鴨長明

 

春になると旅に出たくなります。日本三大随筆(枕草子、方丈記、徒然草)でも読んで、遠い昔への旅にでも出て気を紛らそう・・・なんてことを考えながら、久しぶりに本棚から取り出してみました。随筆とは、筆者の体験や読書などから得た知識をもとに、それに対する感想や思想をまとめた散文です。現代でいうとブログのようなものです。したがって、これを読むと、その当時の人々の考え方や生き方を窺うことができます。

 

三大随筆のいずれにも季節のうつろいを綴ったくだりがあります。ここでは詳しくは紹介しませんが、どれも美しく格調高い文章で綴られています。例えば

「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく、山ぎはすこし明りて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。・・・・」

は有名な枕草子の冒頭の一節です。この冒頭のくだりを読んだだけでも、世知辛い俗世界を離れて旅でもしたくなってきます。

 

上記三大随筆の中で筆者が最も好きなのは方丈記です。作者は鴨長明で、鎌倉時代初期(約800年前)に書かれました。悩み苦しみながら生きた波乱万丈の人生を綴ったこの書に心惹かれるのです。

 

「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。」

(現代語訳:川の流れは絶えることはなく、それでいてそこを流れる水は、同じもとの水ではない。川のよどみに浮かぶ水の泡は、一方では消え、また一方ではできて、そのまま長くとどまっている例はない。世の中に生きている人とその人たちの住処もまた、ちょうどこの川の流れや水の泡のようなものである。)

 

これは、方丈記の有名な冒頭の一節です。美しく格調の高い綴りです。それだけではありません。この文章には、時代を越えて人々の心を打つ普遍的な人生観が込められており、年を追うごとにしみじみと心に響いてきます。

 

方丈記の前半部分には、鴨長明が実際に体験した1185年8月6日京都を襲った 文治地震(元暦大地震)(M7.4)などの大地震や火災、飢饉といった五大災害の悲惨な状況がありありと記され、そこから窺えるこの世の無常さや理不尽さが描かれています。まさに、複雑化した社会の中で凶悪な事件が日常化し、大きな自然災害が多発している現代に通じるところがあります。悲しい無常の世界や複雑な人間社会の中で、「人生とは何か」、「この人生を生きる意味とは何か」を問い続けながら生きた、長明の波乱万丈の人生が描かれています。

 

いつ尽きるかもわからない、はかない命。改めて「人生とは何か」、「この人生を生きる意味とは何か」を自分自身に問いかけ、自分らしい生き方を考えてみるのもよいかもかもしれません。

 

おわり