スピリッチャーは巨大な召喚獣にミサイルや閃光を打ち続けるが、分厚い装甲にすべての攻撃が弾き飛ばされていた。召喚獣は苦しみもがくように頭を振り回し、長い尾を何度も海面に叩き付けていた。
巨体は赤々と燃えながら膨張し続けていた。
「臨界に達したコアが急速に膨張、「世界の空」と召喚獣の融合で互いに拒絶反応を起こしています、結果的に失敗を意味しています」
「「世界の空」の質量が上昇しています、このままではコアを構成している炉心が融解してしまいます」
「ロマノ王、ご決断を。もはやインジョリックの軍にあれを破壊してもらうしか、すべはございません。被爆の予想範囲は対流風の影響を考慮しグランドライン南東部全域、インジョリックサーク北端部にまでおよびます」
その場で放心する王を見て、剣を鞘に納めたルピナはロインの元へ駆け寄った。宝珠からロインの手を放そうとしたが、手も腕もビクとも動かなかった。まるで強力な接着剤で宝珠に貼り付けられているようだ。
「どうして放れないの」
「宝珠を切ってみてください」
シリウスの助言にルピナは再び剣の柄に手を添えた。呼吸を整えると、キッと見開いた紺碧の瞳が宝珠を捕らえ、真っ直ぐ振り下ろされた切っ先は宝珠を真っ二つにした。
宝珠を添える手に力がなくなり、ロインは気を失ったままその場に倒れてしまった。
もはや侵入者を拘束しておく必要がないと判断したエスコーターは二人を解放した。全身打撲の痛みを堪えるリウドはシリウスの肩を借りながら、ルピナの元へ歩んできた。
その場に座り込んだリウドは二人の手をとって、深呼吸を繰り返した。
「ザイドを解放しに行く」
「体力もないこんな状態でですか」
「いいか、終わるまで決して手を放さないでくれよ。放せば僕の魂が身体から抜け出ちまうかもしれねえからな、自分で手を結んでいるだけじゃあおっかないだろ、頼むぞ」
手と手の間に呪文が書かれた札を挟むと、リウドは交互に二人を見てからもう一度二人の手を強く握った。
* * *
コックピットから召喚獣の炉心融解の危険性を報告され、ヴレイは差し迫った局面に茫然とした。
召喚獣の姿は徐々に変形し、大砲のような筒を幾本も頭に生やした。何十個もの頭が奇妙な動きで辺りを見回しながら、ディウアースの姿も確かに捉えているようだった。
「ヴレイ時間がないわ、もう一度ライフルを充電するそれで……」
「駄目だ、ここにいる者達が爆発に巻き込まれる」
『ラセツ』ならどうするだろうか、操縦桿を両手で掴みながらヴレイは祈るように強く眼をつぶった。自分の中に流れているラセツの妖力が、熱となって身体を包むのが分かった。
何故、ラセツは自分に力を隔世させたのか、何度も己に向かって訊ねている自分に馬鹿馬鹿しく思えてきた。眼前で膨張する召喚獣は頭を振って身悶え、苦痛で泣き喚く。
悔しさで目頭の縁を覆っていた涙がヴレイの頬をつたって落ちる。
「ザイド……」
切なげに呟いてからヴレイは手元のキーボードを引き出し、凄まじい速さで打ち始めた。猛然とモニターを睨み付け、たまに独り言を呟きつつプログラムを書き換えていく。その様子は発令室にも受信されていた。
モニターを見ながらハリが読み上げる。
「ディウアースの運動機能を再設定しています。運動フィールドフォワードが重装備用に変更されました。比重プログラムを誤差修正しています。ダグ制御再起動、出力上昇します」
キーボードをサイドボックスにしまったヴレイは操縦桿を握り、決然と正面を見た。
「召喚獣を上空まで飛ばせば、アストラルに分解されるはずだ」
ヴレイの声がコックピットに響いた。
「でも分解されるのはあくまで外界からの有害物質よ」
「分かってるよ、だからあれを分解可能な質量まで粉々にすればいいんだろ」
「そうか」と気付いたハリは振り返ってノアを見た。
「スピリッチャー隊を離脱させます」
状況を理解したハリは即座に入電した。
「手の空いている者はディウのバックアップを最優先に」
スピカの勇ましい指揮に安堵したノアは祈るようにモニターを見上げた。