カンバーバッチの見事な演技を堪能した。秘密を持つ事の責任を負った、アスペルガーな栄光なき天才の悲しい運命を描いていた。
アラン・チューリングは、多くの秘密を持っていた。国家の秘密と自分の秘密。国家に背負わされた秘密は、余りにも大きく、多くの人間の命を預かった。暗号機エニグマの解読という使命は勿論だが、解読した後、救える命を取捨する責任も負ってしまう。
2003年にも、ミック・ジャガーのプロデュースで『エニグマ』という映画があったが、そちらでは、情報戦という戦争の舞台裏をスリリングに描いていた。
同じテーマでも、今回はフォーカスをアラン・チューリングの人物像に絞って描いている。
カンバーバッチは、アスペルガーの症状を見事に演技に落とし込んでいた。コミニュケーション能力が著しく欠如した会話はまさにそれだ。普段、感情を抑えているが、一度、激昂すると感情の抑えが効かない。顔をくしゃくしゃにして泣き出すのも特徴的だ。コミュ症の役所が多い彼なので、得意ジャンルなのかも知れないが、本当にアスペルガーなんじゃないかと心配になる演技だった。
自分が必要だと思う言葉だけしか交わさず、すべての最短コースを選ぶチューリングは、周囲に誤解され孤立する。
その中で、ジョーンだけが、彼を理解し、唯一適切な対応をしている。
激昂させる事なく彼を受け入れ、精神的な支えとなっていく。
キーラ・ナイトレイは貧乳だが、とても魅力的な女優に成長した。容姿はも美しく、貧乳だがとてもチャーミングだ。そして、以前よりも演技にも磨きがかかり、学生のようであり、女房のようであり、医者のようでもある複雑な役を好演していた。貧乳だが。
やはり英国映画にはマーク・ストロング様が出てなければ、画竜に点睛を欠く。
秘密の元締めMI-6の担当官を、演じている。なに食わぬ顔で嘘を付き、相手から必要な情報を聞き出す演技には、背筋が凍った。
「運がよければ、二度と私に会う事はないだろう」は、秘密を守れよと言う意味として、最上級に恐ろしいセリフだと思った。
そして厳格な海軍中佐がカッコイイ!チャールストンみたいな名前が印象深いチャールズ・ダンスだ。
エッジの効いた曲面性のない身のこなしは、シュワちゃんの『ラスト・アクション・ヒーロー』の悪役「義眼の殺し屋」役で披露しており、その演技法は当時から一分もブレていない。
その時の役名は、偶然にもベネディクトだった。実は、この映画に彼が出ていると知った事が、オイラの鑑賞の動機となった。
「時として、誰もが想像しないような人物が、誰も想像しないような偉業を成し遂げる」
繰り返し出てくるセリフが、まさにこの映画のテーマである。アスペルガー症候群で秘密を抱えた彼は、エニグマ解読という仕事で英国を救っただけには止まらなかった。
コンピューターの誕生の歴史は、長らく英国のトップシークレットに属しており、歴史上、突然現れた事になっていた。中には宇宙人がもたらしたという噂まであった。その機密が開示された事で、コンピューターの誕生の歴史が明らかになった。チューリングは、アルゴリズムを実行する「チューリング・マシン」を作った。コレが人類史上初のコンピューターである。
映画では、直接描いていなかったが、チューリングは、青酸カリを塗ったリンゴを齧って自殺したと言われている。ひとくち齧られたリンゴが床に転がっていたそうだ。
今日、我々多くの者は、彼が作ったコンピューターを恩恵を受けている。その断片は、周辺を見回せば誰でも見つけられる。アップル・コンピューターのロゴである。リンゴのロゴマークは、様々な意味があるが、その一つがチューリングのリンゴであると言われている。