【MAZKIYO印😎ヒューマンエッセイ】
『 なぜライダーは海を目指すのか?[前編]
~ 私をラーメン屋に連れてって ~ 』
◼️ バイク乗りはなぜバイクに乗るのか?
少し遠出すれば、わかることがある。
15分、いや20分を過ぎたあたりから、心が静まってくる。
乗りはじめの、機械を操っている感覚、路面の状況や交通への気配り、天候への配慮――といったものが、だんだんと〝当たり前〟になってくる。と、当初あった脳ミソのせわしない〝高速情報処理活動〟が落ち着き、〝デフォルト状態〟に入る。
そしてそれは〝普通の日常〟よりも少しだけ高いレベルにおいて、そうなるのである。
いきなりわからないこと言っている? ふふふ? 言い直そう。
人間がその肉体をもってして出せる最大速度は、せいぜいが時速30キロメートル。そしてそれ以上の速度を体験するとき、つまり、視野に入る風景がそれ以上の速度で〝流れる〟とき――脳ミソは〝快感〟を覚えるのだ。脳科学の報告だ。
〝スリリング〟という言葉が一種〝愉悦〟を表すように、〝危険〟と隣り合わせのほうが脳ミソにはいいのだ。複合刺激ほど脳にとって〝喜ばしい〟のだから、肌身に感じる気温や、風や、音や匂いやその他もろもろの〝外的刺激〟は、多いほうがいいのである。
どうかな? 閉鎖環境であるクルマではありえないレベルの〝神経の覚醒〟が、バイクでは得られる――ということがわかったかな?
しかもだ、その〝覚醒状態〟、言い換えるなら〝不測の事態に備えんとするアラート状態〟にある脳が、15分や20分を過ぎたころから〝エネルギー節約モード〟に入る。ようは落ち着くのだ。
神経が研ぎ澄まされたまま、心が静まる‥‥‥。
これはあれなのだよ‥‥‥禅における〝瞑想〟に比類すべき状態なのだよ。ふふふ。
そこでラーメンが重要になる!
◼️ 私をラーメン屋に連れてって!
〝とりあえずの目的地〟が必要なのだ。目的は〝長時間ライディング〟であって、それに〝乗り出す〟ことなのだから。
(ちなみに、長時間乗るためには、肉体的疲労の少ない、大きなバイクが必要になるわけです)
「ラーメン屋連れてってよ!」
と、僕が友人M君にお願いしたのは、そういうわけなのだ。
(うどん屋でもいいのだが、なぜかそこはラーメンが似合う。しかも小さな店がいい‥‥‥気がする)
1時間と少し走って到着したラーメン屋には、開店まで30分以上あったにもかかわらず、すでに店頭に3人の男たちが並んでいた。
小さな店なのに、裏手に広めの駐車場がある。ぐるりと回ってそこにバイクを停め、天気が良すぎたから愛車にカバーをかけたりし、のんびりと花に囲まれた小道を上って店に戻ると、列は倍に増えていた。
それからは、来るわ来るわ、暖簾が出されるころには、僕らの後ろに長蛇の列ができていた。
さて、普段はラーメンなど食べない我なのである。だが、路上でしばしの時を過ごし、狭い店内に入ると、僕はその空気感に――、
「ここはウマい店だぞ!」
と、直感した。脳が〝アラートモード〟のままだったのである。
ウマい予感というのはなにか? 説明しよう。
席数12、3くらいか。狭いカウンターに置かれた――、
手で握った白いオニギリに、絶妙な黄色さのタクアンが添えてある――
紅ショウガの紅色が薄くさわやか――
高菜漬けのテカリ具合がひかえめで健全――
といった具合である。見逃すまじ。ふふふ。
ここは豚骨ラーメンを食べさせるところなのだが、チャーハンがうまいらしい。
僕と友人Mは――、
「ラーメンふたつに、チャーハンひとつ!」
と、よどみなく、開店直後の慌ただしさの中、早めに水をもってきてくれたおかみさんに注文した。
それを彼女が、僕らの斜め前、透明スクリーン越しにいる、見るからに集中の極致状態にある店主に伝えるとき、短い符号に変えたことも、僕の〝ウマい店予感〟を裏付けた。
狭いカウンターの奥のほうの席に、〝見慣れぬ風体の二人連れ〟である僕らが、詰めるようにして座ったのも、おかみさんをはじめとするスタッフ全4名を心安くさせたらしかった。
ところで、M君は元ラーメン屋なのである。父の代からのラーメン屋の息子なのである。ラーメンの〝奥深さ〟を知っている。
満員の店内で、僕らはラーメン作りの難しさについて、およびその店のメニュー構成や、かなり安い部類に入る値段、テイクアウトを作っているそのやり方――などなどについて、うるさくない程度の小声で、けれども物怖じせずに語り合っていた。
ラーメンが来る前に、紅ショウガと高菜漬けを、チャーハンを分けるためにおかみさんが早めに渡してくれた器に、たっぷりと取って、味わいながら。
「なるほどね、こういう高菜漬けか」と僕。「小ぶりで、油が少なめで、酸味がなくって。あまり手をかけない直球勝負の、自然の味。うまいね」
「高菜がうまい店は間違いないですよね」と、M君。
「紅ショウガも、酸味だけで食べさせる、濁りのない味だね。そこの白オニギリもうまそう。そっけなくって、でも純朴で、人の温もりがあって」
店主に、写真を撮ってもいいですか?――と声をかけようかと思ったが、集中の極にあることがありありと見て取れるため、声をかけなかった。
おかみさんの手で、チャーハンが先に届けられた。器のフチには青い龍が描かれている。
「青は本来は食欲を減退させる色なんですけどね」とM君がポツリ。
「うん。だけど、なんだか異国情緒っぽくて、いいね」と僕。「濃い青――ラピスラズリの青だよ。古代の岩絵の具の青は、ラピスラズリの粉だったんだよね。高貴な色なんだ。〝ハレ〟の色」
あれこれと話しながら、レンゲを手に取り、思いついて一度水で口をすすいでから、僕はおもむろに、焦がされることなく炒められた〝優等生〟のような米粒たちを、いろんな具ととともに口に入れた。
その瞬間、向こうのほうで、忙しいはずのおかみさんが、僕の反応を注視したのがわかった。
僕は店主の顔をチラリと見たが、彼は自分の手元から目を放すことはしなかった。
M君に向かって、僕は大きな笑顔を作って見せた。無口な店主が、それを視界の隅で感じられないはずはないのだ。
「うまいよ、これ。あの味が少しする。子供のころのさ、『チャーハンの素』ってあったでしょ? あの味――記憶味覚を刺激される、なつかしい旨さ」
「あ、僕、しばらく食べてないんですよね~」
「半分食べてよ」
「いただきます、ラーメンのあとに」
M君は、ラーメンの食べ方に流儀を持っているようだった。
僕が――、
「あ! なんかとてもうまいものが口に入った。なんだかわからないけど?」
などと言っている間に届けられた二杯のどんぶりにも、フチに青龍が舞っていた。
僕は黙って、М君につづいて、彼と同じように、スープにレンゲを差し入れた。
「この味はね‥‥‥出ませんよ」と、静かにM。
「濃いけど、あっさりしている――矛盾だね」と僕。
「そうです。塩味とかしませんし、なにかの味が突き出ているわけでもなく‥‥‥」
「調和だ。ハーモニーだね。溶け合っているんだね。秘密があるとしたら?」
「わからないけど、エキスでしょうね。豚骨や、ダシのエキス。底のほうに少し溜まっているの、あとで飲み干すとわかりますよ」
「キクラゲがこんなに入ってて‥‥‥安くないだろう?」
「ええ。海苔も2枚だし、そこそこ原価かかってますよ‥‥‥」
「うわ!」と僕。「チャーハンとえらく合うぜ! 食べてみてよ!」
「いや、僕は、ラーメンの後にいただきます」
どこまでも自分の流儀を通すM君に、僕は奈良のラーメン屋の話を持ち出した。
「〝旨いものなし〟の奈良県で、わりにおいしいラーメン屋を見つけてさ、しばらく通ってて、そこの店主に質問したんだ。ラーメン作りで一番難しいのはなんですか?――って。店主、言ったよ。毎日同じ味にすることだーーって」
「そうです」とM。「すごくおいしく作ることはできても、8日に一度じゃ話になりませんからね。ここの味も、なにかの秘訣があるというわけじゃなくって――」
「あ、ココロだろ?」と、僕が先に言う。
「そう。つまり〝手入れ〟です。ダシを取るにも、よく見ていて、毎日、毎回、いっぱい手をかけていると思います」
「結局それよね。旨いものを食べさせよう――っていう、作る人たちのココロ。それが味に差をつける」
ラーメンの汁を飲み干し、底に残ったツブツブをしばらく観察し、M君はチャーハンに手を伸ばした。そして小さく――、
「ああ‥‥‥こんなにウマかったのか‥‥‥」
とつぶやいた。
「チャーシューの細切れの具合がいいよね」と僕。
「絶妙ですねぇ」
「子供の頃みたいにさ、皿まで舐めてしまいたい!」
「ハハハ!」
席を立つ前に、僕がコップの水を手に取ろうとすると、となりに座っていたカップルの男の子のほうが――、
「あ、どうぞ!」
と、ピッチャーから氷入りの冷水を注いでくれた。
「お! ありがとう!」
「いえいえ。ホントにウマそうに食べてらしたから‥‥‥」
向こう側の女の子も「ウフフフ」と笑って、小さく頭を下げる。
「まったくねぇ、人間、ココロだよ。ね?! 彼女もそう思うでしょ?」
わけのわからないことを言って席を立ち、勘定を払おうとすると、おかみさんが言った――、
「バイクですか? カッコいいですね」
僕はそれには応えず、ただ――、
「おいしゅうございました! きっとまた来ます」
そう言って、店を出た。
出際に振り返って店主に目をやると、彼のココロは相変わらず彼の手元に集中していて、それがなんとも心地よかった。
外には、まだまだ長い人の列があり、その向こうの空には、十月とは思えない入道雲が立ち上がっていた。
「思わぬいい昼飯だった。連れてきてくれてありがとうね」
僕の総括に、Mは晴れやかな顔になり、こんなふうに応えた――、
「海、行きますか? 遠くないですよ?」
「いいね! まだまだ暑くなりそうだし!」
予定はなく、行き当たりばったり――それがライダーたちの道行きなのである。
そして、到着した白い砂浜で、ふたりは、〝凶器〟と呼ばねばならないほどの美女たちに、さらに〝覚醒〟させられてしまうのであるが、それはまた後編で。
割り込みエッセイ、長くなっちゃったね、つづくし! 😎
Thanks for reading! 💔
そんなこんなの! 本当は〝英ゴコロ〟のブログなのに!
日本人が英語をしゃべるために役立つココロを面白おかしく書いてあるのが
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See you later!
©2021 MAZKIYO