夫と私は別々の車で夫の実家に向かった。
実家に着いたが、さすがになかなか入りにくいものだった。
でも、念書に署名捺印だけはもらわなくてはならない。
車の中で、おもちを連れて行こうかどうしようか迷っていた。
3才になったばかりの子供を車の中に置いてなど行けないのだが、できることなら義父母には会わせたくはない。
そう思っていると、夫が来て
「俺が行ってこようか。親の顔見たくないだろ」
と言って念書を持って家に入って行った。
そうしてくれることはありがたいことだった。
“勝手に離婚すればいい。挨拶なんか必要ない”と言われていることもあって、正直なところ顔を見たくないというのは本音だったからだ。
だけど、挨拶しないわけにはいかないよな・・・。
そんなふうに思いながら車の中で待つこと数分、夫が念書を持って出てきた。
確認すると、義父と義兄の署名捺印はきちんとある。
ご丁寧にも実印で捺印してある。
「ありがとう。助かりました。・・・ここまで来たらやっぱり挨拶した方がいいよね」
夫に言いながら車を降りたとき、義父が玄関から出てきた。
私が挨拶をしようとした瞬間だった。
「こんなもんまで作ってきて、そんなにうちが信用できないのか!」
義父は明らかに怒っていた。
「こんなもん作らなくても迷惑なんてかけてないし、これからもかけるつもりもないんだから、いい加減にしてくれ!恥ずかしくないのか!?」
それを言うために義父は出てきたのだろう。
「たかが500万程度の借金で念書までとろうなんてどういう神経してるんだ」
たかが500万程度というなら人に保証人など頼まずに自分で工面すればいいではないか。
自営業の義父にとってはたかが500万なのかもしれないが、我が家にとっては“たかが”などという言葉で切り捨てられるような金額ではないのだ。
どういう神経をしているのかと問いたいのは私の方である。
そして、私はこの時初めて義父に対して嫌味で応戦した。
「あら、私たちが結婚する時にお金のことだけはきちんとしなさいっておっしゃいましたよね。私の実家に借りると克哉の株が下がるし、うちに借りると私の株が下がるって。だから借金は自分たちで解決しろって。覚えていらっしゃいません?そういうことを言った人が打ちに父に借金の保証人しろですか?そのほうが恥ずかしいんじゃありません?あ、恥ずかしいから挨拶もお礼もろくにされなかったんですね。ただ無神経なだけかと思ってたけど恥ずかしかったわけなんですね。そりゃそうですよねぇ。一応経営者ともあろう人がそのくらいの常識はあるはずですよねぇ。じゃ、離婚届提出したいのでこれで失礼します。あ、迷惑かけないっておっしゃるならこれ、ちゃんと保管させていただきますけど、かまいませんよね」
笑顔で言ってひらひらと念書を見せ、私はさっさと車に乗ってドアを閉めた。
まさに言い逃げである。
そしてその足で私は市役所に向かった。
やっと離婚成立である。
でも、離婚成立しても夫との関わりは続くだろうことは薄々予想はしていた。
だけど、また夫の実家に出向くことがあろうとは思ってもいなかったのである・・・。