タイトルから、さほど期待せず読み始めたが、、
実に学ぶところの多い新書だった。

まずのっけが日本人のパスポート保有率。

2025年で18.5%。8割がパスポートを持っていないという。
海外旅行は費用が掛かるから仕方ないのでは?
と思いきや、国内旅行も、アンケートによれば「したくない」が過半数。
「観光」離れなのだ。

その原因を探るため、まずは「観光」の起源を探る。
これが面白い。知らなかった。

おおざっぱに言ってしまえば、
イギリスで産業革命が興り農民が労働者化した。
工場で疲弊した労働者は、安酒で憂さを晴らすしかなかった。
深酒をし、これが都市に蔓延、悪い影響が出てきた。
そこで禁酒運動がおこり、
福音伝道師トーマス・クックは「絶対禁酒主義」を唱え、
その活動の一環として日帰りの「エクスカーション」を実施した。
労働者を汽車に乗せ、「酒のない一日」を過ごさせるものだ。
レクリエーション、だ。リ・クリエーション 再創造。
これが観光の起源となる。
第一回のロンドン万博でこれが定着。
こののちに有給休暇や、国による安価な宿泊施設など、
観光の環境が整い始める。

日本の観光の起源はお伊勢参り。
大名行列で整備された街道を庶民が旅する。
時代はクックとほぼ同じころ。
日本では井上万寿蔵が観光の導入に注力。
国民宿舎が多くたつなど、経済成長期に観光は花開く。
それがバブル崩壊からしぼむ。コロナでさらに。
失われた30年で経済的に落ち込んだために観光が衰退、
と考えられるが、原因はそれだけではなさそう。

こういう動きを見ると、
観光、ってのは教育的要素が強いことがわかる。

他国に行き、他国の人と接すれば、
その国を敵対国、と考えることはなくなろう。
国内でも、知らない場所に行くことで、
見分を広め、体感し、新たな発想を持つことができるだろう。
旅、観光の効用は大きい。

それが、日本国民の80%以上が海外に行かない。
逆にインバウンドはどんどん入る。
それも、韓国中国台湾香港で75%という。
オーバーツーリズムに苦しむ住民。。
要は内向き。
それが「日本人ファースト」や特定の国のヘイトにつながる。
それをあおって票を稼ぐ党が、議員が増える。

パスポートを持たない8割のすべてがそういう人、
というわけではないが、
環境がそうさせる面は大きいだろう。
以前自分のブログで
「自分でものを考えられる人は2割、自分の意見を他人に語れる人は1割」
という仮説を書いた。
パスポートの2割弱がそれに符合するのは偶然だろうか。
そんなことを考えてしまった。

さらに、観光をしたくない人が増えている理由の一つはスマホにあるようにも思う。
この新書にはその分析はないが。
スマホを見ることで、行った気になる、コスパタイパがいい、と思っている人は
多いのではないか。
ますます人間が頭でっかちになっていく。体感しなくては。

私はせいぜい旅ランをしよう。ラグビー観戦ツアーをしよう。と思うのであった。

 

第1章 観光とは何か 日本の現状と観光の定義
1 日本の観光の現在地/2 井上万寿蔵が観た世界/3 観光官僚と戦争/4 観光の定義

第2章 観光の誕生 産業革命と脱日常
1 観光の源流をたどる/2 トーマス・クックは何をしたかったのか/3 貧しい社会と「パーティ」の精神/4 観光のジレンマ

第3章 「社会的観光」という世界潮流 バカンスからソーシャル・ツーリズムへ
1 「休み」と近代社会/2 バカンスの発明/3 ソーシャル・ツーリズムの始動/4 旅と旅行と観光の日本

第4章 戦後日本における観光 「国民旅行」から「観光離れ」へ
1 観光の55年体制――ソーシャル・ツーリズムと日本/2 「国民旅行」が果たした役割――1950~1970年代の「観光旅行」/3 リゾートの嵐――1970~1990年代の観光ブーム/4 観光の「冷たい」まなざし――1990~2010年代の分断と格差/5 日常という、もう一つのバブル――21世紀日本の「観光離れ」の正体

第五章 観光の再創造 循環し代謝する「再」の思考
1 訪日インバウンドの急増――社会的インフラとしての観光/2 21世紀のソーシャル・ツーリズム/3 観光するリテラシー/4 再び光を観るために――再創造(レクリエーション)の思考