第17話 救世主の烽火 | 虹のふもとに眠る宝は何だと思う?

虹のふもとに眠る宝は何だと思う?

小説家デビューを目指し地道に執筆活動を続けるyuuma(立花 佑)の日記です。2017年からWebライター始めました&杉山貢大農園のお茶ネット販売&ハーブ畑作り&アルファポリスにて小説掲載中〜!

 ベフェナ城に着いてから四日後、太陽がまだ地上に顔を出したばかりの早朝。
 丁寧に一枚一枚鍛えた銅板を重ね合わせて作られたブーツを履いて、鋼製の肘当てを装着する。手の平ほどある純白の羽根を一枚一枚縫い合わせたローブを腰に巻いたルピナは、部屋の扉を豪快に開け放ち、ゼルの元へ向かった。


「惚れちまうなよ」
 受け取った剣を鞘から抜くと、天井に切っ先を向けた。
 白く帯びた光に吸い込まれそうになって、全身の毛が逆立った。その光だけで肌が切れてしまいそうなほどに、紙ほどの厚さもない刃が脈打ているようだった。


「すごい……」
「月光を浴びる真珠城だ。洗練して洗練してできた光の帯のことを、俺達職人はそう言う、相棒も喜んでるぞ」
「月光……」


「月の光は青白い、簡単に言えばそこから由来されている。だがそれだけじゃないらしくてな、冷たく感じる中にも温かみがある真珠のようだと、言った奴もいる。剣は守る命の為に振るうものだ、感情任せに振ればたちまち剣は持ち主を操るだろう、分かるか、つまり武器を持つ意味を真に知る人間ならば、月光はいつまでも放っているということだ」
「例えこの剣が血にまみれても」

「そうだ。武器も剣も守るモノの為にあるんだ、戦うためじゃない、そこを取り間違えるな」


 柄を握る手がこわばって震えた。
 自分に叱咤するように強く頷いたルピナは剣を緋色の鞘に納めた。

 辺りを見回し、胴を覆う手ごろな防具を見つけて装着し、金属ヘルメットを手に取った。

「行って来る」
 振り向きざまのルピナの真っ青な碧眼は、打ちつけたばかりの灼熱の鋼の様に赤々と光を反射させていた。

「ロイン王子を守ってやれ。剣術も魔導も精進した者のみ与えられる芸当だ、力におぼれず試練に耐え抜くんだ、それでこそ一人前の剣舞士だ」
「ありがとう」と強く言い放ったルピナは熱い空気に燃える洞穴から、地上へと駆け出した。


 壮麗なリブの回廊を抜けると、ロインと落ち合うことになっている天井の高いエントランスが眼前に広がった。少ししてから防具に身を包んだロインが待ち合わせ場所に現れた。
 踵に付いた金具が大理石の床に当たってカチカチと音を鳴らす。


「お待ちください、殿下っ」
 ロインを追い駆けてきたのは専属の侍女だ。

「サーシャっ」

 ぎょっとしたロインは持っていた本をさりげなく後ろに隠した。

「その古文書、使えばどうなるかご承知の上なんですね」
「さすがサーシャ、何でも分かるんだなぁ」
「はい。私は貴方の侍女であり、貴方の御身をお守りする専属エスコーターですから」


 サーシャの中指にはめられた指輪の石が小さく光ると、エントランスに突風が吹き荒れた。
 生きているかのように渦を巻く風は、まるで毛並みの長い獣が不気味に頬をなぞってくるようだった。

 本物の魔族しか操れない獣、これがサーシャの幻獣だとロインは理解した。

「じゃあ、その幻獣で僕を止めるの」

 サーシャの柔らかい栗色の髪が風に揺れる。
 怒っているわけではないが、彼女の凛然とした趣は息をのむ迫力があった。


 ゆっくりロインに歩み寄ると、白い手で王子の小さな頬に触れた。
「信じています。信じて待っています。どうかご無事にお戻りください、必ず。何かあったらこの子と共に貴方を向かいに行きます」

「大丈夫、絶対に帰ってくる、約束する。だからこの事は父上と母上には黙っててね」
「貴方の名誉に懸けて、他言はいたしません。ルピナ王女もどうかお気を付けて」
 サーシャは二人に向かって深く頭を下げた。


 敬意の意味もこめて強く頷いたロインとルピナは、まだ朝靄でかすむ中庭に出てきた。待機させていた召喚鳥に二人は飛び乗った。
 

ふわりと舞い上がった召喚鳥を目で追いながら、ベフェナの空を仰いだサーシャは彼等の姿が見えなくなるまでいつまでも見送った。


* * *
 
 飛行船に乗り換えてから丸一日が経った頃、シルバーム国首都郊外の街ノイゼストを遠めで見ることができた。

 首都から近いほど街には賑やかさがない。いつまた新王軍と連合軍が衝突するのかと怯える毎日で、民は憔悴してしまったのだろうか。そう思うとロインは怒りの形相を隠さずにはいられなかった。

 

 西の方角には我が王だと言わんばかりに、氷山のような角を天へと貫いている城があった。
 その威圧感を絶やすことなく陽をいっぱいに反射させていた。

「太陽の王冠と言われた、エントラールパレスね」
 横髪を押さえるルピナが目を細めて呟いた。

「安寧の時代はシルバームの栄華の象徴だった、でも今はただのガラスの塊だよ」

 飛行船の甲板から眺める地平線は格別なものだったが、地上の景色が雲間から覗くと二人の緊張感はいやに現実味を帯びた。


 空港に降りてからはロインの召喚鳥に乗り換えた。
 集合場所として指定した野外劇場は、雨天の時以外は天井を全開にしているので、ロインに指示された召喚鳥は旋回して劇場の舞台へと降り立った。

 

 集められた連合兵士達は見知らぬ子供の登場で騒然とした。
 ロインは兵士達が静まるのを待ってから堂々たる姿勢で口を開いた。
「私はロイン・ノイレイザー・ベフェナです」


 少年が言った名に反応して場内はどよめいた。
「あの子供、ベフェナの王子だったのか、隣国の王子の顔すら知らなかったのか俺達は」
 二階の観覧席から傍聴していた諸侯達はまさかと我が目を疑った。


「私はシルバームの国民ではありません、例え他国の人間だとしてもここにいる私は一介の召喚士です。皆さんが信じて付いて来てくれるなら、私と共に戦ってほしい、誇り高き仲間として。どこまで出来るかわからないけど、皆さんの力をシルバームの為に貸してください」


 精悍なロインの演説に圧巻されたレイスは、目頭に熱く込み上がるものを感じて、グッとこらえた。

 賢い知性があるにもかかわらず理論も文法もなく、その行動は感情的で指導者としてはまだ不合格だ、だがこれほどまでに信念の熱い後継者といつか肩を並べる日が来るのだろうかと思うと、レイスの胸は歓喜でいっぱいになった。

 まだほんの子供だが、堂々としていて迫力のある言葉には誰もが圧倒され信服した。


「内乱の早期終結のためにも新王軍を圧制し、新王を玉座から失脚させる、そして再びシルバーム王族を復活させる」
 腰まで流れる赤銅の髪が吹き抜けた風に乗ってなびく。


「我々の救世主だ」
「これは奇跡じゃないか、他国の王族が我々シルバームの為に助力を下さるなんて」
「今こそ連合軍の力を結束させる時だ。俺達が立ち上がらなくてどうする」
「誇り高き救世主に、兄弟の血に乾杯だ」
 劇場内は兵士達の闘志と熱気で包まれた。


 惹き付けられる強烈な光がレイスの胸を熱くさせた。
 稚拙な言葉でも彼の魂を感じた。恐れを知らない若さと可能性を秘めた未来の指導者に、レイスは握りこぶしを震わせ、自分の中で沸々と固い決意ができ上がっていた。


 兵士達の歓声で聴力が失われてしまいそうな中、大声でレイスの名を呼ぶ声が聞こえた。
 空耳かと思っていたら、「レイスさん、初めまして」と背後から少女の声が聞こえて、レイスはハッと振り返った。


「すみません驚かせてしまって、次期シルバーム国王陛下、ですね。何度も呼んだんでけど、この歓声ですもんね」
 いきなり何を言い出すのかと、どうようしたレイスは何度も瞬きを繰り返した。


「ご心配には及びません、私はロイン王子の協力者で、貴方が無事国王に即位されたら、もしかしたらまたどこかでお会いするかもしれません、そのご挨拶です」


 黄金色の短い髪が良く似合うその碧眼は真っ直ぐ自分を見ていた。
 両耳には真っ赤な石が付いたピアスを揺らし、防具を身に纏っている姿はとても凛々しい。腰に下げている長剣の柄はメッキが剥がれ落ち、長い間使われいる物だと窺える。純白の羽根を重ね合わされた腰巻ローブが翻ると、高貴な姫君にも見えてしまう。


「貴女はもしかして、王族ですか」
「今はそれに関して気にする必要ないわ、そんなことより勝利を祈って乾杯よ」
 言ってルピナは両手に持っていたワイン瓶を、レイスに一本渡した。中身はアルコール度の少ない果汁だ。


「戦が平和を運んでくるなんて、あまり良い安だとは思えなかったけど、あの子がやろうとしていることは確実に未来につながるわ、そんな気がしませんか」
 曇りのない彼女の笑顔にレイスは素直に納得させられた。


 宣言が終わるとレイスはロインの側へ出向き再会を喜んだ。

「今から、召喚するね」
 言ってロインは持っていたワイン瓶をルピナに渡した。

 持ってきた本を開くと、そこに書かれた文面を歌うように読み始めた。ロイン以外の者は理解できない言葉だった。
 読み上げて上空を見上げると、ここにいる全員が同じように空を仰いだ。


 突如、空が光ったと認識した頃には、六百体という召喚獣が劇場を取り囲んでいた。
 怖がる様子はないが兵士達は言葉を失ったまま、起きた現象に呆然としていた。


「一部の兵と救護班は地上で住民の避難と護衛に当たってもらうようにして下さい」
「分かった、準備させましょう」
「お願いします。それと城下町上空には哨戒機が巡回しています、すぐに我々の軍勢は確認されるだろうけど、逆に向こうをパニック状態にさせられると思う」

「分かりました、詳細は後ほど伺いましょう、さあ諸侯の方々が待っていますよ。戦略について打ち合わせしたいそうです。ベフェナの王子と知ってさぞ驚いているでしょうね」
「怒るかなぁ」
 と、苦笑いを浮かべたロインは頭をかいた。



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