受益権の放棄~信託では常に相続税(贈与税)フル課税~ | 法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

大学では資源工学科で熱力学などを学んでいました。
科学的分析で法律問題を解決!
多くのデータ(事情)収集→仮説定立(法的主張構成)→実証(立証)→定理化(判決)
※このブログはほぼ法的分析オウンリー。雑談はツイッタ(→方向)にて。

Q 父が亡くなりました。
  父の遺産が私に承継されたのです・・・
  が,「信託」になっていました。
  相続放棄できないのでしょうか。


似て非なるもの。ごっちゃにするとえらい目に遭います。

誤解ありがち度 3(5段階)
***↓説明↑***
1 一般の方でもご存じの方が多い
2 ↑↓
3 知らない新人弁護士も多い
4 ↑↓
5 知る人ぞ知る

ランキングはこうなってます
このブログが1位かも!?
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ
↑↑↑クリックをお願いします!↑↑↑

A 受益権の放棄,があります。細かいルールを押さえましょう。

【受益権の放棄】

信託契約=「A(父)が亡くなった場合には,長男(私)を受益者とする」

→受益権の放棄,という制度が利用できます。

基本的には,受益者として指定されると,「承諾」などのアクションなしで,自動的に受益権を承継します(信託法88条1号)。
しかし,事情により受益権の承継を拒否したいこともあるでしょう。
その場合は,「受益権の放棄」ができます(信託法99条1号)。

【受益権放棄の典型的場面】
どのような場合に受益権を放棄した方が良いのでしょうか。

→課税が重い場合が典型例です。

一般的に,「受益権」というのは権利だけがあって義務がない,という性質です。
しかし実際には,受益権とは言っても権利行使に制約が付いていることがあります。
その一方で,課税上は受益権は「制限のない権利(信託財産)」として算定されます。
最悪の場合「権利は不十分(売却して金銭に換えられない)けど,フル課税される」ということになります。
この場合,承継した受益権とは関係ない,独自の財産の中から相続税(や贈与税)を捻出する必要が出てしまうのです。
このように,課税の面から「受益権を受け取ると損する」という場面があるのです。

【受益権放棄のタイムラグの間の「収益」】
受益権を承継してから放棄までの短期間の間に,信託財産である不動産からの家賃収入を受益者として受け取りました。受益権放棄後,これはどうしたら良いのでしょうか。

→不当利得として信託財産(受託者)に返還すべきです。

受益権放棄の効果は受益権承継時まで遡ります(信託法99条2号)。
つまり,最初から受益権者ではなかった,という扱いになります。
そこで,「本来もらうべきではなかった収益」については不当利得として返還すべきと考えられます。

<ワンポイント>
遺産分割協議が行われた場合も遡及効があります。
しかし,遺産分割協議の場合は,成立までの間の「収益」(賃料)は,法定相続分に応じて分配したまま(=遺産分割の影響を受けない)とされています(最高裁判所第1小法廷平成16年(受)第1222号預託金返還請求事件平成17年9月8日)。

【受益権放棄の課税上の扱い】
受益権を放棄した場合,課税上はどのように扱われるのでしょうか。

→結果的に受益権を獲得した方に贈与税が課税されると思われます。実質的な重複課税となり得ます。

<受益権を放棄した方>
暫定的に受益権を獲得したけれど,その後失った,ということになります。
獲得したものがないので,相続税,贈与税は生じないと考えられます。
ただ,既に申告している場合は,更正の請求をするべきです。
更正請求の期間は法定申告期限から1年とされております。
短いので注意が必要です。
なお,平成24年税制改正で5年に延長されることが予定されております。

<受益権を結果的に獲得した方>
税務上は「放棄の遡及効」について民事法よりも緩く考える傾向があります。
放棄の時点で,獲得した,という考えが取られると思われます。
そうすると結局,贈与税が課税されることになります。

このように「受益権の放棄」は,トータルで考えると,課税が重複することになりかねないのです。

【受益権放棄による「重複課税」防止策】
受益権放棄によって,実質的に課税が重複するという不都合を回避する方法はありますか。

→信託契約に,受益の意思表示が必要,ということを盛り込んでおくと良いです。

信託法上,受益者を指定すると,自動的に受益権が承継されることになっています。
しかし,これは絶対ではありません。
最初の時点で「自動的」ではないようにしておくことが可能です(信託法88条1号)。
<受益の意思表示を必要とする条項例>
「受益権を取得するには,受益者となる者が受益の意思表示を行う必要がある」

これにより重複課税,往復課税,といった不合理を回避することができます。

おまけ行きます。ちょっと高度なので同業者向け商品!

【遡及効の比較,まとめ】<ハイレベル>
相続放棄,遺産分割協議,信託受益権放棄について,遡及効の扱いが非常に複雑です。
表にしてまとめておきます。
※アメブロの仕様上,tableタグを使うと↓に長いブランクができます。放送事故と思って,思い切り↓へスクロールして下さい。








































元本部分



果実部分



民法上の遡及効

税務上の遡及効

財産獲得者の課税

遡及効(民法)

相続放棄





相続税



遺産分割協議



△(※1)

相続税(or贈与税)

×(判例;※2)

信託受益権放棄



○(結果的)

贈与税






※1 時期,登記の状態などによっては,「相続とは別の財産移転(贈与)」として認定されることもあります。

※2 最高裁判所 平成17年9月8日

<<告知>>
みずほ中央リーガルサポート会員募集中
法律に関する相談(質問)を受け付けます。
1週間で1問まで。
メルマガ(まぐまぐ)システムを利用しています。
詳しくは→こちら

<みずほ中央法律事務所HPリンク>
PCのホームページ
モバイルのホームページ
特集;高次脳機能障害

ランキングはこうなってます
このブログが1位かも!?
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ
↑↑↑クリックをお願いします!↑↑↑

相続・遺言に関するすべてのQ&Aはこちら
震災特例法に基づく被災者(会社)の負担軽減策。税金の還付請求など。by国税庁
弁護士による相続・遺言の無料法律相談
個別的ご相談等のお問い合わせは当事務所にご連絡下さい。
お問い合わせ・予約はこちら
↓お問い合わせ電話番号(土日含めて朝9時~夜10時受付)
0120-96-1040
03-5368-6030