土地収用の補償額アップ~被災地復興と関連~ | 法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

大学では資源工学科で熱力学などを学んでいました。
科学的分析で法律問題を解決!
多くのデータ(事情)収集→仮説定立(法的主張構成)→実証(立証)→定理化(判決)
※このブログはほぼ法的分析オウンリー。雑談はツイッタ(→方向)にて。

震災時に活躍すべき「土地の収用」に関する話し。
補償金額が不当に低いから提訴し,裁判所に金額アップしてもらったケース。
当初の補償額約1055万円→約1692万円という例を紹介。
(最高裁平成21年12月3日)

広いエリアの中で,道路の位置を直して整形することがあります。
区画整理とか言います。
狭い道路が入り組んでいるような古い街並み→広い道路が格子状に走る便利な街に
というのが典型例。
区画整理の中で,強制的に国や地方自治体などが土地を買い上げる「収容」が用いられることがあります。
(別の機会に収用がなされることもありますが)

今回の震災で津波ですべてが流されたエリアでは,「どうせやるなら効率が良い形で復興して,以前より良くしよう」と考えたいところです。
いろんなアイデアがあります。

農地なら居住エリアをまとめて,田畑は大規模かする。農業の事業は法人化する。
塩害地域はいっそのこと,広大なソーラーパネルを広げっぱなしにして土地所有者には発電量に応じた地代を支払う。(ソフトバンク孫社長が設立した自然エネルギー財団の構想;ソーラーベルト)

などなど・・・

ちょっと話しが拡がり過ぎたので戻ります。

「収用」について。

問題となるのが「金額」です。
「損失補償」とか言います。憲法にも書いてます(29条3項)。

通達で「運用方針」というルールが決められています。
この裁判で争点となった部分のみ説明します。
例によって非常に簡略化します。詳しくは末尾に引用しますので掘り下げたい方は見てみて下さい。
運用方針は「収用する土地の評価は,まとまった形で使用されている場合は,細切れにせず,まとまった形の土地として評価すべし」と言っています。
細切れにして評価すると,「使いにくい土地」ということで評価が下がるのです。
詳しい評価法は,それだけで1つの職業になりそうなので止めておきます。この職業とは実在して,「不動産鑑定士」といいます。
とにかく,「細切れだと評価低い。まとまると評価額がアップ」をよく覚えておいて下さい。
(逆の例もあります。相続税評価における「広大地補正」というマイナスポイントです。これは広いと私道を作らなくてはならなくなり,目減り・・・ややこしくなるので止めます)

今回の事例では,一体として使われていないので,県はバラバラで評価したのです。

土地所有者は怒ります!
「今は一体として使ってないだけで,将来は一体として使う予定なんだ!」
具体的内容はややこしいです・・・簡単に言えば,親族間でもめていたというようなことです。

ということで,主張をまとめます。
県;運用指針に書いてあるとおり,まとまった形で使用されているかどうかで判断した。「将来」とか「予定」とかは運用指針に書いてないから考慮しない。
所有者;運用指針は不当だ!
↓結論
裁判所;運用指針は不当。運用指針は通達に過ぎない(国会で決めたものではない)。運用指針は憲法29条3項にも違反。今回は適用しない。
    つまり,将来の使用予定も考慮して評価する。
   →判決で金額アップ!

ここで一般論へ・・・というか震災絡みへ。

土地収用のように,一挙に多くの方との間で権利調整をする,一大プロジェクトでは「共通ルール」「基本的方針(ルール)」の設定は非常に有意義です。
今回紹介した判決でも,「おほめコメント」も入っています。実は。
ルール設定により,不公平が減りますし,また検討時間も短縮でき,スムーズな進行につながります。
ただし,ルールにも限界があり,個別的な事情・特殊事情がうまく反映されないことがあります。
今回の震災のうち,原発事故に起因するものについては,損害賠償の対象者が膨大です。
紛争審査委員会が基準を設定することになっています。
実際には,「ルールの限界」があり,個別協議→訴訟,と発展するケースも出てくると予想されます。
時間と精神的なエネルギーを要します。
緊急時なのだから東電には柔軟な対応をしてもらって,紛争にならないよう配慮して欲しいところです・・・

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<最高裁平成21年12月3日 抜粋(裁判所の判断部分)>
  (2) 土地の収用等に伴う損失補償に関し,要綱,基準,運用方針,取扱要領及び事務処理要領が定められているが,これらは,損失補償の項目や補償額算定方法等の損失補償の基準を定め統一的に処理することにより,事業の円滑な遂行と損失の適正な補償の確保を図ることを目的とするものである(乙1,36)。
 そして,基準8条1項は,「取得する土地(中略)に対しては,正常な取引価格をもって補償するものとする。」とし,これを受けて,運用方針第一,1は,「土地の正常な取引価格は,次の各号の一に該当する土地(以下「画地」という。)を単位として評価するものとする。」とした上,(1)号は「一筆の土地(次号に該当するものを除く。)」と,(2)号は「所有者及び使用者をそれぞれ同じくし,かつ,同一の用途又は同一の利用目的に供されている一団の土地」と規定している(乙3)。
 被控訴人は,本件土地は,いずれも控訴人の祖父である甲野一郎が所有していた土地であり,本件土地の各筆について権利関係に争いがあったものの,その争いは,いずれも親族内部の争いであり,第三者が当事者となっていないこと,本件土地である7筆の土地は,いずれも甲野和男の長男である甲野次男が農地として利用していたこと(使用受益者の同一性)等の諸事情からすると,運用方針第一,1,(2)号に該当するから,本件土地を一団の土地として一体的に評価したことは適正かつ合理的であって,何ら違法な点はないと主張する。
 しかしながら,運用方針は,規範の形式としては行政機関内部の通達(乙3)にすぎないから,それ自体で法的拘束力を有するものではなく,運用方針が法的拘束力を有するのは,その趣旨・内容が憲法29条3項及び土地収用法の趣旨・内容に合致する場合に限られる。
 そこで以下では,運用方針第一,1の趣旨・内容について検討することとする。
  (3) まず,運用方針第一,1は,土地の評価の単位について上記のとおり規定し,収用部分のみ(いわゆる潰地)を評価の単位とすることはせず,画地という概念を採用してこれを評価の単位としている。これは,収用部分のみを評価の単位とした場合には,起業者の一方的行為によって不整形地等となり減価が生じることになるが,被収用者にこのような損失を負担させることは許されないという,適正な損失補償の理念に基づくものと解される。
 その上で,運用方針第一,1は画地の意義を規定しているが,その規定の仕方から見て,(2)号が画地認定の中心となる。(2)号は,事業認定時における利用状況の同一性を規定するものであるが,これは,土地の価格は利用されることから生じる効用の価値に基づくものであるから,評価の単位も,利用面に着目して,一筆の土地の範囲を越えて利用状況の同一性が認められる場合にはその範囲とし,これが認められない場合には,一筆の土地の範囲内においては利用状況の同一性が認められるのが通常であり取引の単位ともなることから,一筆の土地((1)号)としたもの,換言すれば,利用対象としての運命を共にする範囲を評価の単位としたものと解される。このように,運用方針第一,1は,画地の意義を規定することによって,損失補償事務の統一的な処理を可能にし,事業の円滑な遂行を図ろうとするものと解される。なお,この考え方によれば,利用状況の同一性から一定範囲の土地を一体的に把握することが前提になるから,その範囲内のある部分と他の部分との間の経済的価値の相違が問題となる余地はない。
 以上を要するに,運用方針第一,1は,適正な損失補償の理念から,収用部分のみを評価の単位とすることはせず,画地概念を採用し,その上で,事業の円滑な遂行という観点から,画地の意義を規定することによって,損失補償事務の統一的処理を可能にするものであり,一般論としては,損失補償事務を所管する行政機関内部の事務処理基準として合理的なものということができ,このような事務処理基準が適正な損失補償の実現に大きな役割を果たしていることは当裁判所に顕著である。
  (4) ところで,前記のとおり,運用方針第一,1,(2)号は,利用状況の同一性についての基準時を事業認定時とするものであるが,土地の価格は利用されることから生じる効用の価値に基づくものであるところ,これには,事業認定時における利用から現に生じている価値のみならず,将来における利用可能性(事業認定時における諸事情を基礎に判断されるものであり,いわゆる起業利益とは異なる。)から生じ得る価値も含まれるものと解される(後者は通常は用途的地域等の認定において考慮される。)。そうすると,一定範囲の土地について,事業認定時における利用状況の同一性が認められる場合であっても,その中に将来における利用可能性が同一でない(利用対象としての運命を共にしない)部分があるときは,その部分と他の部分との間の経済的価値の相違が顕在化することになる。そして,この場合に,将来における利用可能性について,評価単位の認定の段階では考慮せず,その後に行われる用途的地域等の認定の段階でのみ考慮することとすると,各部分の規模や状況によっては,将来における利用可能性の相違による経済的価値の相違が捨象されることになりかねず,その結果,被収用者に多額の損失を被らせることがあり得る。
 このような場合にまで運用方針第一,1を形式的に適用することは,かえって運用方針等が目的とする適正な損失補償の理念に反し,ひいては憲法29条3項及び土地収用法の趣旨・内容に抵触する疑いがあるといわざるを得ない。この場合には,将来における利用可能性について,用途的地域等の認定の段階でのみ考慮するのではなく,これに先行する評価単位の認定の段階においても考慮すべきであり,運用方針第一,1はその限りで修正されるべきである。
  (5) 本件土地のうち本件事業において収用されたのは本件収用地のみであり,これに挟まれる形で本件残地が存在している。
 そして,鑑定の結果によれば,本件収用地及び本件残地(3号物件)は,現況,経済的及び行政的観点,規模並びに接道状況等を踏まえ,将来における利用可能性をも考慮すれば,混在住宅地域に存する造成前宅地と認められるのに対し,本件土地のうちのその余の部分は宅地見込地と認められるから,本件土地の中に将来における利用可能性が同一でない部分があり,3号物件とその余の部分との間の経済的価値の相違が顕在化しており,また,3号物件は,農家住宅等の敷地としておおむね適正規模であるから,将来そのような用途で利用される可能性があり,これを前提として,その余の部分とは別個に取引の対象となるなど,利用対象としての運命を共にしない可能性があると認められる。そして,本件収用地を,1号物件又は2号物件の一部として評価した場合の価格は,3号物件の一部として評価した場合の価格の約62パーセントにとどまっており,いかに損失補償事務の統一的処理による事業の円滑な遂行という観点を強調しても,約38パーセントもの差額を控訴人に負担させることは許されないというベきである。
 以上によれば,本件収用地の評価の単位については,運用方針第一,1を適用して1号物件又は2号物件とすることはできず,これを3号物件とするのが相当である。同様に,本件残地の評価の単位も3号物件とするのが相当である。
 被控訴人は,3号物件は単なる公共事業に伴う用地買収線によって区切られたものにすぎず,そもそも,一筆の土地の一部だけ価格が高く,一部が安いなどという捉え方はしないのが通常であるから,用地買収線が運用方針上の画地の基準となるものではないと主張する。
 しかしながら,本件においては,一定範囲の土地のうちのある部分と他の部分の将来における利用可能性が同一でなく,両者の経済的価値の相違が顕在化している状況において,適正な損失補償の理念に照らし,運用方針第一,1を適用すべきか否かが問題とされているのであるから,運用方針第一,1が適用されることを所与の前提とし,また,上記経済的価値の相違から生じる控訴人の損失を看過する被控訴人の上記主張は採用できない。
 なお,平成13年法律第103号により法に88条の2が新設されて損失の補償に関する細目が政令で定められることとされ,これを受けて,土地収用法第八十八条の二の細目等を定める政令(平成14年政令248号)が制定されたが,このことによって,前記判断が左右されるものではない。