小学生の頃から大好きなバンドのライブに行ってきた 
一日目も二日目も見るご縁を頂けた




 



このホールのライブには何十回も参加してきて
徹夜で当日券に並んだこともある
ホールへと続く並木道を歩きながらふと当時を想い出す
懐かしいけれど今はとてもできないな、などと思いながら



電子チケットを見せて入場すると
彼らのツアーポスターが描かれた紙のメモリアルチケットが手渡された
わたしが初めて彼らのライブに参加したころは
この紙のメモリアルチケットが唯一無二の正真正銘のチケット
そこに会場名称や座席番号等が印刷されていたのだけれど
時代とともにその在り方も変わりつつある








その「いまとなってはなくても構わない」はずのチケットに目を移してみる
一日目と二日目では記載内容が異なる部分があった
それは【通算有料公演数】と【同会場通算公演数】



二日目の数字はこうだった2907/75




数字がすべてだとは言わないが数字は現実を冷静に伝える
積み上げてきたその数字に圧倒されるのはわたしだけではないはず





 




活動休止もなく
当然解散もメンバーチェンジもなく彼らが歩み続けた五十年
辞めるのは簡単だけれど彼らはそれを選ばなかった 



毎年春季と秋季にツアーをおこなう彼らの今年の春ツアーは
まだ肌寒かった四月上旬に始まった
これまでならば初日のチケットが手に入ったのに
今年はどれだけ手を尽くしても見つからなかった




だから
今春ツアーの参加初日をわたしはこのホールで迎えたことになる




ほぼ定刻でステージは幕を開けた
一曲ずつ時は過ぎ
一曲終わるごとに終わりが近づく
会場の熱狂とはうらはらに時は淡々と過ぎてゆく
終わるために始めるということはこういうことなのだろう



突然涙が込み上げた
これまでに数百回、否、もしかしたら千回くらい聞いたかもしれない「いつもの定番」の曲で




「わたし、なんでこの歌で泣いてるんだろ」




不思議だった
涙を誘うような歌ではないから



でも何となく理由はわかる
わたしは多分安堵したのだ



また会えたね
ありとあらゆる会場で聞いてきたこの歌を
また聞けたね、と



「また会いましょう」
それはとてつもなく不確かな言葉だから



初めてホールのライブに行ったときも
初めて野外ライブに行ったときも
披露されていたはずのこの歌を、彼らはいまも歌い続けている



ジャンプし、時に激しく叫び、縦横無尽にステージを走り回る姿は
とても古希を迎えたようには見えなかった



そして彼らはまさに「いまこの瞬間」を生き切っているのだと感じた




彼らのことを「ダサい」と評価するひとに時々遭遇する




ある意味そうなのかもしれない
流行の最先端という雰囲気ではないかもしれない




スタイリッシュな訳じゃないかもしれないけれど
彼らの紡ぐ音楽にわたしはたくさん支えられてきたのもまた確かなこと



この世に永遠はない
でもきっとこれからもわたしは
彼らの歌が好きなのだろうと思う



あっという間の二時間半が過ぎ
会場がまだ余韻と熱気に包まれている中
わたしは隣席の友人に軽く挨拶をしてから一目散に出口へ向かう



早くひとりになりたかった
早くひとりだけの世界に還りたかった



このライブを丸ごと自分の中で噛みしめ
彼らにまた会えるそのときを想いながら
現実への入り口となる駅へと向かう並木道を歩くのだった



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