第四話
「前から、好きでした!」
彼、滝川は恵に告白した。
返事は…………、
「え、えっと……あの、その……」
戸惑いながら、恵は俺の方をチラッと見た。
俺には分からなかった。アイツの気持ちなんて。
「す、すみませんッ!」
恵は、そう言い、その場をさった。
「め、恵ッ!!」
俺の声は届かなかった。
――雨は、人の心を癒してくれることがある。そして、場合によっては人の心を、潰してしまうこともある。
あの日、滝川が恵に告白した日をさかいに、アイツは学校へ来なくなっていた。
こうなることは分かってた。アイツはそう言った。でも、やっぱり、好きなフラれるのは辛いことなのだろう。俺も恵が男だと知り、ショックを受けた。好きな相手が男だったから。初恋の、相手が……。
滝川と同時に、恵とも最近あっていない。多分、アイツも学校に来ていないのだろう。
ザァァァアアアアア!
教室でボーッといつものように座っていると、雨が強くなり始めた。
……どうしてだろう。自分一人が、この世界から取り残されているような気がする。
学校が終わり、雨の中ずぶ濡れになりながら帰る。
寒い。そんな感覚があるだけでもましなのだろうか? 何故、俺だけ何もないのに、こんなに辛いのだろう。
――雨と同時に、消えていけばいいんだよ?
声が聞こえた。
その『声』が聞こえると同時に、
バシャ!
聞こえる音は、雨の音よりも激しく、俺を痛々しく包み込む、
ガチャンッ!!
駄目だ……、これは……!!
俺の頭の上には何か、変な黒いヒラヒラとしたものがあった。
「死にたく……ないッ!」
俺の意識は、とんだ――
どうやら、俺は自転車に轢かれたらしい。それで、頭を、強く打った……。一瞬死を覚悟したのだから、脳だけというのは軽いほうなのだろう。
しかし、俺は、心に傷を負った。死よりも深く、悲しいものを背負った。
そうなっても、恵のことは、忘れない。
俺は、恵のことが好きだ。
男だからって関係ない。
俺は、恵の全てが、好きだ!
最終話
俺は、感情がなくなった。何もない、俺の中には。
しかし、俺の中に、1つだけ残っている物があった。それは――
「恵……」
力のこもっていない声で、ある人の名前を言う。
それに答えるかのように、俺の手に手を重ねてくる者がいた。
「士郎さん、どうしたんですか?」
オレンジ色の髪が目に飛び込んでくる。綺麗だな、そう思うことも、今の俺には出来ない。
「恵……顔を、よく見せてくれ」
「……はい」
事故から早5年。恵は俺の看病を、ずっとしてくれている。ホントに……ホントに……。
「あ、れ……?」
俺は時々、何も感じないのに涙が出ることがある。何故だろう。
「恵、俺は、お前のことを……」
そう、俺の心には、感情が死ぬ前に強く思ったことが残っていた。
恵を……
「ずっと」
ずっと。
「好き……だった」
そう言い切った瞬間。俺から消えた、全てものが、一瞬だけ俺の中へ帰ってきたような気がした。
いや、絶対に帰ってきた。
両親や恵、滝川やクラスメイト達。ありとあらゆる俺の今までに見た顔が、走馬灯のように蘇ってくる。
そして横には、
「ウチもやよ! 士郎さんのこと、好きやよ!!」
5年ぶりだ。こんなに、こんなに嬉しいと思ったのは。
恵……みんな……ありがとう。
俺の意識は、まるで、あの時、恵と初めて出会った時の優しく地面へ落ちる雨のように、優しく、消えていった。
「士郎……さんッ!」
幸せだった。本当に、幸せだ。
終