この眺めを見るだけでも、またここに来たいと思った。
「ブリサマリナ(Brisa marina)」、スペイン語で海風を意味する温泉施設には、その名のとおり海風を感じながら、空、海、庭を一望できる露天風呂がある。
湯船に浸かって景色を眺めれば、時を忘れ、雑踏を忘れ、下手をすると明日のゴルフのことまで忘れてしまいそうな、心地よいひとときを満喫できる。
この施設の1階が男性浴場、2階が女性浴場になっているのだが、世の常として上のほうが景色はいいだろうから、女性が優遇されていることは疑いようがない。
男性露天風呂 川奈ホテルHPより
翌日お世話になったキャディさんから、
「男性のお客様より女性のお客様の方が、景色に興味がお有りでしょ?」
と宥められたが、すぐに納得とまではいかなかった。
温泉宿でよく見かける、男女入れ替え制にしても良さそうなものだが、女性を大切にしているホテルの頑なまでの姿勢が、微笑ましくもあった。
伊豆「川奈ホテル」は、1936年開業の、食通やゴルファーたちを唸らせてきたクラシックホテルである。
川奈ホテル全景 川奈ホテルHPより
まだゴルフが出来るうちに、死ぬまでに一度は行きたいという強い思いから、今回大枚をはたいてやってきた。
本日ここに一泊し、明日「世界ゴルフ100選」に選ばれ続けている「富士コース」を回る予定である。
富士コースの名物ホール 15番パー5
15時のチェックインにはまだ時間があるので、まずは庭園を散策。
1月の寒桜から4月下旬の八重桜まで、何千本もの様々な桜が楽しめるそうだが、訪問した3月下旬は染井吉野、大島桜がちょうど見頃であった。
「サンパーラー」川奈ホテルHPより
ティールーム「サンパーラー」では、アフタヌーンティーとまではいかなかったが、ケーキとコーヒーをいただく。
相模灘を見渡しながら、優雅な時が過ぎていく。
「サンパーラー」のショートケーキ
川奈ホテルは1954年、ハリウッドスターのマリリン・モンローと元ヤンキースのジョー・ディマジオが新婚旅行で訪れたことでも有名である。
ジョー・ディマジオとマリリン・モンロー
滞在中に、マリリン・モンローが2度もルームサービスで注文したオムライスは、今でも当時の味で提供しているという。
残念ながらそのオムライスは食べるチャンスがなかったが、翌日の朝食のときにリクエストしたオムレツで、気分だけ味わってみた。
外はしっかり、中はトロトロの上品な食感。
川奈ホテルのオムレツ
朝食前に話は戻るが、この日の日の出は5時41分であった。
私のお気に入り「ブリサマリナ」は、日の出10分前の5時31分から入ることができた。
生憎この日の朝は靄っていたので、朝陽は拝めなかったものの、それでも言葉にできない爽快感は顕在であった。
それにしても、
「綺麗な朝陽を露天風呂から是非」
と、日の出10分前にオープンしてくれるホテルの心遣いが、兎にも角にも嬉しい。
マリリン・モンローとジョー・ディマジオの結婚は、たった274日であった…。
この8年後、紆余曲折の末、マリリンは36歳の若さでこの世を去ることになるのだが、自室から見つかった書きかけのラブレターはディマジオに宛てたものだった。
そして、マリリンがディマジオに贈ったプレゼントの置物には、
「大切なものは目に見えないんだよ」(星の王子さま)
と、書かれていたという。
一方ディマジオは、マリリンと別れて半世紀ほど経った1999年に他界。
最後の言葉は、
「死んだら、マリリンのところへいける」だったという。
川奈ホテルの思い出は、まだまだ語り尽くせない。
たった一日の宿泊と18ホールのゴルフだったが、努めて記憶に残したいと思った、世界でも数少ないホテルの一つである。