心町(うらまち)にある、根津権現の裏門の外に、貧相な、楡(にれ)の木が立っている。

枝ぶりも、葉の繁りも悪く、夏の木陰は申し訳なく雨風もしのげない木かある。その木の下で毎日物乞いをしている爺さん、通称、楡爺(にれじい)と、

差配(現代でいう管理人)である茂十の二人の話です。


差配は、久米茂左衛門が本名で茂十は、幼名であった。

町奉行同心の家に生まれ、八丁堀で育ち、諸色掛り(しょしきがかり)という帳面役 についていた。

息子の修ノ進も、同じ同心で、17才を向かえようと、している時期に、

内勤で飽き飽きしていて、手柄をものにしようと、考えていた。

ある日、親子と、仲間たちと、飲みに行った帰りに、

江戸を騒がせた夜盗の地虫と呼ばれる一盗と、出くわしてしまう。


息子の若さゆえの無茶な行動と、内勤で刀の使い方を忘れていた父親の茂十

が、挑んだ捕物は、無茶に等しかった。

息子は、盗っ人の1人を殺してしまう。その光景を見た盗っ人の頭は、茂十の息子である修ノ進を殺めてしまう。

茂十は、修ノ進を殺めて逃げる頭(かしら)の顔を見て忘れられなくなる。


3年後、心町(うらまち)の楡(にれ)の木で、物乞いをしている盗っ人の頭(かしら)をやっと見つけた。


それから15年この町で、武士から町人へと生き様を変えて、差配という職につき、この盗っ人の頭である 楡爺(にれじい) を見張っていた。

が、いつか復讐心も薄れて、町に馴染んでしまう。


茂十さんはどういう人物か?

さぞ、温厚な人。

というイメージで

「心淋し川」 「閨仏」 「はじめましょ」 「冬虫夏草」 「開けぬ里」

を読んでいる中で、勝手に想像していましたが全く違う人物像が隠れていたとは驚くばかりです。


楡爺は、最初から何もしゃべらず、物も、わからずの人が、亡くなる3日前に、自分の息子の名前を呼んで泣く。

茂十だけが、息子の仇である、盗賊の頭(楡爺)を一方的に恨んで、、悲しんでいた時、

この楡爺も18年前から、自分の息子が茂十の息子に殺されて、運命が変わってしまう。

息子とは生き別れていて、やっと再開し、盗っ人とはいえ秩序を保って楽しく仕事をしている最中だった。

その時に息子が死んだという事実で、正気が無くなり、人生が一変し、この心町(うらまち)に辿り着く。


立場か違う2人の父親は、15年この心町(うらまち)で運命を共にしていたんですね。

息子に対する愛情の深さを、しみじみ感じました。