ホテルをつくったライトのお弟子さんがつくった建物だそうです。


さて、よい週末を過ごしましょう。