【割り込みエッセイ】 『 なぜライダーは海を目指すのか?』〖前編〗 | わかると楽しい英ゴコロ! Step Two!

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©2021 MAZKIYO

【MAZKIYO印😎ヒューマンエッセイ】

 

『  なぜライダーは海を目指すのか?[前編]

~  私をラーメン屋に連れてって ~  』

 

 

◼️ バイク乗りはなぜバイクに乗るのか?

 

少し遠出すれば、わかることがある。

 

15分、いや20分を過ぎたあたりから、心が静まってくる。

 

乗りはじめの、機械を操っている感覚、路面の状況や交通への気配り、天候への配慮――といったものが、だんだんと〝当たり前〟になってくる。と、当初あった脳ミソのせわしない〝高速情報処理活動〟が落ち着き、〝デフォルト状態〟に入る。

 

そしてそれは〝普通の日常〟よりも少しだけ高いレベルにおいて、そうなるのである。

 

いきなりわからないこと言っている? ふふふ? 言い直そう。

 

人間がその肉体をもってして出せる最大速度は、せいぜいが時速30キロメートル。そしてそれ以上の速度を体験するとき、つまり、視野に入る風景がそれ以上の速度で〝流れる〟とき――脳ミソは〝快感〟を覚えるのだ。脳科学の報告だ。

 

〝スリリング〟という言葉が一種〝愉悦〟を表すように、〝危険〟と隣り合わせのほうが脳ミソにはいいのだ。複合刺激ほど脳にとって〝喜ばしい〟のだから、肌身に感じる気温や、風や、音や匂いやその他もろもろの〝外的刺激〟は、多いほうがいいのである。

 

どうかな? 閉鎖環境であるクルマではありえないレベルの〝神経の覚醒〟が、バイクでは得られる――ということがわかったかな?

 

しかもだ、その〝覚醒状態〟、言い換えるなら〝不測の事態に備えんとするアラート状態〟にある脳が、15分や20分を過ぎたころから〝エネルギー節約モード〟に入る。ようは落ち着くのだ。

 

神経が研ぎ澄まされたまま、心が静まる‥‥‥。

 

これはあれなのだよ‥‥‥禅における〝瞑想〟に比類すべき状態なのだよ。ふふふ。

 

そこでラーメンが重要になる!

 

◼️ 私をラーメン屋に連れてって!

 

〝とりあえずの目的地〟が必要なのだ。目的は〝長時間ライディング〟であって、それに〝乗り出す〟ことなのだから。

 

(ちなみに、長時間乗るためには、肉体的疲労の少ない、大きなバイクが必要になるわけです)

 

「ラーメン屋連れてってよ!」

 

と、僕が友人M君にお願いしたのは、そういうわけなのだ。

 

(うどん屋でもいいのだが、なぜかそこはラーメンが似合う。しかも小さな店がいい‥‥‥気がする)

 

1時間と少し走って到着したラーメン屋には、開店まで30分以上あったにもかかわらず、すでに店頭に3人の男たちが並んでいた。

 

小さな店なのに、裏手に広めの駐車場がある。ぐるりと回ってそこにバイクを停め、天気が良すぎたから愛車にカバーをかけたりし、のんびりと花に囲まれた小道を上って店に戻ると、列は倍に増えていた。

 

 

それからは、来るわ来るわ、暖簾が出されるころには、僕らの後ろに長蛇の列ができていた。

 

さて、普段はラーメンなど食べない我なのである。だが、路上でしばしの時を過ごし、狭い店内に入ると、僕はその空気感に――、

 

「ここはウマい店だぞ!」

 

と、直感した。脳が〝アラートモード〟のままだったのである。

 

ウマい予感というのはなにか? 説明しよう。

 

席数12、3くらいか。狭いカウンターに置かれた――、

 

手で握った白いオニギリに、絶妙な黄色さのタクアンが添えてある――

 

紅ショウガの紅色が薄くさわやか――

 

高菜漬けのテカリ具合がひかえめで健全――

 

といった具合である。見逃すまじ。ふふふ。

 

ここは豚骨ラーメンを食べさせるところなのだが、チャーハンがうまいらしい。

 

僕と友人Mは――、

 

「ラーメンふたつに、チャーハンひとつ!」

 

と、よどみなく、開店直後の慌ただしさの中、早めに水をもってきてくれたおかみさんに注文した。

 

それを彼女が、僕らの斜め前、透明スクリーン越しにいる、見るからに集中の極致状態にある店主に伝えるとき、短い符号に変えたことも、僕の〝ウマい店予感〟を裏付けた。

 

狭いカウンターの奥のほうの席に、〝見慣れぬ風体の二人連れ〟である僕らが、詰めるようにして座ったのも、おかみさんをはじめとするスタッフ全4名を心安くさせたらしかった。

 

ところで、M君は元ラーメン屋なのである。父の代からのラーメン屋の息子なのである。ラーメンの〝奥深さ〟を知っている。

 

満員の店内で、僕らはラーメン作りの難しさについて、およびその店のメニュー構成や、かなり安い部類に入る値段、テイクアウトを作っているそのやり方――などなどについて、うるさくない程度の小声で、けれども物怖じせずに語り合っていた。

 

ラーメンが来る前に、紅ショウガと高菜漬けを、チャーハンを分けるためにおかみさんが早めに渡してくれた器に、たっぷりと取って、味わいながら。

 

「なるほどね、こういう高菜漬けか」と僕。「小ぶりで、油が少なめで、酸味がなくって。あまり手をかけない直球勝負の、自然の味。うまいね」

 

「高菜がうまい店は間違いないですよね」と、M君。

 

「紅ショウガも、酸味だけで食べさせる、濁りのない味だね。そこの白オニギリもうまそう。そっけなくって、でも純朴で、人の温もりがあって」

 

店主に、写真を撮ってもいいですか?――と声をかけようかと思ったが、集中の極にあることがありありと見て取れるため、声をかけなかった。

 

おかみさんの手で、チャーハンが先に届けられた。器のフチには青い龍が描かれている。

 

「青は本来は食欲を減退させる色なんですけどね」とM君がポツリ。

 

「うん。だけど、なんだか異国情緒っぽくて、いいね」と僕。「濃い青――ラピスラズリの青だよ。古代の岩絵の具の青は、ラピスラズリの粉だったんだよね。高貴な色なんだ。〝ハレ〟の色」

 

 

あれこれと話しながら、レンゲを手に取り、思いついて一度水で口をすすいでから、僕はおもむろに、焦がされることなく炒められた〝優等生〟のような米粒たちを、いろんな具ととともに口に入れた。

 

その瞬間、向こうのほうで、忙しいはずのおかみさんが、僕の反応を注視したのがわかった。

 

僕は店主の顔をチラリと見たが、彼は自分の手元から目を放すことはしなかった。

 

M君に向かって、僕は大きな笑顔を作って見せた。無口な店主が、それを視界の隅で感じられないはずはないのだ。

 

「うまいよ、これ。あの味が少しする。子供のころのさ、『チャーハンの素』ってあったでしょ? あの味――記憶味覚を刺激される、なつかしい旨さ」

 

「あ、僕、しばらく食べてないんですよね~」

 

「半分食べてよ」

 

「いただきます、ラーメンのあとに」

 

M君は、ラーメンの食べ方に流儀を持っているようだった。

 

僕が――、

 

「あ! なんかとてもうまいものが口に入った。なんだかわからないけど?」

 

などと言っている間に届けられた二杯のどんぶりにも、フチに青龍が舞っていた。

 

僕は黙って、М君につづいて、彼と同じように、スープにレンゲを差し入れた。

 

「この味はね‥‥‥出ませんよ」と、静かにM。

 

「濃いけど、あっさりしている――矛盾だね」と僕。

 

「そうです。塩味とかしませんし、なにかの味が突き出ているわけでもなく‥‥‥」

 

「調和だ。ハーモニーだね。溶け合っているんだね。秘密があるとしたら?」

 

「わからないけど、エキスでしょうね。豚骨や、ダシのエキス。底のほうに少し溜まっているの、あとで飲み干すとわかりますよ」

 

「キクラゲがこんなに入ってて‥‥‥安くないだろう?」

 

「ええ。海苔も2枚だし、そこそこ原価かかってますよ‥‥‥」

 

 

「うわ!」と僕。「チャーハンとえらく合うぜ! 食べてみてよ!」

 

「いや、僕は、ラーメンの後にいただきます」

 

どこまでも自分の流儀を通すM君に、僕は奈良のラーメン屋の話を持ち出した。

 

「〝旨いものなし〟の奈良県で、わりにおいしいラーメン屋を見つけてさ、しばらく通ってて、そこの店主に質問したんだ。ラーメン作りで一番難しいのはなんですか?――って。店主、言ったよ。毎日同じ味にすることだーーって」

 

「そうです」とM。「すごくおいしく作ることはできても、8日に一度じゃ話になりませんからね。ここの味も、なにかの秘訣があるというわけじゃなくって――」

 

「あ、ココロだろ?」と、僕が先に言う。

 

「そう。つまり〝手入れ〟です。ダシを取るにも、よく見ていて、毎日、毎回、いっぱい手をかけていると思います」

 

「結局それよね。旨いものを食べさせよう――っていう、作る人たちのココロ。それが味に差をつける」

 

ラーメンの汁を飲み干し、底に残ったツブツブをしばらく観察し、M君はチャーハンに手を伸ばした。そして小さく――、

 

「ああ‥‥‥こんなにウマかったのか‥‥‥」

 

とつぶやいた。

 

「チャーシューの細切れの具合がいいよね」と僕。

 

「絶妙ですねぇ」

 

「子供の頃みたいにさ、皿まで舐めてしまいたい!」

 

「ハハハ!」

 

 

席を立つ前に、僕がコップの水を手に取ろうとすると、となりに座っていたカップルの男の子のほうが――、

 

「あ、どうぞ!」

 

と、ピッチャーから氷入りの冷水を注いでくれた。

 

「お! ありがとう!」

 

「いえいえ。ホントにウマそうに食べてらしたから‥‥‥」

 

向こう側の女の子も「ウフフフ」と笑って、小さく頭を下げる。

 

「まったくねぇ、人間、ココロだよ。ね?! 彼女もそう思うでしょ?」

 

わけのわからないことを言って席を立ち、勘定を払おうとすると、おかみさんが言った――、

 

「バイクですか? カッコいいですね」

 

僕はそれには応えず、ただ――、

 

「おいしゅうございました! きっとまた来ます」

 

そう言って、店を出た。

 

出際に振り返って店主に目をやると、彼のココロは相変わらず彼の手元に集中していて、それがなんとも心地よかった。

 

外には、まだまだ長い人の列があり、その向こうの空には、十月とは思えない入道雲が立ち上がっていた。

 

「思わぬいい昼飯だった。連れてきてくれてありがとうね」

 

僕の総括に、Mは晴れやかな顔になり、こんなふうに応えた――、

 

「海、行きますか? 遠くないですよ?」

 

「いいね! まだまだ暑くなりそうだし!」

 

予定はなく、行き当たりばったり――それがライダーたちの道行きなのである。

 

 

そして、到着した白い砂浜で、ふたりは、〝凶器〟と呼ばねばならないほどの美女たちに、さらに〝覚醒〟させられてしまうのであるが、それはまた後編で。

 

割り込みエッセイ、長くなっちゃったね、つづくし! 😎

 

Thanks for reading! 💔

 

 

そんなこんなの! 本当は〝英ゴコロ〟のブログなのに!

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©2021 MAZKIYO