『インターステラー』感想。カール・セーガンの見た夢。 | まじさんの映画自由研究帳

まじさんの映画自由研究帳

映画とお酒と手品が好きです。
このブログは、主観100%の映画レビューです。
時々、ネタバレあります。
Twitterやってます。☞@mazy_3
※コメント歓迎ですが、内容に一切触れないコピペコメントは、貼らないでください。

パイプオルガンが「ツァラトゥストラはかく語りき」のコーダーの和音を奏でる中、モノリスの様な形の人工知能に導かれ、僕らは宇宙と呼ばれる空間で、永い時間の旅をした。度重なる絶望と再起を繰り返し、宇宙船の中で科学的に思考する時間を楽しみ、劇場を出た時、オイラは3間だけ未来の世界にいた。
{CEB7B76B-7699-4641-9D1F-41959748DF3B:01}

クリストスァー・ノーランは『メメント』で、過去を忘れる男の視点を、時間を逆行させる事で表現した。『インセプション』では、時間の流れが異なる夢の階層を、同時進行の形で表現した。
そして『インターステラー』に於いて彼の時間表現は、ついに相対性理論に到達した。

オイラの子供の頃、何度目かの再放送で見たのだが、天文学者のカール・セーガン博士が製作した『コスモス/宇宙』という番組があった。1980年製作の特撮を駆使した、いわゆるサイエンス・ドキュメンタリー番組の先駆けである。宇宙だけでなく、地球、生物、人類を知る事が出来る素晴らしい番組で、宇宙旅行や相対性理論なども扱っていた。
彼の作った「宇宙カレンダー」により、いかに我々が小さく、そしてかけがえのない存在であるかを認識させられた。
{7FBB0CAC-703C-4635-AEF7-50F825B67B6A:01}
カール・セーガン博士『コスモス/宇宙』より
「宇宙カレンダー」によれば、ビッグバンから始まる壮大な宇宙の歴史を1年間に圧縮してみると、9月半ばにやっと地球が誕生し10月には生命。クリスマス頃に恐竜が誕生し、4日後には絶滅する。我々人類の歴史などは、大晦日の最後の2分間でしかなく、一瞬の出来事に過ぎない。我々の文明は、この先、どこまで長く存続するのだろう?たった2分間の出来事なのか?それとも、永続的に続く文明なのか?それを決める時が来たと、34年前にセーガン博士は、我々に問いかけたのである。


オイラは子供の頃に、その番組に出会えたのはラッキーだった。宇宙の広さを知れば、小さな惑星の中の、国と国の戦争が、自分の小さな悩みと大差ない事に気付く。そんなくだらない事よりも、もっとポジティブな事を考えるようになった。

「光速に近い速度で移動する宇宙船内の時間はゆっくり進み、光速に至ると時間が止まる」
{975D75FF-C1F1-4879-8C01-461AFF4DCF38:01}
アインシュタインの相対性理論に触れた者は、誰でも空想を掻き立てられる。仮定として宇宙船と言っているだけなのだが、その宇宙船は、何処へ向かっていて、内部では何が起こっているのだろうかと、空想せずにはいられない。時差により未来の世界に着いたパイロットは、何を見て、どんな気持ちになるのだろうか?
{38D2EE28-FC1A-4ADF-8709-C66904852615:01}
 光速に近い速度で飛んでいる時、うっかり加速して、光速を超えちゃったら時間は逆行するのだろうか?時間が逆行したら、過去に行けるのか?時間が戻ると、飛び立つ前に戻ってしまうのだろうか?などと、宇宙旅行や時間旅行を空想せずにいられない。相対性理論が他の科学と大きく違う所は、空想させられる所だろう。

そう、相対性理論には夢があるのだ。

ブラックホールの中心部も魅力的な謎に満ちている。直線に走る光をも曲げるて吸い込むブラックホールでは、その内部で起こっている事を外から観測する事はできない。吸い込まれた物体はどうなってしまうのだろうか?特異点には、いったい何があるのだろう?地表か?海か?小さな石ころかも知れない。特異点に引き寄せられたら、二度と抜け出せないのだから、見たとしても観測データは持ち帰れない。磁気や電波まで吸い込むので、内部から情報を発信する事も不可能だ。入った者だけが知る事が出来て、誰にも伝える事が出来ない事象は、とても哲学的であり、探検の終着点として、魅惑的な謎に満ちている。
{A84EB8C7-17AD-4792-A1B8-7F72265BD56A:01}

相対性理論は同じ事象を、違う視点で観測する事で証明している理論である。オイラのは、難しい相対性理論の公式はよく分からないが、子供の頃に相対性理論の概念に触れた事で、物事を多角的に見る癖がついた。

そんな、魅力をふんだんに取り入れたこの映画は、壮大な宇宙の話をしていながら、家族の話をテーマにしていた。宇宙の大きさに比べれば、ちっぽけで、取るに足らない存在かもしれない。だが、それはとてもかけがえのないものであり、我々の存在こそが奇跡である事を教えてくれる。それは、まさにセーガン博士の『コスモス/宇宙』が教えてくれたテーマであった。
{55BB879A-CCD3-4A6E-BD78-89D9945FED10:01}

宇宙の旅は長い時間が流れる。それは我々に考える時間をもたらす。この映画では、緩急のバランスが良く、起きた事象を考察する時間を与えてくれる。その場にいたら自分ならどうするか?自分ならどんな状況で、大切な人の事を思うだろうか?などと、考えを巡らす。最近のハリウッド映画にはない、ゆったりとした時間の流れを持つ、珍しい作品だ。
思考する楽しさを教えてくれる良い映画であった。観た後、誰かと語り合いたいたくなる。
確かに、この映画の評価が二分するように、思考しなければ、退屈な映画と言えるかも知れない。だが、かつての科学少年だったオイラは、その思考を止める事が出来ない。もっと長く亜光速で飛ぶ宇宙船の中で、思考実験をしていたかったのが本音である。
{CB2E8498-5EE4-4AA6-A475-B228FA293F37:01}


最後に、他の作品との関連性にも触れよう。『2001年宇宙の旅』については、見れば分かる通り、どこがどうと言い出せばキリがないほど意識しているので、ここではあえて、黙して語らず置こう。
{5A5B9F90-6143-43DF-9E3D-14F1E8AD298F:01}


かつて、スティーブン・スピルバーグがアカデミー賞を取った頃に、過去の作品について言及した際「『未知との遭遇』では主人公が船に乗る結末を描いたが、子供が産まれて家族がいる今だったら、乗らない結末になっただろう」と言った。そして現在、『インターステラー』でノーランは、子供の為に船に乗るという主人公を描いた。コレは、スピルバーグ・チルドレンのひとつのアンサーだとオイラは思う。クーパーが地球を飛び立つロケットに乗る時よりも、アメリアと別れ、TARSと共に「未知」へと飛び込んだ時に、その関連性を強く感じた。

監修の論理物理学者キップ・ソーン博士は生前のカール・セーガン博士とも交流があり、セーガン原作の『コンタクト』に出てくるワームホールのアイデアを提供した。
{AAB52AA0-56D3-40C5-B5D2-756E51170F18:01}
物理の法則に従った、存在する可能性のあるワームホールを創造したのだ。『インターステラー』でも出てくるのワームホールは、『コンタクト』と同タイプのワームホールである。映像的にはかなり進化しているが、理論は同じものである。

クライマックスに出てくるブラックホールは、単なるビジュアル的な表現ではなく、キップ・ソーン博士監修の元、コンピューターにブラックホールをシミュレートさせ、論理的に重力レンズによる光の歪みを正確に表した。コレは、世界でも初の映像であり、CGによるシミュレーションで美しい映像を得ただけでなく、新たな発見もあったとソーン博士は言う。この映像について、彼は、CGについての論文と、ブラックホールについての論文を2つ執筆した。
{C3B0C54B-DB80-431C-92BC-105D297A8F2B:01}

映画『ジュラシック・パーク』でも、同様の事が起きている。考古学者のジャック・ホーナー博士が監修し、CGにより初めて生きて動く恐竜を映像化したのだ。『ジュラシック・パーク』が公開されるまで、どんな考古学者も動く恐竜は見た事がなく、恐竜研究に大きな衝撃を与えた。
{B1DBEDCE-100D-4722-AE19-9774F10D7E3A:01}
中にはどこで捕まえたのかと、本気で問い合わせた博士までいる。
そして現在、恐竜の仮説を検証するのに、CGでのシミュレーションは欠かせないものとなり、恐竜研究は飛躍的な進歩を遂げている。
『インターステラー』以降、天体物理学の分野でも、CGによるシミュレートが多様される事になるだろう。

我々は、映画が科学に影響を与える瞬間を、再び目撃したのだ!
近い将来、宇宙科学の分野からも、新たな発見が聞こえてきそうな予感がする。そう考えるだけで、知的好奇心を擽られるのは、オイラだけではないはずだ。

Pale Blue Dot.1990
<カール・セーガン 1934-1996>