2重払いリスク回避策~提訴されるのを望む!?~ | 法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

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大学では資源工学科で熱力学などを学んでいました。
科学的分析で法律問題を解決!
多くのデータ(事情)収集→仮説定立(法的主張構成)→実証(立証)→定理化(判決)
※このブログはほぼ法的分析オウンリー。雑談はツイッタ(→方向)にて。

Q 金融機関が,相続人からの払戻請求を受けた時,2重払いのリスクを回避するのは,「払戻に応じない」以外にはないのですか。

誤解ありがち度 4(5段階)
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A よくありがちな手↓
  ・相続人全員の承諾を要請する
  ・相続人に提訴を促す


【2重払いのリスク回避策】
≪相続の基礎知識-法定相続≫≪相続;遺産分割-遺産分割協議≫
金融機関が,相続人からの払戻に応じると2重払いのリスクを負います。
これは回避できないのでしょうか。

→債権の準占有者への弁済(民法478条)を主張するのが対抗策です。しかし,リスクは完全には排除できません。

確かに,金融機関としては,「一見して正当な払戻請求」なのに,これに応じると,事後的に「不正だった」という可能性があります。
遺言が発見された場合が典型例です。
その場合,2重払いを強制されるのはちょっと不合理です。
このような場合は,金融機関としては,「外見上不正だとは気付かなかった」と反論したいことでしょう。
法律上は,「債権の準占有者への弁済」という主張があります(民法478条)。
これは,「外見上,正当な債権者だと信じられる人」への弁済については,仮に後からニセだと発覚しても,「弁済は有効」としてしまう制度です。
条件としては,弁済者が「善意・無過失」であることが必要です。
実際には,「法定相続人からの払戻請求」だけでは,「実際には遺言があるかもしれない」と思うべきだった→過失あり,と判断される可能性もあります。
「過失」の有無については,個別的・具体的事情によって判断します。
通常は,「債権の準占有者への弁済」という制度を使っても,「2重払い」が確実に回避できるとは断言できないのです。
リスクを排除しきれないのです。

【2重払いのリスク回避策(具体例)】
≪相続の基礎知識-法定相続≫≪相続;遺産分割-遺産分割協議≫
金融機関が,相続人からの払戻請求を受けた時,2重払いのリスクを回避するのは,「払戻に応じない」以外にはないのですか。

→相続人全員の承諾を要請する,相続人に提訴を促すということもよくあります。

相続人の1人からの払戻請求に対し,「無過失」とまで言えれば,(仮に後から遺言が発見されても)2重払いのリスクを回避できます(民法478条)。
「無過失」と確実に言えるような状況であれば,2重払いのリスクは回避されます。
具体的には次のような状況です。

<金融機関の払戻が無過失となる例>
・「払戻請求」が判決によって認められた場合
・法定相続人全員が承諾している場合(実印の押印等)

そこで,実務上の運用としても,相続人の1人から払戻請求を受けた金融機関は,「相続人全員のハンコ」を求めたり,「提訴」を促したりすることがよくあります。
なお,視点を変えて,金融機関から供託する,という発想もありますが,「債権者が不明(不確知)」(民法494条)とまでは言えないので,これはできないと思われます。

[民法]
(債権の準占有者に対する弁済)
第四百七十八条  債権の準占有者に対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。

(供託)
第四百九十四条  債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者(以下この目において「弁済者」という。)は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも、同様とする。

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