税理士の内田麻由子です。今年(2014年)2月に永岡書店から上梓した、三村麻子さんとの共著「親が死んだ5分後にあなたがしなければならないこと~葬儀の流れ・相続の手続きがわかる本」は、おかげさまで累計2万9千部になりました。
親の看取りから葬儀・相続に備えて、知っておきたい知識と心得がぎゅっとつまった1冊です。悟東あすかさんの漫画も楽しく読めて、理解を深めてくれます。漫画に登場する中島家のご家族のように、葬儀や相続をとおして、これまでの家族の絆がより深まるような、そんなご家庭が増えることを心から願っています。
円満な相続のために大切なことは何でしょうか? 今月は、本書の相続の章からそのエッセンスをお伝えします。
●遺産分割協議で大切なことは「感謝と譲り合い」
兄弟間で遺産分割の話し合いをする上で大切なことが2つあります。
1つめは、兄弟全員で、遺産を遺してくれた親に感謝することです。親から遺産を相続できるということは、「あたりまえ」ではなく「ありがたい」ことだということを忘れてはなりません。遺産分割の話し合いをする前に、兄弟全員で親の仏壇に手を合わせてください。昔の家族アルバムを皆で眺めて、親がどんなに苦労しながら、愛情を注いで育ててくれたのかを思い起こしましょう。
2つめは、兄弟の間で、お互いの生活や状況を思いやり譲り合うことです。「うばい合えば足りぬ、わけ合えばあまる」――相田みつをさんの言葉です。もし兄弟同士が相続でもめて絶縁状態になってしまえば、一緒に親のお墓参りや法要もできなくなってしまいます。子供であるいとこ同士の交流も絶たれてしまいます。それは果たして、亡き親の望むことでしょうか。かけがえのない家族の絆を、どうか大切にしてください。
●円満想続の3K~感謝・絆・供養
相続の現場では、遺言があっても(遺言があったために)、相続が争続になってしまうこともあります。では、円満な相続のためには何が必要なのでしょうか。
相続には「財産の相続」と「心の想続」があります。目に見える財産の相続よりも大切なことは、子供たち全員で、親の生き方や想いなど目に見えない財産を「想続」することです。相続は死んだ後の話ではなく、あなたが父母と一緒に過ごす「いま、ここ」こそ、かけがえのない「心の想続」の時間なのです。
「円満想続の3K」は「感謝・絆・供養」です。家族への感謝、家族の絆、先祖の供養――この3つが共有できているご家族は、円満な相続になることが多いのです。家を建てるときには、まず基礎工事をしてからその上に家を建てます。相続では、基礎工事にあたるものが「円満想続の3K」です。いくら立派な家(遺言や相続税対策)を建てても、基礎工事(3つのK)がなければ、大きな地震(相続)が来たときには、家は倒れてしまいます。
●親の心を想続するための3つのアイディア
1.わが家の家訓を作る
父母がこれまでの人生で大切にしてきた価値観は何でしょうか。父母の信条、座右の銘を教えてもらい、家族で相談しながら「わが家の家訓」を作りましょう。家訓ができたら、実家とそれぞれの自宅で壁などに飾りましょう。わが家の家訓を家族で共有することで、離れて住む父母や兄弟との絆を感じられます。
2.贈る自分史「家族遺産」アルバムを作る
「家族遺産」は、子から父母へ、孫から祖父母へ「贈る自分史」です。お正月やお盆に実家に集まったときに、父母の子供時代や青春時代の想い出、子育てや仕事に奮闘していた頃のこと、今の想いなど、じっくりと話を聴いてみましょう。アルバムに載せる写真を家族で選び、父母の来し方をまとめた文章を添えます。世界に1つだけの「家族遺産」、長寿祝いのプレゼントにしてもよいですね。
3.父母がお世話になった団体等に寄附をする
相続した財産のうちから、父母が生前にお世話になったり応援していた団体に寄附をしてはいかがでしょうか。一定の寄附には税制の優遇もあります。寄附を通じて「人間は自分一人で生きているのではない。さまざまなご縁をいただいて生かされているのだから、少しでも社会に恩返ししていこう」という想いを共有することは、家族のこれからの人生をより豊かにしていくことでしょう。
●相続とは「相(すがた)を続ける」こと
相続とは「相(すがた)を続ける」ことです。親がこれまで生きてきたその「相(すがた)」を子や孫が受け継いでいくこと。これが本来の相続です。本書を活用することで、あなたのご家族の相続が「想続」になりますことを、心よりお祈りしています。