もし僕が映画のプロデューサーなら、映像化したいのは、美輪明宏さんの自伝『紫の履歴書』だ。
 古今東西、様々な人物が自分の生きてきた道程を語り、また、その人物に関心を持った者たちが伝記というかたちで記録してきた。もちろん、そうした中に魅力的な人物はたくさんいるが、メディアで多くその姿を目にし、話を聞いてきて、80歳にいたっていまだ「現役」のこの人物は、大衆的なイメージの裏に、何か言い知れぬものを感じさせる。
 『紫の履歴書』の存在を初めて知ったのは、『劇画アリス』の元編集長、亀和田武氏が本に関するインタビューで、「おすすめの本を訊かれたら、必ず美輪明宏の『紫の履歴書』がその一冊に入る」と答えていたからだ。何か意味深なタイトル。あの美輪さんの初の自伝。そのときから、どこか心にひっかかる本になった。
 主にテレビで、美輪さんの人生の語りを聞いてきた。幼少期に街角で自暴自棄になった娼婦を見た話、銀座のシャンソン喫茶「銀巴里」での活動、ゲイであることを隠していた友人の自殺、俳優の赤木圭一郎との関係、江戸川乱歩や三島由紀夫との交流、等々。石原慎太郎の「ゲイなんて地上から抹殺しろ」との発言に、「おまえだって『太陽族』のかたわれだろ」と言い返し、日本文化の素晴らしさを力説する美輪さん。「君はとなりの座敷にでも行くように舞台に出て行くね」と三島に言われたというエピソードは微笑ましい。

 でも、僕はまだ『紫の履歴書』を読んでいない。なぜか、読む準備ができていない気がするからだ。いつか、準備ができて、読むことになる日が来るのだろうか。
 『紫の履歴書』は、僕にとっては「因縁」の本だ。



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