古事記ではスサノオ、
日本書紀ではツクヨミになっている理由

 

保食神(または大気津姫)を殺すエピソードが、
古事記ではスサノオ、
日本書紀ではツクヨミになっている理由や背景
 
食物神(オオゲツヒメ/ウケモチ)が殺され、
その遺体から穀物が生まれる
「食物起源神話(ハイヌヴェレ型神話)」において、
 
殺害者が
スサノオ(古事記)と
ツクヨミ(日本書紀)に分かれている背景には、
編纂の目的(政治的背景)と
キャラクターの役割(物語の整合性)という
2つの大きな理由が存在します。
 
1. 編纂の目的とターゲットの違い(国内向け vs 外交向け)
『古事記』= 国内向けの叙事詩
ヤマト王権の正統性を物語として
国内に示すために編纂されました。
 
スサノオは暴れん坊・英雄としての性格を強く与えられており、
「荒々しい行動の延長」として
食物神を殺害させる展開が物語の勢いに合致していました。
 
『日本書紀』= 中国・諸外国向けの正史
律令国家としての格式や整合性が求められたため、
論理的な説得力が重視されました。
 
アマテラス(太陽)とツクヨミ(月)がなぜ同じ空におらず
「昼と夜に分かれているのか」という
自然現象の由来を説明するロジックとして、
ツクヨミに事件を起こさせ、
アマテラスと決別させるストーリーが採用されました。
 
2. キャラクターと物語展開の都合
① スサノオの性格と「追放」への伏線(古事記)
『古事記』におけるスサノオは「乱暴者(荒ぶる神)」です。
食物神殺害のあと、
スサノオは高天原(天界)へ上り、
アマテラスに対して
さまざまな暴虐(機織り小屋への乱入など)を働きます。
 
食物神殺害のエピソードを配置することで、
「スサノオは根っからの乱暴者である」という印象を
読者に補強し、
 
最終的に高天原を追放される説得力を持たせる伏線として
機能させています。
 
② ツクヨミの「存在意義」の確保(日本書紀)
日本書紀では、
ツクヨミはアマテラスの
「対存在(配偶的・相棒的なポジション)」として
高く位置付けられています。
 
しかし、
神話全般においてツクヨミは
活躍の場がほとんどありません。
 
日本書紀の編者は、
ツクヨミに「昼夜分離のきっかけを作る」という
決定的な歴史的役割を与えるために、
この事件の犯人役にツクヨミを配役したと考えられます。
 
3. 古代の民間伝承のバリエーション
もともと日本各地には、
「神様が汚い方法で食べ物を出したため、
殺されてそこから穀物が生まれた」という説話
(渡来人や南方から伝わった穀物起源神話)が
存在していたとされています。
 
古事記の編者は、
その説話の語り手に「スサノオ」を当てはめた。
 
日本書紀の編者は、
その説話の語り手に「ツクヨミ」を当てはめた。
 
つまり、
「もともと存在した同じ伝承を、
どちらの神様のキャラクター・役割に組み込むか」という
編集上の選択の差が、
この二大史書の違いとなって現れているのです。