エスコーターはリウドの首を掴み高々と締め上げた。ビクともしない腕力にリウドは抵抗できなかった。口の中が切れて血生臭くなった唾液が、泡と一緒に口端から滲み出た。
「我々は社会的に廃棄された人間だけを使っている、これも文明が進化するため、彼らも社会に貢献しているのだよ」
「でも今そこでバケモンになったのは宰相だろ、犯罪者でも何でもねえ、それに罪人だからって人が人の身体で弄んでいいわけねえだろ、あんたら狂ってる」
息を詰まらせながら怒鳴り声を搾り出すリウドに、ロマノ王は陰険な目付きを向けて憎たらしく嘲笑した。
非情と言うより異常と言う言葉がここまで似合う人間に出会ったのは初めてだとリウドは思った。
「聞き捨てならない暴言だ。フォーメス、お前に餌だ」
変貌を遂げたフォーメスにロマノ王は道を開けた。不気味に唸る化け物の息遣いがリウドの鼻先までとどいた。飛び出た琥珀色の瞳がジッとリウドを観察している。
魔力を使い果たし、もはや無抵抗のシリウスは幻獣の前足に押さえつけられ、血生臭い結果を覚悟してしまった。
鬼の様に妖魔化したフォーメスがリウドの頭目掛けて、牙が剥き出しになった口を大きく開けたその時、ルピナがフォーメスの背後に回り込んで斬りかかった。だが鋼鉄のような皮膚に刃は表面を滑っただけだった。
微かに背後を向いた琥珀色の眼が獲物を捉えると、手のような引っ掻き爪でルピナを突き飛ばした。
「「ルピナッ」」
リウドとシリウスが同時に叫んだ、人形のように突き倒されたルピナの姿に言葉を失った。
最後の瞬間まで怒りの執念を絶やそうとしないリウドの瞳に覚悟の色が見えた。一瞬の時が永遠のように長く感じたのは初めてだった。
無意識に瞼を強く閉じたと同時に、爆発音が響いた。破壊したのは非常用ゲートで、外から数十人の武装兵士がなだれ込んで来た。
その中にはロインの召喚獣を連れたルチルの姿もあった。
「フォーメス、最後の最後まで手の掛かる奴だな」
ルチルの呼び掛けにリウドを喰らおうとしていたフォーメスの動きが止まった。
銃口を真っ直ぐフォーメスに向けて構えるルチルは一瞬だけ悲哀染みた笑みを作ると、ゆるく瞬きをして、次に開いた瞳は切っ先のごとく鋭かった。一点の迷いなくルチルは引き金を引いた。
素直に眉間を打ち抜かれフッと意識が抜け落ちたかのように、フォーメスはその場に倒れた。
「ロマノ国王陛下、すでに首都近郊の属州候が州軍を出動させ、ロマノ城を包囲した。自ら降伏した方が懸命です」
元老議員の席には各属州候が取り囲んでいた。
状況を眺めるロマノ王は不敵な笑みを浮かべると、向けられる銃口にも顔色一つ変えず、中央モニタを背に堂々たる姿勢で口を開いた。
「ルチル属州総督、とうの昔に尻尾を巻いて城を出て行かれたのかと思っていた。私を捕まえるより先に「世界の空」が最終段階に入る。海上の要塞ごと飲み込み巨大な要塞兵器と化す」
「ザイドが……」
「それでも、ザイドはヴレイが取り戻すわ、彼はシルバームの船だって停めたのよ、きっと今度だって止めて見せるわ。あんた達は力を持つってことがどんな事か分かってない、力は戦うためにあるんじゃないのよ」
自力で立ち上がっていたルピナは剣の切っ先をロマノ王に向けながら、食い縛る歯の隙間から搾り出すように怒鳴った。
その頃、スピリッチャーは巨大な召喚獣にミサイルや閃光を打ち続けるが、分厚い装甲にすべての攻撃が弾き飛ばされていた。召喚獣は苦しみもがくように頭を振り回し、長い尾を何度も海面に叩き付けていた。巨体は赤々と燃えながら膨張し続けていた。