昨晩、ときどきテレビのコメントもやってる知り合いのアナリストから問い合わせメールがきていました。
「ユニクロをどう見るか?」
これは難しい。相手は数字分析のプロなので、数字を挙げて例証することは、まさに釈迦に説法。
「数字分析ではなくて、現場からわかる情報がほしい」
店や商品をみてわかることは限られていますが・・。ほんの雑感程度で。
1)客数も落ちている
本部から送られてくる月ベースの客数も既存店はやはり落ちています。年末年始もやはり見た目の客数が落ちているかんじがしました。あとは購買点数も下がっているのでは・・。
おととしの年末は商品をみなさんかごいっぱいにしてレジに並んでいましたが、昨年末、年始は半分くらい。もっと言えば、レジで待つのも少なくなった気がします。品質があがって耐久性も向上しているという理由もあるのでしょうか。
2)デザイン志向が原因?
柳井さんが、既存店の売上減要因のひとつを「デザインに寄りすぎ」という話をしていましたが、たしかにユニクロの強みは「ベーシック」による客層拡大なのですから、これはベーシックのヒット商品がヒ―トテック以降育っていないことの裏返しですね。
回転率の高い商品(季節性、デザイン性の高い)を逐次投入して、売りきっていくファストファション系とはこのあたり異なります。アンダーや、部屋着、靴下など季節性を問わないスパンの長い商品に技術革新をおこなって売っていくのがユニクロです。
3)ユニクロはファストファッション企業ではない
ZARAやH&M、フォーエバーのようなファストファッション企業とよく混同されますが、ユニクロは一部ファスト系商品もありますが、基本はベーシック。
でも広告手法などは派手で、消費者からはファストファッション系にも見える。この広告含めた店舗外情報発信と店頭のイメージ、情報発信力にギャップが生じていることも考えられます。意外とこれって溝が深いのでは・・と思います。それが柳井さんの先ほどの発言につながってくるのではないかと・・。
4)いままた過去の成功体験を乗り越えられるかどうか
ファストファッション系企業や他専門店と商品やコーディネーション、プロモ比較をするのは、まあファッション関係者にお任せしますが、「ベーシック=客層拡大路線」が今後も競争優位を保つビジネスモデルになるかどうかは、注視しなければならないでしょう。つまり過去の成功体験を維持するのか、乗り越えるのか、ということです。しかし成功と踊り場のサイクルが短すぎますね。これはユニクロに限ったことではありませんが・・。
以上のようなことを踏まえて、
5)ユニクロは短期的には苦しむかもしれない
価格戦略に走らないのは、売上維持もあるが、低価格以外の要素でユニクロのよさをどう発信していくかという模索をしているのでしょう。いまのところ海外市場へのフラッグシップ店舗戦略とネットをつかった海外の潜在顧客へのブランディングは成功していますがが、日本市場をどう再構築してくかは、まだ見えてきません。
6)カローラ戦略は今後も有効なのか?
ユニクロはメーカー、商社と組んで最先端素材をつかって品質向上に努めました。「低中価格帯での最高品質」という戦略があたってヒ―トテックにせよ他の追随企業が続出しましたが、断トツの売れ数を誇っています。つまりユニクロはかつてはカジュアル衣料の主役であった百貨店や総合スーパー、衣料スーパーの衣料品売上を奪って成長しましたが、いまや追われる立場になっています。
この「低中価格帯の品質向上」というかつての日本メーカーのお家芸、トヨタのカローラのような方法、つまりスピード、性能、デザインの向上を価格の高さに比例させるのではなく、100万円のカローラを技術革新によって、かつて300万円クラスでしか得られなかった性能やラグジュアリー感を向上させることが今後も通用するのか(とくに日本で)見たいですね。これは、4)の成功体験とのたたかいですね。
7)ただ中長期には踊り場を抜けて発展する可能性が高いのでは?
その理由は、これまでの同社の歩みがそうであったように前年度の高い既存店実績を超えるというこのハードルの高さが組織能力も格段に高める可能性もあるからです。もちろんその逆もあり。海外出店とも連動した人材開発戦略もグローバル化が進み、これが悪く言えば日本的温室組織風土の中でどれだけ風穴を開け、相乗効果を発揮するのか注目しています。小売流通業の中では、ある意味未知の領域です。その意味で、同社の突破力、新しい価値をつくっていきたいというアグレッシブな動きは期待しています。
8)スター頼みの経営から脱却できるか?
最後にやはり柳井さんというスター経営者とヒット商品に依存しない組織人材開発がいかにできるか?小売りのスター経営者はカリスマが多い。ダイエーの中内さん、セゾンの堤さん、セブンの鈴木さん、セブンイレブンは小売業の産業化を達成したエポックメーキングですが(零細よろず屋の集合体でそれまでのメーカー主導流通から小売り主導にチェンジさせた)、多くの小売りチェーンはよくもわるくも個人商店の延長でした。
柳井さんは常に尋常ではない危機意識を持たれている人で、周囲にも常にチャレンジャー、戦う集団であることを求めます。安住したがる人を極端に嫌います。
わたしにはそこがほかの小売りには希薄な同社の魅力のひとつだと思っていますが、さて、こういった支持を広げ次なるステップにつなげられるか・・。合わない人も当然いるわけで。こういうメンタルな雰囲気というのも後々影響してくるような気がします。
あとは
9)周辺産業が発達する素地を作れるか?
というのもあったのですが、これはえらい長くなるのでいつかの機会に。