--- ルネ・フレミング 『魂の声』 p. 72. 春秋社 (2006)
メトのディーヴァ、大ソプラノのフレミングの言葉です。
しかしですね、この『魂の声』という本、修行時代から音楽の仕事を得て、プロとしてのキャリアをどのように積んで行ったか、声楽の技術かつその裏にあるメンタルが詳しく書かれているので、音楽家、特に声楽家にオススメしたい一冊です。
メンタルコーチの立場から、また声楽家の立場から考えても、学べることが多いです。
「そのときどきのコンディションに左右されることのない、信頼できるテクニックを作りあげなければならない」
テクニックはテクニックでも、この「信頼できる」というのがミソで、本番時に自分を信頼できるテクニックを目指して音楽家は日々練習しているのですが、自分が完全に100%信頼できるテクニックに到達することはあり得ないけれども、できるだけそれに近づきたいというモチベーションが日々の練習を支えているとも言えるでしょうか。
音楽で「うん、これだ!完全に分かった!」などということは基本、無い、と思います (そう思うことは自由ですが)。だからこそ、逆説的ですが私たちはそれに少しでも近付くべく練習しているのですよね。死ぬまでに少しでも分かりたくて!
しかし、様々なプレッシャーがかかり自分の全てが否応なく表れる本番では、何かしら自分が「信頼できる」と思える何かを携えてないと人前で自分の思うような演奏はできません。または、舞台に上がることさえままならないこともあるかもしれません。
まだ何も知らない子供でない限り、シリアスな音楽家ならば、演奏する責任や実力を発揮できるかというような不安や恐怖は大なり小なり「常に」つきまとうものです。
ところで、あのフレミングでさえ、大抵うまく歌えない日であると言っているのですが、一般の観客とか、歌い手でない音楽家とか (特にピアニスト!偏見?)、「簡単に声が出てる」と思っているフシがあるような気がするのですが、気のせいですかね? (笑)
あのフレミングでさえ、何にも考えずに声が出るような日は年に7日くらいしかないという意見に同意しているのですよ! (歌手の皆さん!頑張りましょうね!自分にも言ってます!)
ピアニストの方々も、ツィマーマンみたいにピアノを分解して!その音が出る複雑な仕組みを理解するべきではないでしょうか? それでも仕組みが目に見えるからいいですよね!
ピアニストの妻に対するグチっぽくなってきたのでこの辺でやめておきます! (笑)
さて、「そのときどきのコンディションに左右されることのない、信頼できるテクニック」ですが、これはスポーツ・メンタルトレーニング理論の「自信」という項目に該当します。
「自信」は、あるスキルをどのくらいうまくできるかという予測を表す「効力期待感」と、一定のスキルや行動によってある結果が生じる予測を表す「結果期待感」に分けて考えます。
要するに、あくまで理論上の話ですが、あの技術を行える!という自信と、本番でその技術を発揮できる!という自信 (スポーツの場合は、勝てる! or あの数字を出せる!) があるということです。
音楽家が「自信がある」と言うとき、それは大抵、ある特定の技術やある特定の楽曲に結び付いていると思われますが、本番でその技術や課題を自分の実力として出せる!という自信も勿論必要ですよね。
そのような「自信」をつけるために考えなければならないことは、「自分にとっての自信」が何であるかを押さえることです。そのためにまずは、自分が「自信がないときの状況」を詳しく明らかにしていくことがその構成要素を知る一番の近道になります。
本番前・中・後で「その時なぜ自信が無いのか?」と自問し、例えば「練習不足だから」や「体調不良だから」といったその答えを探すなかにその人なりに自信をつけるヒントがあります (技術練習で自信が付く人もいれば、体力をつけることが自信になる人もいます)。
自信がないスキルを行っているときの状況や、自信がなくなってしまった本番をクリアに思い出すというのは少々ツライものですが、「集中力」でも「自信」でも、その構築方法は、筋肉を鍛えることと似ているのです。
自信がない現実を真正面から見つめるという負荷をかけ、その自信欠如の要因は心技体のうちのどれか、またはその曲の中のどの部分でなぜそれが生じたか、など自分で明確に把握することで「自信をつけるための課題」が浮き彫りになります。
その「自信をつけるための課題」を明確に認識し、その課題自身に動機付けられ、その克服に向けコツコツと練習することが「自信をつける」王道なのです。
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