部下や相手が安心安全と感じられる部下のホームで話をすべきだというお話をしました。さらに、応用例をいくつか見ていきましょう。
私がコンサルティングでかかわっていたある全国展開している大手製造業の法務部の方から聞いた話です。この会社ではパワハラ・セクハラなどの相談窓口を法務部に設けていました。そして、社員から相談があると詳しい話しを聞くために本社に呼び出していました。その際に、ふだん本社に来る機会が少ない支社などの人が本社でしかも法務部のスタッフといっしょにいるところを知り合いの社員に見られては「あの人は何しに本社に来たのだろう?」などと噂を立てられてはいけないと考えていました。そこで、人目につかないように一般社員が立ち入るこのない役員専用フロアにある役員専用の応接室で話を聞くことしていたと言います。わたしがこのホーム&アウェイの説明をしたときに、法務部の部長がこのことを話してくれまして、「これはどうなのでしょう?」と聞かれました。
そこで私は、
「ふだん支社勤務の人にとって本社の豪華な役員応接室は安心安全なホームと感じられるでしょうか? 安心してデリケートな問題をすべて話すことができるでしょうか?」
と尋ねました。すると、
「たしかにできないでしょうね」
ということでした。
この会社では、くわしい話しを聞こうとせっかく本社に呼び出した人がなかなか詳細を話してくれず、「もう大丈夫です」などと言うので問題は解決済みと処理したケースがかなりあったそうです。実際の事案については私にはわかりませんが、相談者が豪華な役員用応接室で居心地が悪くて、つまりアウェイと感じて一刻も早くその場から立ち去りたいと考えた可能性は高いでしょう。さいわい、この会社では私の話しのあと、面談する場所を相談者によって安心安全と感じられるところに変えてくれました。
別のあるメーカーでは定期的に工場の生産現場で働く現業の人たちから日ごろ考えていることや職場の改善提案を聞く機会を設けていました。しかし、ほとんど意見が出てこないのが悩みでした。そうです、本社の会議室へ呼び出してミーティングをしていたのです。工場で働くひとたちにとっては本社の会議室はアウェイに感じられ安心して意見を言える場所ではなかったのです。この人たちがホームと感じられる場所はどういうところでしょうか? 実際に働いている工場の現場、そうでなければ休憩室や更衣室、食堂なででしょう。この会社は食堂にホワイトボードを運び込み、お茶やちょっとしたお菓子を出して、ミーティングを行いました。いままでにない活発な意見が出たと喜んでいました。
また、ある会社では、心が疲れて会社を休職している社員に対して、会社は本人の状態を把握するために月一回面談をしていました。そのために会社に呼び出すのですが、このようなひとにとっては会社自体がアウェイに感じられることがあります。ですから会社ビルではなく、近くの落ち着くカフェなどを利用することを勧めています。いわば中立の「第三国」の利用です。
相手のホームに行き、そして本能的に居心地の悪さを感じないパーソナルスペースを侵害しないところで安心安全と感じさせ、相手・部下の本音を出させ、能力を最大限発揮できるようにしましょう。