鉄十字・その愛(後篇) | ロボットヒロイン大好き!

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飛行要塞グールの爆撃をバリアで耐える光子力研究所。
突如爆撃が中断すると、グールの格納庫から、腕にビューナスを抱きかかえたハーケンシュミットが下降して着地した。
「大丈夫か?」
腕の中のビューナスを見つめ、そっと地面に下ろすハーケンシュミット。
「この野郎、待ちやがれ!」
寄り添うように立つハーケンシュミットとビューナス。
一時的にバリアが解除され、その前にマジンガーZが飛び出す。
まだ傷の癒えていない甲児だったが、いてもたってもいられずZを出動させたのだ。
マテウスが口を開く。
「私の名前はマテウス。鉄十字軍団の兵士だ」
「なに?機械獣のくせにしゃべれるのか?パイロットがいるのか?」
「このハーケンシュミットはマジンガーZを倒すため、人の頭脳を加えて造られたのだ」
「へん、生意気な野郎だぜ。さやかさんを返しやがれ!」
ハーケンシュミットに今にも飛び掛らんばかりのZ。
「勘違いするな。兜甲児」
「なにが勘違いなんだよ」
「弓さやかとビューナスAはもはや鉄十字軍団の一員。私のパートナーだ」
「なに言ってやがる!そんなことあるわけないだろ!」
「信じたくない気持ちはわかるが事実だ」
傍らのビューナスに向かって指示を出す。
「さあ、ビューナスA。我々の敵・マジンガーZに攻撃開始だ」
ビューナスの瞳が輝き、光子力ビームがZに向かって発射される。
「うわーっ!」
不意を突かれてかわす間もなく、Zの胸に命中し、片側のブレストファイヤー発熱板を吹き飛ばす。
「さ・・・さやかさん・・・」
実際に起こったことが信じられず、絶句する甲児。


「これでわかったか?行くぞ、兜甲児」
戦闘態勢に入るハーケンシュミット。
「弓さやか。これは私と兜甲児の勝負。そこでハーケンシュミットの戦いぶりを見ていてくれ」
距離を取るように促すと、ビューナスは素直に従う。
「へん、大方洗脳でもしてるんだろ?こうなったら貴様を倒して、力ずくでさやかさんを取り戻してやるぜ!」
突進するZ。
ハーケンシュミットからミサイルが発射される。
「そんなもの!ロケットパーンチ!」
走りながら両腕を飛ばす。
「ふっ」
ハーケンシュミットが盾を出し、ロケットパンチを防ぐ。
「へん、口だけの野郎かと思ったらなかなかやるじゃねえか」
Zに戻るロケットパンチ。
「お褒めにあずかり光栄だな」
再び収納される盾。
「今度はこちらから行くぞ」
胸の鉄十字手裏剣を取りだし、目にも留まらぬスピードでZに投げつける。
「うっ・・・」
ビューナスに破壊された胸の放熱板の亀裂に突き刺さる。
「それっ!」
両肩から、突き刺さった手裏剣に向かって電撃が。
「うっ・・・うわーっ!」
コクピットの中で悶え苦しむ甲児。
傷口が開き、ガードスーツの胸に血の染みが広がっていく。
「くそっ!こんな野郎に・・・光子力ビーム!」
苦し紛れに反撃するが、照準を合わせることができず、あらぬ方向に向かって発射されてしまう。


「ははは・・・どうした?マジンガーZの力はそんなものか?」
ハーケンシュミットの放つ手裏剣が、一つ、また一つとZに突き刺さっていく。
その様子を微動だにせず見つめるビューナス。
「くっ・・・」
傷のダメージと電撃のため、いつもの力が出せない甲児。
立っているのがやっとのZ。
「そろそろ終わりにするぞ」
手裏剣を手に持ち、空高く掲げるハーケンシュミット。
「せめてもの情けだ。苦しまずにあの世に送ってやる。そして・・・」
邪魔者である甲児を葬り去り、Dr.ヘルが支配する世界で、さやかと二人で仲睦まじく暮らす。
そんなビジョンがマテウスの脳裏に浮かんでいる。
「とどめだ!」
手裏剣が空気を切り裂き、うなりを上げてパイルダーに向かって飛んでいく。
と同時に、電撃の出力をMAXに上げる。
『ここまでか・・・』
甲児は観念し、目を閉じる。
しかし、予想された衝撃は襲ってこない。
そっと目を開けた甲児の前に立っていたのは・・・


「ビューナス!さやかさん・・・」
洗脳され、マテウスのコントロール下にあるはずのビューナスが飛び出し、その身体を盾にしてZを守ったのだ。
深々とビューナスの胸に突き刺さり、避雷針のように電撃を受けるビューナス。
さやかはショックで気絶し、ゆっくりとビューナスも膝をつき、うずくまる。
「さやかさんーん!」
ビューナスの胸から手裏剣を抜き取り、地面に叩きつけるZ。
「てめえ、よくもさやかさんを!許さないぜ!」
怒りに燃える甲児。
「なぜだ・・・コントロールは完璧だったはず・・・」
愕然とするマテウス。
手元のコントロール装置は、正常に働いている。
「へん。俺とさやかさんの間には絆があるんだよ。お前さんみたいに機械に頼らなくてもな!」
マテウスが、兜甲児を倒すことによって断ち切りたかった二人の間の深い絆。
それがZと甲児を救ったのだ。
その事実を目の前に突きつけられて、錯乱状態に陥るマテウス。
それによって生じた一瞬の隙を甲児は見逃さなかった。
最後の力を振り絞って、腕を回すマジンガーZ。
「さやかさんと俺の怒りをくらいやがれ!大車輪ロケットパーンチ!!」
二つの拳がハーケンシュミットを貫き、爆発させた。


「さやかさん、大丈夫か?しっかりするんだ」
ビューナスのコクピットで倒れたさやかを介抱する甲児。
乱れた髪の隙間、耳の後ろでなにかが太陽の光を反射し、きらりと輝く。
「こいつか・・・」
コントロール装置を抜き去り、指先でひねりつぶす。
「うっ・・・うーん・・・」
さやかが徐々に意識を取り戻す。
「あっ、甲児くん・・・どうしてここに・・・?」
コントロール装置の影響で、記憶が混乱しているさやか。
「どうしてって・・・どこまで覚えてるんだい?」
「・・・機械獣が現れて、出撃したところまでは覚えてるんだけど・・・」
マテウスのことを一切覚えていないさやか。
深層心理が思い出すことを拒否しているのかもしれない。
『いない間に、あいつと何があったんだい?』
そう聞きたいのを必死でこらえて、さやかを抱え起こす。
「安心しな。もう大丈夫だぜ。・・・っ!」
さやかの無事を確認し、ホッとした甲児を、胸の傷の激痛が襲う。
「甲児くん・・・血だらけじゃない!ほら、わたしにつかまって!早く!」
甲児に肩を貸して、ゆっくりと歩き出すさやか。
「だからあれほど大人しくしてなさいって言ったのに。もう・・・」
ぶつぶつと文句を言う。
「すまねえな」
そう返す甲児。
いつもと変わらないさやかの態度に、心が徐々に晴れていく。
「そうだ、忘れてた!」
突然さやかが何かを思い出す。
「どうしたんだい?」
「コロッケ作るって約束してたわよね、わたし。急ぐわよ。準備しなきゃ」
「さやかさんのコロッケは天下一品だからな」
「ふふふ。ありがと。さあ、あと少しよ。頑張って」
すっかり元通りの二人。
甲児の嫉妬心がさやかの微笑みに溶かされて消え去っていく。
そんな二人を夕陽が赤く染めていた…


【終わり】