股関節の回復と、かすかな前進。
心拍数の数字が、静かにその変化を物語っている。
数ヶ月前、「少し良くなってきて走れるようになった」と言っていたものの、あの頃はキロ8分のペースで心拍数が140まで跳ね上がっていた。
息が上がっていたのは、心肺のせいじゃない。
痛みをかばい、無駄な力みが全身にまわっていたからだ。
それが今日は、同じキロ8分で走っても心拍数は120台。
一度も130を越えることはなかった。
これは紛れもなく、余計な負荷をかけずに「脚を使って走れている」証拠だ。
明らかに股関節の痛みが落ち着き、走りの質が変わってきている。
さらに、もうひとつ変化がある。
これまで右の膝を内側に倒したときの激痛が、以前ほどではなくなっている。
これも間違いなく、快方に向かっている客観的な指標のはずだ。
──けれど、手放しでは喜べない現実が、走り終えたあとに待っている。
少し時間が経つと、じわじわと股関節が痛み出し、歩き方すらぎこちなくなってしまう。
ストレッチを入念にすれば、またなんとか歩けるようにはなる。
だけど、この波のある状態が、心をどうしても慎重にさせる。
いろいろと頭で考えてみるものの、結局のところ、本当の真実はわからない。
「本当に改善してきているのだろうか?」と、自問自答を繰り返す日々だ。
主治医やリハビリの理学療法士にこの状態を伝えると、一様に「それは改善してきている証拠ですよ」と太鼓判を押してくれる。
専門家がそう言うのだから、そうなのだろう。
それでも、自分自身にはまだ、そこまでの実感が持てない。
なぜなら、今の自分にはフルマラソンのスタートラインに立つ姿なんて、到底イメージできないからだ。
いや、ハーフだって無理。
それどころか、10kmだって、5kmのレースだって、今の状態で走りきれるとは到底思えない。
数字と専門家の言葉は「前進」を示している。
だけど、走る身体を持つ自分自身の感覚は、まだそこまで追いついていない。
このギャップに焦る必要はない、と言い聞かせながら。
今日もストレッチの痛みのなかに、明日への小さな兆しを探している。