昨日は、メトロポリタンオペラのディーヴァ、アンナ・ネトレブコ主演の「アンナ・ボレーナ (ドニゼッティ)」を観に行ってきました。
質の高いクラシック音楽をこんなにも自由な雰囲気で、かつ無料で楽しめるのは、これぞNYっていう感じです。
NYの夏は、このメトロポリタンオペラのHDフェスティバルだけでなく、メトやNYフィルのセントラルパーク野外コンサートも無料ですし、モーストリーモーツァルトもあり、上等なクラシック音楽を身近に感じることができます。普通に生活の一部になっている感じなんですよね。
9月に入り、いよいよこれからクラシック音楽のシーズンも開幕です!とても楽しみ!
すでに、来年3月1日のウィーンフィルのカーネギーホール公演 (テノールがシュトラウスを歌う!) のチケットも買いました。
だがしかし、来年5月のキーシンのチケットはすでに売り切れ!!!買いたかったんですけどね。。。ここNYで、キーシンの人気はハンパないです!(実は去年も買えませんでした。2、3年前は公演半年以上前には買えていたのですが。トホホ。。。)
カーネギーホールのチケットオフィスの人が、「キーシンはねぇ、前夜から泊まり込んでラッシュチケットをゲットしようという人たちもいるんだよぉ」と言っていました。
これには驚きましたよ。すごい!ホロヴィッツみたいじゃないですか。。。(で、来年5月、私もどうやって泊まり込みを実行するか、今から悩み始めてしまいました。。。)
ところで、アンナ・ネトレブコの「アンナ・ボレーナ」です!このパフォーマンスについて、メンタルコーチとして感じたこと。
結論から言うと、ネトレブコはもう出来上がっています。そりゃ、メトのディーヴァを張れるくらいですから当たり前といえば当たり前なんですが。
強いて言えば、出産後に少々太り気味になり「ロシアの太っ腹母ちゃん」的ソプラノに変貌し、それと正比例するかの如く、声も前より太くなって、出産前のあの可愛い感じは忘却の彼方に行ってしまった感はありますが、それでもですね、「母は強し」でしょうね、カリスマ性は健在どころか前よりも増しているように私の目には映りました。
歌手として「声が太くなる」ということは、今まで何年も自分を支え続けてきた歌い方というのがありますから、その声の変化に対応することは簡単なことではありません。
ましてやメトのタイトルロールですからね、「一応楽譜通りしっかり歌える」というレベルではなく、周りの一流の共演者たちを音楽的かつ演技的にグイグイ引っ張っていけることが要求されますが、その部分について、その周りに好影響を与えるカリスマ性こそが彼女の持ち味になってきましたね。
「声の変化」に伴う発声上の問題というのは確かに少しは感じました。(発声技術だけなら、同じタイトルロールをメトで歌ったアンジェラ・ミードの方が上でしょう。でもオペラはそれだけではないですよね)
しかしそれは問題にならないくらいに彼女には人を惹きつける力があり、単なる歌い手ではなく「舞台人アンナ・ネトレブコ」の総合的成長が現れていたと思います。
昨日、オペラ歌手としての一つの完成をアンナ・ネトレブコに見たわけですけれども、あのレベルというのは、今の私などのレベルと比べると、イヤになるくらい、雲泥の差と言えるほど非常に高いわけです。。。。。
実際「メトを観ると自信が無くなる」と言っていた日本人歌手もいました (私じゃないですよ!)。
この「メトを観ると自信が無くなる」という思考は、メンタルトレーニング的に考えると、ゴールセッティング技法に解決の糸口があります。
その人の頭のどこかに「すぐに次のレベルに行ける (or 行かなければならない)」という考えがあるかぎり、その思考はゴールセッティングの5大原則、
Specific (具体的)
Measurable (計測可能)
Achievable (達成可能)
Realistic (現実的)
Time-phased (期間設定)
の中の、Time-phased (期間設定) やRealistic (現実的) という部分を満たしていないことになります。
歌手のことについてですので、あくまで声楽界限定の話かもしれませんが、欧米の声楽界は、とても長いスパンで歌手の成長を考えるのが当たり前となっています。
全米最大のメトのオーディションで優勝するような20代の若い歌手でも、プレカレッジなどで一流の声楽コーチから10年程度訓練を積んできて (実際、今現在マンハッタン音楽院のプレカレッジで正統なヴォイストレーニングを積んでいる12歳の歌手がいますね)、それでメトのオーディションでふるいにかけられ優勝しても、その後、地方の劇場でさらに5年程度研鑽を積み、メトで小さな役から入り、もっと伸びていけば、大きな役やタイトルロールまで辿り着ける人は辿り着けることになるわけです。
例えば、2007年のメトのオーディションを収録したドキュメンタリー映画「The Audition」の中の優勝者 (前述したアンジェラ・ミードもその一人) のアレック・シュレーダーは、パヴァロッティのナインハイCで有名なアリア (from 連隊の娘) を完璧に歌ってみせ、歌だけならすぐにでもメトでロールを貰って客寄せ的にいけそうでしたが、当時まだ25歳 (若っ!) の彼はそこから5年間地方の劇場で経験を積み、やっと今度の2012-13年のシーズンで「セビリアの理髪師」の主要な役でデビューします。
このような歌手育成についてのゴールセッティング「期間設定的かつ現実的」な考え方は、欧米と日本は大きく異なっているのではないでしょうか。
日本では、例えば、チャイコフスキーコンクールで優勝した歌い手はすぐに日本の最大手のオペラ団体のタイトルロールで歌ったりしますよね。(それとも、そこからもっと研鑽を積む場所が、日本最大のオペラ団体に該当するということでしょうか???)
とにかく、それが日本の「期間設定の現実」です。10代から20年の年月で「声」を捉えている欧米に比べると歌手育成のスパンが短いですね。
アメリカでは (といってもNYだけですが) 、音楽院の歌手たちの中では (10代のプレカレッジの歌手でさえ!) すでにプロフェッショナルな意識を持っている学生がいて、それ相応の声楽レベルを持ち、日本と比べて歌手の層の分厚さを実感することが多いだけに、歌手供給のシステム的に「長いスパン」を取りやすい環境にあるとは思うのですが。
とにかくですね、プレカレッジなどで10代前半から、メトロポリタンオペラなど超一流の歌劇場で歌ってきた声楽教師のレッスンを受け続けるような環境はない日本では、「期間設定」や「現実的」という定義が欧米とは違う意味で自分のゴールセッティングを行ってしまう可能性があるということです。
ですので、メトロポリタンオペラの超一流どころを聴いても、慌てずに、20年くらいのスパンで自分の声について課題を設定するのがちょうどいいと思うのですが。。。もっとも、良い声楽教師に付いた上で20年、ということですけれど。。。(なんかほとんど自分に言っているような気がしてきましたが?よっしゃー、慌てず頑張るぞ。これぞ Theセルフコーチ!)。

