『通り雨』(namiさん作) | ロボットヒロイン大好き!

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ロボットアニメに登場したヒロイン話を中心に、いろいろな事を書き散らかしていきたいと思います。

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昼下がり―――――光子力研究所の白い建物の一角から、一人の青年が出てきた。
彼は立ち止まると、今にも雨が降り出しそうな空を仰ぐ。
先ほどまで快晴だった空は、分厚い雨雲に覆われていた。
「嫌な雲だな・・・。」
遠くを見つめる瞳は、頭上の雲のように暗く重く沈んでいる。

くぐもった灰色の雲の中で、時折稲光が走った。
それは地上へと降りてくることは無かったが、爆発の閃光にも似たきらめきは、嫌が上でもあの闘いの日々を彼に思い起こさせた。

吹き上がる炎。
・・・硝煙の臭い。
張り詰めた空気の中、高ぶっていく本能。
・・・荒い息。
緊張の一瞬の後に来る衝撃。激痛。
恐怖すらも通り越し、真っ白になる意識。
・・・絶叫―――それは、敵の咆哮なのか、光子力エンジンの唸りなのか、それとも魂の叫びなのか・・・。
今はまだ、正面切って振り返ることの出来ない、激闘の記憶。

少年時代、どちらかと言えば華奢だった彼の身体は、闘いによって嫌が上でも鍛え上げられた。
今は引き締まった身体を白衣が覆い隠し、ほとんど日の当たらぬ部屋にこもって日々研究にあけくれている。
それは、敵の来襲があると愛機を駆って、真っ先に戦場に飛び出して行ったあの頃には、まったく想像も出来なかった毎日だ。
(・・・・・らしくねえ・・かもな。)
愛機を動かすことが無くなってからは、マシーンの起動実験を行う時など、必ずテストパイロットに名乗りを上げている。
しかし、今では、“博士の身に万一のことがあったら・・・”と、周りがそれを許してはくれない。
結局自分も祖父や両親のような科学者なのだった。


やがて―――――空から一滴の雨が落ちた。
それは青年の頬に当たり、傍目からはほとんど目立たない古傷をつたって流れていく。
「とうとう降ってきやがったか・・・。」
彼の言葉を合図に、一滴、また一滴と雨が続いていく。

しばし、濡れるにまかせてたたずんでいると、
「そんな所に立ってると、風邪ひいちゃうわよ。」
背中から声をかけられた。
「あ?・・ああ。」
振り向くと、彼と同じ白衣を着たロングヘアの若い女性が、扉の所で待っていた。
彼女は、手に持っていた湯気のたつ紙コップを、研究所の中へと入ってきた彼に差し出す。
「最近、ちょっと無理しすぎなんじゃない?」
「そうかい?」
彼は小さく「さんきゅ。」と言って、紙コップのコーヒーを受け取った。
そしてそのまま二人、白い壁に背をもたせかけると、いよいよ本降りになった外の景色を見やる。

「雨になってよかったわね。」
「?」
「・・・だって・・・あんな曇り空は、昔を思い出すでしょう?」
「・・・・・。」
やはり彼女も忘れてはいないのだ。
いや、命を掛けて戦った日々を、忘れられるはずがない。
「・・・そうだな・・・。」
目を閉じてコーヒーをひと口飲む彼を、彼女は愛くるしい大きな瞳で見つめる。
「でもね、辛いことばっかりじゃなかったわよ。」
「え?」
思わず見開いた瞳の先、彼女と視線が合った。
「だって、あなたとこうしていられるのも、あの日があったおかげだもの。」
確かに失ったものは多かったが、反面手に入れたものもあったはずだ。
人の命と引き換えに得た報酬は、【絆】という名の、人と人との“心の繋がり”。
そして、喪ってしまった人との【絆】は、彼の胸の中に“思い出”として今でも残っている。

しかし、頭で理解出来ても、心ではなかなか納得できない現実。
「女ってやつは、どうしてこうもタフというか図太いというか・・・落ち込む事を知らねえんだ?」
ややあきれ気味の彼の真正面へ、彼女がついと近づいた。
「あら?“ロマンチストで前向き”って言ってくれないの?」
彼の首に両腕をまわし、不意打ちのキスをする。
「・・・ばっ、ばかやろ!・・・研究所の中だぞ!?」
慌てる彼に、今さら照れる事なんてないのにと、彼女はくすっと笑った。
「いいじゃない。だってここは、私たちの家なんだもの。」
昔から彼女の行動には驚かされっぱなしである。
(・・・しょうがねえな。)
彼は苦笑するしかなかった。

「・・・さあ、休憩はお終い。そろそろ戻りましょうか。」
コーヒーを飲み終えた彼を見て、彼女は小走りに駆け出そうとした。
「!?ちょっと待った!」
と、彼が慌てて彼女の腕をとった。
「おい、少しは気を遣えよっ。」
彼女の頭を、軽く小突く真似をして叱る。
「あ・・・いっけない!?」
「まあったく~。いい加減自重しろよな。自分だけの体じゃないんだから。」
彼女は舌をちょこんと出して、「ごめんなさい。」と、しおらしく謝った。
「でも、女の子の身体って、ちゃんとうまく出来てるんだから。少しくらい走っても大丈夫よ。」
「お前が大丈夫でも、俺が心配なの!」
「はいはい、わかりました。」
(頑固な人ね。昔からこういう時は絶対引かないんだから。)
彼女は不機嫌な彼の顔を見上げて、そっと微笑み手を握る。
今度は、彼は何も言わずそのまま手を繋ぐと、彼女を引っ張るようにして歩き出した。


二人が研究室に戻った頃、雨は小雨になり、灰色の雲が徐々に割れていった。
その雲の合間から、金色の光線がいっせいに天から降りてきて、辺り一面、朝のような輝きを放ち始める。
突如、7色の光の帯が、地上から天空へと弧を描いて現れた。

デスクをはさんで向かい合わせに立っていた彼と彼女は、ふいに差し込んできた光に気が付いて振り向く。
そして作業の手を休めると、研究室の小さな窓いっぱいに見える大きな虹を、しばし二人で見入るのだった。


・・・・・すべての闘いが終わって平和が訪れてからの、ある日のひとコマ。

END



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