ディズニーがこんな問題作を配給してもいいのだろうか!
丁寧に掘り下げたキャラクターを魅力的に描きつつ、パルクール・アクションや画期的なカーチェイスなどを見せる娯楽超大作だ。計算されたテンポの良さで、どんどん引き込まれ、目が離せない。評価の高さも納得だ。
キャプテン・アメリカは戦意高揚の為に生まれたアメリカの、プロパガンダ・ヒーローなのである。愛国心を持ち、祖国アメリカのために命を捧げ、ナチやジャップと闘った大戦中の英雄だ。それが、今作ではそのアメリカ国家に追われる身となる。国家は国民を守るものだが、保守的な思想はいずれ、国民を恐れるようになる。国民を恐れる国家は、国民の行動を監視する。この作品だけでなく、当たり前の様に映画で描かれる、国家機関による盗聴は、ウォーター・ゲート事件以来、国民が国家を信じられなくなったキッカケとなった行為だ。そして、行き過ぎた監視社会の先には、反逆の芽を摘む行動に出る。
その手段に、シールドが誇る空中空母、武装強化されたヘリキャリアを使うのだ。
監視によってデータ化された国民の情報からテロリストをリスト化し、人工衛星からターゲットを割り出し、出動したヘリキャリアからテロリストを殲滅するという作戦を発動させる。
これは、現在問題視されている、オバマ政権で推し進められている無人機戦争での問題と一致する。パキスタンなどで、人口衛星で確認したテロリストを、無人攻撃機で暗殺する作戦が、現在でも行われている。これまでに、20人程度のテロリストを暗殺する為に、ミサイルなどで巻き添えとなった一般市民の犠牲者は5000人に登ると言われ、国内外から強い批判の声が上がっている。映画では、アメリカ国内で起ころうとしている作戦として描き、同じ事が対岸の火事ではなく、より身近なものとして映るよう演出されている。
1人のテロリストが何万人の犠牲者を出すのであれば、それを止めるために数千人の犠牲はやむを得ない事なのか?その是非を問うのが本作である。
ウィンター・ソルジャーと言うタイトルも「冬の兵士」と訳せば気付く人もいるかもしれないが、アフガンやイラクの帰還兵からなる、反戦運動の事である。古くはベトナム戦争の反戦帰還兵の会からそれはあり、作戦として現地で行なった残虐行為を告発するものだった。このタイトルからして、反戦のメッセージである事を読み解く事ができる。この映画では、帰還兵としてのファルコンが登場する。彼もまた、心に傷を負った退役軍人のセラピーを開いているのだ。
また、社会派俳優ロバート・レッドフォードの出演は、大きな意味を持つ。『大統領の陰謀』を始め、数々の社会派映画を世に送り出したその人である。この『大統領の陰謀』見れば、この映画に出てくるシールドの本部が、どこにあるのか分かる筈だ。
ロジャースは、言わば浦島太郎だ。古き良きアメリカの正義の視点で、現代を見たらどう見えるのか?本作では、そこに言及している。
誰よりも国を愛する彼が、国家の進める愚行に疑問を持ち葛藤する。娯楽大作に巧みに描き込まれたメッセージは、非常に大きい。
ロジャースは、シールドの間違いを正す事が出来たが、この映画は、アメリカの間違った方向を正す事はできるのだろうか?
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