■ 業績不振に陥ったクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン

 

クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンが正念場に立たされています。

 

もともとクリスピー・クリーム・ドーナツは、1937年にアメリカで生まれた今年で80周年を迎える老舗のドーナツチェーン。

 

今では全世界28ヶ国で事業を展開するグローバルファーストフードチェーンにまで成長し、日本には2006年12月に1号店を新宿サザンテラスにオープンして参入を果たしました。

 

オープン当初はアメリカの人気ドーナツ店が日本に初上陸したということで話題になり、購入まで7時間待ちとなるなど大ブームを巻き起こして人気が過熱。

 

ところが、ブームは長く続かず、コンビニの仕掛けるドーナツ戦争などもあって、顧客離れが加速して苦戦するようになります。

 

快進撃を続けていた時期には全国に次々に店舗を出店して、2015年11月時点では店舗網は64店まで拡大していましたが、販売不振に陥った影響で、2016年の春頃から大量に店舗を閉鎖し、現在では46店にまで減少しているのです。

 

■ 3年連続の赤字で利益剰余金は底をつく可能性も

 

 

クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンは、上場企業ではないので、詳細な財務諸表は確認することができませんが、官報で公表されている最終利益をチェックすると、2014年3月期には1億5千万円の最終利益を計上しています。

 

ところが、2015年3月期には6千5百万円の最終赤字に転落。

 

それ以降も、2016年3月期は8億1千2百万円という大幅な赤字を計上し、2017年3月期には6億1千9百万円もの最終損失を計上するなど、3期連続の赤字に陥っています。

 

このような極度の不振により、2014年3月期には17億円以上あった利益剰余金も2017年3月期には2億4千万円程度まで落ち込み、今期の業績次第では利益剰余金が底をつきマイナスに転落する可能性も考えられます。

 

自己資本である資本金と資本剰余金が5億円あるので、すぐに債務超過という危機的な状況に陥るということはまずないでしょうが、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンにとってここ3年続いている赤字を早期に解消することは喫緊の課題といっても決して過言ではないのです。

 

■ 新社長の下で経営の刷新を図るクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン

 

このような業績不振の責任を取る形で、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンでは2017年3月末に岡本光太郎社長が退任。

 

そして4月1日からは、西友や経営共創基盤(IGPI)を経て、2012年にクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンに入社した若月貴子副社長が社長に昇格する人事を決定します。

 

若月社長は管理本部長から執行役員副社長として、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン内で管理本部やマーケティング部を5年にわたって担当してきた経歴を持ちますが、今後はトップリーダーとしてドーナツ専門店で圧倒的な首位の座に就くミスタードーナツはもとより、セブンイレブンなどの大手コンビニとの競争も意識しながら事業を立て直すという難しい課題に取り組むことになるのです。

 

■ 新社長が取り組む経営立て直しのための改革とは?

 

危機的な状況を脱出するために、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンでは次々と改革の一手を繰り出しています。

 

① 日本人の嗜好に合わせた商品開発

 

まず、一つ目が日本人の嗜好に合わせた日本独自の商品開発です。

 

クリスピー・クリーム・ドーナツといえば、イーストドーナツを真っ白いグレーズでコーティングした『オリジナル・グレーズド』といっても過言ではないくらい、世界中で愛されている看板商品です。

 

ただ、この『オリジナル・グレーズド』は、日本人にとって甘すぎて、特にカロリーや健康を気にする顧客には敬遠される傾向にありました。

 

そこで、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンでは、日本人の嗜好に合わせて甘過ぎないドーナツの開発に着手したのです。

 

その結果、生まれた日本独自の新製品が『ブリュレ・グレーズド』。

 

『ブリュレ・グレーズド』は、ドーナツをコーティングしているグレーズドをバーナーで炙っておいしく焦がすことで、甘過ぎず香ばしさが漂う日本人好みの一品に仕上がりました。

 

このように、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンは、全世界で定番の『オリジナル・グレーズド』に頼るのではなく、日本人の好みに合わせたオリジナルドーナツを投入することによって危機的な状況を乗り切ろうと考えているのです。

 

② トレンドに乗った商品の提供

 

続いて、二つ目は世の中の流れに乗った商品を提供するということです。

 

ドーナツは市場規模が縮小していることからわかるように、健康志向の高まった日本では、どちらかといえば流れに逆らった商品といえます。

 

そこで、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンが着目したのが“SNS映え”。

 

今や見た目にインパクトのある商品を写真に撮ってインスタグラムやTwitter、FacebookなどのSNSで多くの人にシェアする行為が流行っています。

 

SNSで“バズる”と大きく売り上げアップにつながるため、最初からSNSでシェアされることを想定して商品開発に取り組む企業も増えているのです。

 

クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンも、この“SNS映え”の波に乗ろうと期間限定でフォトジェニックな商品を次々に投入。

 

現在はハロウィーンに向けてお化けやカボチャ、蜘蛛の巣などをイメージしたドーナツを10月31日までの期間限定で販売しています。

 

このようなSNS映えするドーナツは、若い女性の間で流行している海外風のおしゃれなピクニック、通称『おしゃピク』で注目を浴びるという重要な役割を果たすアイテムとなるなど、人気が高まってきているのです。

 

③ 『商品+環境』というトータルソリューションの提案

 

そして、最後の三つ目は環境も併せて提供するということ。

 

たとえばスターバックがスペシャリティーコーヒーだけでなく、リラックスしてコーヒーが飲める環境を併せて提供して成功したように、商品だけでなく、食事をする環境も顧客から選ばれる大きな要因になります。

 

商品だけでなく、他の補完サービスを組み合わせて顧客にトータルソリューションを提供できれば大きな差別化につながるというわけです

 

そこで、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンは、来店客に合わせた店舗作りにも力を入れています。

店舗の立地によって変わる客層に合わせて、内装を店舗ごとに変えているのです。

 

たとえば、ビジネス街の店舗であれば一人で来店する顧客も多く、カウンター中心のレイアウトにしたり、郊外のファミリー層が多い店舗であれば、家族が店内で楽しめるようソファー席を多めにしたり、ファーストフードチェーンといえども決して同じ内装ではなく、店舗ごとに特徴を持たせて来店客が居心地の良さを感じる空間を目指しているのです。

 

売り上げアップを図る際には、どうしても商品に目が行きがちですが、マーケティング的にいえば、『顧客が求めているのは商品ではなくトータルでの満足』であり、その意味でイートインスペースも顧客を惹きつけるために重要な役割を果たすことになるというわけです。

 

現状ドーナツ業界は、市場が収縮する一方で競争は激化するなど、経営的に難しい舵取りを求められる状況ですが、果たして新社長は次々と繰り出す改革で見事に経営を立て直すことができるのでしょうか?

 

その手腕に注目していきましょう。