仲間内で居酒屋に入る。


「お飲み物は何にします?」


店員が聞く。


「じゃあ、オレはビール」


「僕もビール」


「私はレモンサワー」


てな会話になる。


そして、当たり前のように飲み物が運ばれて来る。


「ビールはどちら?」


「あ、ビールはオレ」


「僕もビール」


「レモンサワーはこちらでしたね」


なんて会話が、何の変哲もなく行われる。


しかし、これをこのまま外国語でしゃべってしまうと、この人の頭は大丈夫かと思われても仕方がない。


何故なら、僕や私は人間であって、ビールでもレモンサワーでもないからだ。


といったことが、金田一春彦著『日本語の特質』には書かれている。



例えば、新聞の求人広告。


「経理   事務経理多少 固給15万 隔土休 社保完 歴持 委細面談」


これは、

経理が多少できる経理担当事務員を募集している。

固定給は15万円。

隔週の土曜日が休み。

社会保険は完備している。

履歴書持参のこと。

詳しくは会って話しましょう。

ということを表している。


これだけの内容をこれほど簡単に書けるというのも、漢字があるからこそであろう。


これをローマ字で書こうと思ったら、こうはいかない。



金田一春彦先生が小学生だった頃、地理の時間に地勢図なるものを使ったらしいが、高いところが茶色に、低いところが緑色に塗ってあったそうだ。


ところが、山は緑で平地は茶色だからと反対に塗ったところ、先生から書き直せと叱られたらしい。


当時は不満に思っていたものの、大人になって世界を旅すると、大体が山に木がないことに気がついた。


そして、日本の自然は特別で、植物が多いことがわかったという。


そういう自然環境も影響しているからか、日本には、「咲く」「散る」「枯れる」といった植物に関するいくつかの言葉がある。


海外では「咲く(bloom)」はあっても、「枯れる」は英語ではdie(死ぬ)、フランスのシャンソンの「枯葉」はフランス語では「死んだ葉」と言うようで、「散る」「枯れる」という侘び寂び表現はないようだ。


だから外国人は、日本の大学受験の合否通知電報で、「サクラサク」はどうにか合格だろうと思っても、「サクラチル」は何で死ななきゃならないのかと訝しく思うに違いない。


因みに、北海道大学の不合格電報は、

「ツガルカイキョウ ナミタカシ」。


これがわかったら一人前、不合格にするのは惜しい気がする。(笑)


MonoMax Webより


日頃、何も考えずに使っている日本語だが、改めて事細かに解説されると、日本語は大変合理的なようでもあり、多彩な表現を併せ持つ「良妻賢母(良妻兼備)」のような言葉であるように思えてくる。


噛めば噛むほど味が出るのが日本語、そういう言い方もできそうだ。



さて、ここは日本である。


それなのに、日本に来て、

「ワタシ、にほんごワカリマセン!」

では困るのである。


こちらも困るし、本人も困る。


カタコトでも日本語を喋ることができ、そば屋では「ワタシはざるそば」、試験に仮に落ちても「チッテシマイマシタ」くらいは言えるようにならないと、日本にいてもきっとつまらない筈。


折角なら、もっと日本語を楽しまなくちゃ。


それなのに、いつまでも「にほんごワカリマセン」で居続けるなら、早めに自国にお帰りになった方がいいように思う。


そうでないと、どこかに生活の歪みが出来、良からぬ方向に走らないとも限らないから。