前貸金,損害賠償金を給料から相殺~相殺禁止,全額払いの原則~ | 法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

大学では資源工学科で熱力学などを学んでいました。
科学的分析で法律問題を解決!
多くのデータ(事情)収集→仮説定立(法的主張構成)→実証(立証)→定理化(判決)
※このブログはほぼ法的分析オウンリー。雑談はツイッタ(→方向)にて。

Q 従業員にお金を貸しています。
  給料から相殺して大丈夫でしょうか。
  従業員の「使い込み」分の返済だったらどうでしょう。


誤解ありがち度 3(5段階)
***↓説明↑***
1 一般の方でもご存じの方が多い
2 ↑↓
3 知らない新人弁護士も多い
4 ↑↓
5 知る人ぞ知る

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A 原則は,「相殺はNG」です。
  ただし,「合意」があればOKです。
  最後の手段は「差押」となります。


【給料前借→給料相殺】
従業員に給料の前貸しをしています。
給料から返済分を控除することはいけないのでしょうか。

→「一方的」な相殺はできません。「合意」があれば可能です。

給与(賃金)は,一般的に,労働者の生活の糧となります。
日々の生活に直結します。
そこで,いろいろな保護が規定されています。
その典型的な規定が,「相殺禁止」です。
「前借金」による賃金の相殺は一般的に禁止されています(労働基準法17条)。
ただし,絶対的に例外なし,ということではありません。
労働者の希望や了解があれば問題ありません。
逆に言えば,後から「了解していなかった」と労働者が主張して,紛争となるリスクがあります。
相殺の了解,を書面に残しておくとより確実です。

[労働基準法]
(前借金相殺の禁止)
第十七条  使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。

【損害賠償金→給料相殺】
従業員が以前,使い込みをして,賠償金を分割で会社に払っています。
この分割金を給料から控除することはいけないのでしょうか。

→基本的に,「前借金」と同様に,禁止されています。「合意」があれば可能です。

まず,労働基準法17条で禁止されているのは「前借金」と賃金の相殺です。
「損害賠償金」は規定されていません。
実際に,不法行為や債務不履行による損害賠償債務を労働者が負っている場合,一方的に相殺できるのか,という疑問が生じることがあります。
この点,条文上は明文規定がないですが,労働基準法24条の「全額払いの原則」という趣旨から解釈して,(前借金以外でも)相殺はできない,というのが判例の見解です(後掲)。
ただし,この場合でも,労働者の希望,了解があれば問題ないこととなりましょう。

[労働基準法24条]
 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
2 賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第89条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

[最高裁判所大法廷昭和34年(オ)第95号破産債権確定請求事件昭和36年5月31日]
労働者の賃金は、労働者の生活を支える重要な財源で、日常必要とするものであるから、これを労働者に確実に受領させ、その生活に不安のないようにすることは、労働政策の上から極めて必要なことであり、労働基準法二四条一項が、賃金は同項但書の場合を除きその全額を直接労働者に支払わねばならない旨を規定しているのも、右にのべた趣旨を、その法意とするものというべきである。しからば同条項は、労働者の賃金債権に対しては、使用者は、使用者が労働者に対して有する債権をもつて相殺することを許されないとの趣旨を包含するものと解するのが相当である。このことは、その債権が不法行為を原因としたものであつても変りはない。(論旨引用の当裁判所第二小法廷判決は、使用者が、債務不履行を原因とする損害賠償債権をもつて、労働者の賃金債権に対し相殺することを得るや否やに関するものであるが、これを許さない旨を判示した同判決の判断は正当である。)

[最高裁判所第2小法廷昭和29年(オ)第353号給料等請求事件昭和31年11月2日]
労働基準法二四条一項は、賃金は原則としてその全額を支払わなければならない旨を規定し、これによれば、賃金債権に対しては損害賠償債権をもつて相殺をすることも許されないと解するのが相当である。

【労働者の支払不履行への対応】
従業員への貸金や従業員が負っている損害賠償金について,従業員は給料からの相殺を拒否しています。
しかも,自発的に払うこともしなくなりました。
どうしたら良いのでしょうか。

→差押の手段を取ることが考えられます。

一般的な債権回収手段として考えることになります。
労働者個人の財産を押さえる,ということになります。
ここで,「給与(賃金)」も労働者の財産です。差押の対象となります。
しかし,賃金の差押は,原則的にその4分の1が上限です。
大部分は「不可侵部分」(=生活維持に必須)として保護されています。

なお,差押をするためには,「債務名義」が必要です。
確定判決や仮執行宣言付支払督促が典型です。事前に貸金や損害賠償金を公正証書にしておけば,これも債務名義になります。
また,債務名義がないけど財産確保を急ぐ場合は,仮差押を行うことも1つの方法です。

最後に,「債権回収」から離れて,労使間での「懲戒」を適用することも考えられます。
例えば貸金を返さない,というケースでは「仕事と関係ない」という主張もあるでしょうけど,「仕事を任せる上での信頼」や「職場の秩序」と無関係というわけではないでしょう。
「懲戒解雇」などの重い処分は不適切でしょうけど,労働者の態度によっては他の処分が可能なこともありましょう。

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