ぺらぺらめくり読みしていました。
この気軽さがベストセラーの秘密ですね。
奥付を見たらちょうど1年前のリリースなんですね。
1年で27刷はすごい!
出版人のひとりとすれば、本もご多分に漏れずライフサイクルが短くなっていくなかで、1年間じわーと売れ続けるというのはほんとたいしたものです。ロングテールというほどでもなく、書店からすれば年間フル出場の強打者というかんじですね。
まずデザインがいいですね。黒地の白抜きのさりげない文字。むかしのフランス映画みたいです。
中の文字も小さい。最近は出版社側が気をまわして「文字が小さくて読みにくいのはだめ」ということで大きな活字が多かったりしますが、商品特性によっては、小さくても売れるんですね。
さて、いくつも琴線に触れる言葉がありましたが、
きょうは、「独創的になるためには」を。
こうあります。
「まったく新しい突飛なものを見つける特殊な嗅覚をもつ人が独創的なのではない。すでに古いとみなされたもの、だれでも知っているようなあたりきりなもの、多くの人が取るに足らないと思って安易に見過ごしてきたものを、まるでとても新しいもののように見直す眼を持つ人が独創的なのだ」。
これって小売りの極意ですよね。
すぐれたバイヤーさんやマーチャンダイザーさん、販売員さんほど、「どうです、この商品すごいでしょう?わざわざ見つけてきたんですよ」とは言いません。この人すごいMDだなあと思う人ほど「こだわりの品揃え」と言わないんです。愛知県半田市にあるイシハラフードさんは、日本のエクセレントスーパーの最高峰だと思いますが、石原社長は「こだわって仕入れました」という言葉は使いません。「お客様の食生活が健康的で楽しくなる品揃えを実践しているだけ」と言います。でもイシハラさんにいくと、発見だらけでついいろいろ買ってしまうんですよねえ。
ドラえもんの単行本はどこでも売っていますが、ヴィレッジバンガードにあると「今さらドラえもんかあ」と思っていた大人が思わず買いたくなってしまいますよね。イシハラさんで買物するとこんな感覚です。もちろんここでしか買えないものもたくさんあります。この絶妙なバランスがすごい。
わたしの恩師のひとり加藤夕紀子先生は、この達人です。地方百貨店の最高峰と言われる京急百貨店のMDと顧客組織を担当し、その後三井不動産に移られ、ららぽーと4兄弟(横浜、ラゾーナ川崎、柏の葉、豊洲」のコンセプトメイキングと顧客調査を担当。この厳しい経済環境の中で、ららぽーとは好調です。
横浜郊外上大岡にある京急百貨店はなんの変哲もない電鉄系百貨店です。ところが百貨店は5年以上にわたって対前月比売上クリアという偉業を達成しています。その秘密を知ろうと、さまざまな業界人が見にくるのですが、多くの人が首をかしげます。「メジャーなブランドがはいっていないのに??」「ふつうの店だねえ」・・たいていはこういう感想。
百貨店やショッピングセンターMDをイコール「有名ブランドを調達すること」や、「駅弁フェア」「物産展イベント」と思っている人は、この百貨店のすごさはわからないでしょう。
この百貨店は元々横浜に高島屋さんなどがあり、化粧品はじめ、アパレル含めていわゆる百貨店ブランドと言われるものは入れることができませんでした。そこで加藤さんは、地域の生活を徹底調査し、日常生活をサポートする百貨店を目指しました。
この調査の方法がすごい。いわゆる広告代理店さんがやっているようなグループインタビューではなく、地域消費の核となりそうなライフスタイルを持つ方とお友達になって、家に上がりこみ、冷蔵庫から書棚、洋服ダンスの中まで徹底して調べ上げる(笑)。使っている食器、調理器具、寝具などなど、「ほんとうの生活」から衣食住の売場MD、テナントリーシングを組み立てるのです。「定量ではなく定性の部分から全体の流れを見抜く」方法です。
たとえば手芸売場でも、通常百貨店は、編み物、刺繍など全分野の基本商材だけで構成されます。ところが京急の周辺は、編み物の先生や刺繍のサークルなどがたくさんあることがわかりました。つまり手芸のさまざまなフィールドで長いキャリアのある消費者がたくさんいたのです。こういう人たちがすぐそばにいるのに、幼稚園ママ向けの初心者対応売場しかつくれないのであれば、お客様はつきません。
そこで京急はその先生や生徒さんたちが使ってもらう売場をつくろうとしました。「オーカスクラブ」という地域在住のライフスタイルをけん引するパワーのあるお客様が得意分野の先生になって地域のお客様に教えるというサークルを組織しました。そしてみんなで売場をつくっていこうという「文化」とそれを支える組織体制を生み出したのです。これがららぽーとにも受け継がれ「ララクラブ」という活動につがっています。
ららぽーとのメイキングコンセプトも同じです。お客様の生活、活動がMDとリーシングをサポートするのです。なにか特別な生活を演出するのではない、日常生活そのものがエンターテインメントになることを目指しているのです。
おもしろいのは、京急百貨店では、創業記念日にお客様主催で店舗の誕生日を祝う会があるそうです。これを仕掛けたのも加藤さんと加藤さんを見出した伊勢丹出身の神田社長(当時)です。店舗の誕生日会なんてすごいですよね。
以前、加藤さんとつくばでお仕事をさせていただいたことがありました。つくばは研究学園都市として有名ですが、そこでどんな生活が営まれているか、まったく想像がつきませんでした。
ある住宅街に行ったとき、「オープンガーデン」という文化があることがわかりました。ガーデニング好きな主婦の方たちが、自分のお庭を公開してお茶やお菓子などを提供して、ガーデニング談義に花を咲かせるイベントです。週末には300人もの人が訪れるそうです。彼女たちは仲間で本場の英国までガーデニング見学の旅行にもいきます。英国はオープンガーデンの本場でもあり、イエローページというガイドブックまであるそうです。そこで彼女たちも日本のあちこちで「オープンガーデン」をやっている人たちと交流しています。実はここに来るまでは、失礼ですが、つくばはずいぶん無機質な街だと思っていました。でも知らないところで素晴らしいコミュニケーション文化があることを知ってびっくりしました。
実は、このときはつくばにあるホームセンターのガーデニング売場比較調査とのカップリング取材でした。この主婦の方たちも、ガーデニング用品をいくつかの店舗で買っていくのですが、ある地域ナンバーワンの客数を誇るホームセンターの売場には造園職人OBが丁寧に専門的な指導してくれるのですが、日本庭園出身なので、ちょっと利用しにくかったそう(笑)。でも元プロが売場にはいって、専門知識を生かすという試みは素晴らしい。ガーデニング篇は、彼女たちをパートで活用すればいいのです。そう提案したら、さすがに忙しくてNGでしたが(笑)。
でものちに加藤さんがつくばにショッピングセンターをつくるとき、彼女たちが家でできないガーデニングをしてもらうように仕掛けました。それは白バラ一色のウォールだったそうです。花は人を呼びます。とくに日本人は春から冬まで花を見に出かけますよね。「ボタニカルMD」は実は物産展なんかより数倍人を集めます。
このイベントはガーデニング好きな人たちが集まり、ガーデニングをしたことがない人たちにもインパクトを与えました。なんと言ってもこの素晴らしいバラをつくった人たちはつくば在住なのです。つくばにこんな素敵なことをやっている人がいるのかという発見によって、「わたしもやってみたい」と思うでしょう。これが地域を活性化させる「日常生活のエンターテインメント」ではないかと思います。
加藤先生とは定期的にランチョンで情報交換させていただいておりますが、いつも新しい発見と視点を与えてくれます。これもニーチェの効用ですね。