第18話 アヤシイ笑顔 | 虹のふもとに眠る宝は何だと思う?

虹のふもとに眠る宝は何だと思う?

小説家デビューを目指し地道に執筆活動を続けるyuuma(立花 佑)の日記です。2017年からWebライター始めました&杉山貢大農園のお茶ネット販売&ハーブ畑作り&アルファポリスにて小説掲載中〜!

 ロインとルピナと別れたヴレイは港でベフェナへの入国手続きを済ませた。
 街を散策することなく、シルバーム行きの鉄道に乗り込んだ。町に寄らなかったのは、何故かあの二人の事が気になって、つい先を急いでしまった結果だ。


 車両の寝台で二日目の朝を迎えた頃、シルバームの国境を越えた。窓の外は針葉樹林に覆いつくされた山々が悠然と連なっていた。
 それから数時間後、シルバームを入国してから最初の町に終着した。


 国境ゲートにもなっていたこの町は旅人の休憩場みたいなもので、旅人や観光客用の宿場が多く点在していた。
 酒場にたむろう旅人達は疲れを癒しながら、不安そうにシルバームの事態を語っていた。


 噂によるとシルバーム新王は軍国主義者で、ここ数年軍拡が激しくなるに連れて国民の生活は税で圧迫され、兵を招聘する裏では賞金首を集めて軍力を上げているという。
 朝廷の政治は腐敗し始めていると言う噂までささやかれているほどだ。経済状況はあまり芳しくないらしい。
 
 ロインが王制を復活させたいと思う気持ちも分からないでもない。でもそれはそれで、政界の改造が大掛かり過ぎて逆にヴレイは心配になった。そんな事が上手くいくのだろうかと。


 煉瓦造りの建物が所々に点在する程度の平穏な集落だが、村人の割合に対して武装した兵がやけに多く歩いていた。国境ゲートの町ならでわの光景なのか、兵士の側を子供が元気よく駆けていく。
 一見、紛争があるとは思えなかった。


 ヴレイは安そうな宿に入ると、決して身なりはいいとは言えない従業員に訊ねた。
「ここは西部の連合地域に属しているからな、集落もこうして貸し宿として軍に提供しているんだ、だから兵士が多いのさ」

 こんな辺ぴな田舎にまで詳しい情報が流れてきているのはその影響かと納得した。

「ここから首都までどれくらいで着ける」
「そうだなぁ、飛獣なら丸一日乗り続ければ着くだろ、今時リベロットに行くなんて、旅人さんだろ? 観光には向かないぜ、通り過ぎちまうのが一番だ」

「そんなによくないのか、そのリベロットって言う所は」
「情勢はよくないぜ、避難民がでてきて街は荒れ始めてる、ベフェナやグレイディウルに渡る難民の数も増えてるって話だ。疎開してきた奴らも多くなってきたしな、これじゃあ鉱物がいくらあっても国が傾いちまう」


 たいぶシルバームの内情が分かってきた。
 話だけ聞いて立ち去るのは申し訳なかったので、ロビー兼パン屋で何個かパンを買うと、ヴレイは飛獣使いからレンタルした飛獣にまたがり首都へ向かった。


 丸一日上空を飛び続けた。
 首都の街並みが遠目で確認できるまでになったのは、翌日の朝だった。

 眼下に広がる雄大な森林はまだ静かに眠っていた。初夏が近かったので一夜を上空で過ごしてもさほど辛くはなかった。

 太陽が南中に達しようとする頃、街の中で一際飛び抜けて巨大な屋根が、真昼の日差しを反射させていた。
「あれが宮殿か、まるでソーラーパネルだ」

 巨大な宝石が地上に顔を出しているようだ。強烈なまでの威厳さと迫力感は頂点の座を見事に再現している。

 あれなら駆逐艦級の船が隠されていてもおかしくない規模だ。

 しかし、城を崩壊させるにしても、一気に崩せば城下町の住民は間違いなく被害を受ける。そんなこと新王だって分かりきっているはずだ、それでももし城内に戦艦があれば、城を崩壊さために建造した可能性が高い。

 敵国がいるのなら、戦艦と城を同時に失うような危険なリスクは避けるはずだとヴレイは考えた。何にせよこれでやっとまともな報告書が送れそうだと、密かに安堵していた自分に嫌気を感じた。


 都心に近づくにつれて飛獣の交通量が多くなった。都内にはそれ専用の離着場が幾つも設けられていた。多種多様な飛獣が出入りしていて、その光景を見ているだけでも面白かった。

 しかし飛獣使いの話では飛獣を乗り回せる所は、餌となる砂金が採れる国の中だけだと言っていたので、次に行った国では使えないかもしれない。

 とにかく疲労と睡眠不足で睡魔に襲われていたヴレイは飛獣を専用の施設に預けると、シルバーム城が見える宿にチャックインした。


 部屋のバルコニーからソーラーパネルが一面に張り付けられたような巨大城が眺望できた。まだ少し距離はあるが、山のような城は正面から見るのが一番の絶景だ。

 城の回りは特に変わった作りはされていない、異常に高い城壁があるわけでもないが、兵の数が半端ではない。まるで戦に備えて待機しているような重々しさだ。

 怪しまれないように城に近づき、手ごろな兵を脅して身包みを奪い取り兵に成りすます、などなど真剣に考えながらワクワクしながらベッドに横になると、ルピナとロインのことを思い出した。


 今頃二人もここにいるのだろうかと。


 昼間から床に就いたヴレイは真夜中に目が覚めた。
 宿の従業員が教えてくれた通り、深夜でも走っている中央路面電車でシルバーム城に向かった。ガラス製の建造物の中に、旧市街を思わせるような古い石造りの路地が折り重なってできたような街だ。


 煌びやかではあるが、少し裏路地をのぞけば物物しい空気が漂っている。
 両側に露店が並ぶ市場を抜けると、城に向かって敷かれた白石の道路が広場のようにだだっ広く続いていた。
 道の両側には珠玉のように煌く閑雅な建築郡が連なり、中から明かりが漏れたいた。


 城正面入り口の駅で降りると栄華を誇る大門が出迎えてくれた。
 門前には兵が見回りをしていた、それどころか街中どこにでも兵が巡回していた。職務質問されたときの答え方を考えながら、裏路地に入って様子を窺うことにした。


 同じ頃、執務室のバルコニーから彼は真夜中の城下町を見下ろしていた。高みの見物は城正面入り口の駅まで見渡せることができる。

「そうか、護衛獣をやった奴はベフェナ行きの船に乗っていた可能性があるわけか、それでそいつの足取りは」


 新王ルベンスが訊ねると、バルコニーに出ていた青年は向き直って答えた。
「掴めてはいません、しかもその人物は私と共にラブラリンで賞金稼ぎをしていました。相当の使い手でした。では新たな情報が入り次第お伝えいたします」
 会釈をした青年は部屋を通って扉の取っ手に手をかけた。


「シリウス」
 呼ばれて青年は立ち止まった。


「ラブラリンでの賞金集めにはよくやってくれた、特別報酬はお前の口座に振り込ませた、確認しといてくれ」
「有難うございます」

「何故お前のような魔導士が特殊観察部に入隊してきたかは詮索しないが、最近私情を持ち込む奴がいる、そういう奴はうまく私に取入るが、もし私の意思に反することをしたら承知しているな」
「心得ています」
 シリウスは微かに頬をゆるませて執務室を後にした。


* * *


 ヴレイが様子を見続けて数分後。
 正門の側に付けられた小さな扉が開くと、中から男が出てきた。長身で細身の体躯を包んでいるのは緑色のローブ、細い腰をしめる金メッキのベルトが印象的だった。

 どこかで見たことがある風貌だった。

 肩口まで伸びた茶髪の青年は迷わずこちらを見て近寄ってきた。
 暗闇にまぎれて隠れていたつもりだったヴレイは突然のことでその場から動けなかった。高ぶる警戒心と共に鼓動が高鳴り、右手が自然に腰のガンホルダーに伸びた。


「そんなに警戒しないでください、共に賞金首を掴まえた仲じゃないですか、また会いましたね」
 聞き覚えのある声にヴレイは銃から手を離すと、建物の影から明かりのある場所まで出てきた。


 優男風の顔をした青年は細い目に笑みを浮かべていた。
「あんたあの時の、どうしてここに」
「貴方が正面門前の駅から出てきたのを見て、下りてきました。何か御用ですか」

 シルバーム城で使える者なのか、とにかく信用はできない。

「ちょ、ちょっと待て、シルバームの者なら何故ラブラリンにいた、じゃなかったらどうして城から出てくる」
「理由はあります、でも今訊いているのは私です」
「先に俺が質問しただろ」
 嫌気が差したヴレイは呆れて溜息をついた。


「ただ城を見学しにきた観光客ではありませんよね。真夜中に来る観光客なんていませんから。私はラブラリンの都心に手強い賞金首が集まっていたと聞いて、情報収集をしていただけですよ」
 深い二重の中に埋まる茶色い瞳は細く笑みを浮かべながらも、微塵の隙もなくヴレイの紫紺色の瞳を捉えていた。


「城の者か」
「傭兵です。で、君はここに何か用があるのでは」
 ニコリと笑うところがわざとらしかった。


 剣呑な目付きでシリウスの様子を窺うヴレイは恐る恐る訊いてみた。
「一般人は中に入れないのか」
 するとシリウスは少し困った顔をするが、すぐに紳士的な顔に戻った。
「特別に私と一緒なら中に入れて差し上げても構いませんよ、深夜に尋ねてきたということで宿屋なしの旅人と言う名目でなら」

 細い目がさらに細くなって笑んだ。

 こんな所で、こんな形でまた彼と再会するとは思ってもみなかったが、何故か緊張がほぐれていくのが分かった。でも「怪しすぎるし、その笑顔」と、言わずにはいられなかった。



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