この小説、わが沈みゆくニッポンの病巣をえぐり出している。

読み始めは何のことかわからなかった。
警察が4人の逮捕に踏み込もうとしている。罪名は日本初の「共謀罪」!
しかし直前に感づかれ、張り込んでいた刑事たちは彼らを見逃す。
そこから舞台は房総半島に、数か月前に飛ぶ。

https://www.nagoyananbu.jp/news/223/

日本の失われた30年。
なぜ日本に欧米人のみならず、アジアの人々も大挙してやってくるか。
日本が安いから。
なぜ日本が安いか。
人件費が安いから。
なぜ人件費が安いか。
企業が利益を出すためには、人件費をコストとみなし、
正規雇用を減らし非正規を増やしてそれを実現する、
それが株主に認められる優秀な経営者、ということが
日本ではある意味常識になってしまったから。

この小説の主人公、逮捕直前だった4人はまさに非正規。
期間工と、派遣だ。
どちらにしても代わりの利く、劣悪な環境、低賃金でも働いてくれる、
経営者にとって使い勝手のいい、というか、使い捨ての労働力だ。
日本では正社員が減り、非正規がどんどん増えている。増やしている。

正社員は、非正規にされないために劣悪な環境でも我慢する。
会社はそれをいいことに労働コストを下げ、利益を増やす。
正社員の中には結果過労死になるものも出る。
しかし会社は労災を認めない。
それが先ほどのリンク。

残された妻子は裁判に訴える。
ふたりのために証言しようと準備していた現場責任者の男が、
夏休みに行くところもない、明日もない非正規4人を房総の実家に招待し、
書庫で学ばせ、目を開かせた。
しかしその男も現場で倒れ、亡くなる。
当然会社は責任をとろうとしない。
4人は法律無料相談に駆け込み、会社をただす方法を尋ねる。
そこにいた一人の老人がそれに応え、労働組合設立を勧める。
会社の組合は当然御用組合。出世コース。
会社の方針に歯向かう組合など、論外、つぶしてしまえ。
世襲社長は政府を動かし、公安は共謀罪適用を考える。
いったんは逃げおおせたものの指名手配された彼らが取った行動は、、、

小説のオチは読んでもらって、ということにして、
ここから何を読み取るか、だ。

正社員をなくすこと自体は、私は反対ではない。
何度も転職を繰り返した私にとって、
日本の終身雇用、年功序列は、社員のやる気、意欲を削ぐものという理解だ。
能力とやる気のない年寄りが権限と収入を得る。若者が損をするからだ。
今もそう思う。
しかし、そのことと、正社員を減らし、派遣を増やし、コストを下げるのは全く別。
家族を十分に養うだけの報酬を与えなければ、少子化になるのは当然。

そして、一つ知らなかったことがあった。
日本の労働生産性の低さの理由。低いことは知っていたが、

それは事務部門であって、生産部門ではないと思っていた。
生産部門も低いのだ。
1製品を作り上げるラインのスピードは日本がダントツだそうだ。
それが工員の労働負荷になるのだが。
欧米でそんなことをしたら工員が働かなくなるという。
結果スピードは遅い。出来上がる製品も日本ほど多くない。
しかし、製品数が少なければ、モノの値段が上がる。
一方日本はどんどん作るから、買いたたかれる。
結果、少なく作っても多く作っても売り上げは変わらない。
だから日本の生産性は低い、と出る。
そんな、、、と思うが、マーケットの理屈にはあっている。

某パン工場でも、汗を拭く暇もなくラインに縛られ、事故死が出た、
と最近ニュースで見た。
https://www.chibanippo.co.jp/news/national/1167892
労働者を犠牲にしても速くたくさん作って安く売る。安い日本だ。

中央値の収入の半分以下の相対的貧困児童が7人に一人の日本は
こうして作られる。

それをただすのが政治の役割のはずだが、
世襲議員や偏差値エリートたちにはそうした「しもじも」の実態は見えない。
自分は選民と思っている。別格、生き残れると。
だから日本全体が沈もうとしても、自分だけは生き残れる、と思い込んでいる。

一方そうしたひどい扱いを受けるわれわれも、
決められたルールには従わなくてはいけない、従わない奴は悪い、
と、仲間割れする。自分より下のものを蹴落とし、

自分はぎりぎり生き残ろうとする。
いずれ自分も下の立場になりうるのに。

弱い者いじめが酷い日本。

この小説の主人公たちはそこに立ち向かう。

そうした希望が今の日本にあるのか?
自分たちはルールを破って、何に使ったかわからない裏金を

数千万円も扱っていながら、
「正しい日本」だか何だかを訴え、あげく憲法改正も訴える。

私も改憲主義者だが、あなたたちにその資格はない、と言ってやりたい。
官僚、政治家、大企業、、、ろくなもんではない。

 

そういえばモデルとなっている企業は、ラグビーリーグワンでもその精神を

一番ゆがめている企業だった。

衰退傾向とはいえ、まだまだ絶対的に日本が貧しいわけではないはずだ。

仕組みが悪い。ルールがおかしい。

仕組、ルールは従うもの、ではない。時代にあわなければ変えるべきものだ。

そんなことを諸々想起させてくれる、すごい小説だった。

 

 

第一章 事件
第二章 発端の夏
第三章 追う者たち
第四章 Are you ready to kill?
第五章 反旗
第六章 力なき者たちの力
終 章 標的