昔からよく「便秘は万病の元」という言葉を耳にしたものです。これは先人たちの経験に基づく知見だと思いますが、最近の医学の進歩によりこの詳細なメカニズムが明らかになってきています。前回、長期にわたる便秘によると思われる様々な身体の異変と、腸内環境改善の効果に関する実体験について述べました。今回医学的な側面から、腸活の効果について整理してみました。
腸活:バランスのいい食事、適度な運動、質のいい睡眠などによって腸内環境を整えること
目次は以下の通りです。多少長い記事になりますが、すべての人の健康にとって身近で大切な情報だと思います。ぜひ、最後まで読んで、健康に役立てていただけると幸いです。
(目次)
第1部
腸内細菌の役割について説明します。
(1)進化の観点からの大腸の役割
(2)腸内細菌数
(3)腸内細菌の役割
第2部
腸内環境を改善するために効果的な食べ物、及び留意すべき点について説明します。
1.腸内の善玉細菌を増やす食品
(1) 発酵食品
(2) 食物繊維が豊富な食品
(3) プレバイオティクスを含む食品
2.悪玉細菌を増やさないための留意点
3.その他の留意点
第3部
乳酸菌、オリゴ糖、ビオフェルミンを例に、その効果と、それらの摂取がなぜ便秘の解消につながるのかについて説明します。
(1)乳酸菌の効果について
(2)オリゴ糖の効果について
(3)ビオフェルミンの効果について
主な引用文献
(1)ヒトのマイクロバイオーム(腸内細菌)の役割とその健康への影響について
"Human microbiome: symbiosis to pathogenesis" by Cho, Ilseung & Blaser, Martin J. (2012)
(2)腸内細菌の健康維持および疾患における役割について
"Gut microbiota in health and disease" by Jandhyala, Srikanth M., et al. (2015)
(3)腸内細菌がコレステロールの代謝に与える影響について
"The role of gut microbiota in cholesterol metabolism" by Wang, Z., & Zhao, Y. (2018)
1.第1部
(1)進化の観点からの大腸の役割
腸内細菌は人間の進化の過程で共生関係を築き、宿主の消化機能や免疫機能を支援するようになりました。微生物は食物の分解を助け、短鎖脂肪酸などの代謝物を生成し、これがエネルギー源や免疫調節物質として働きます。
(2)腸内細菌数
人の体内には約100兆個の細菌が存在するといわれています。腸内の細菌は主に大腸に集中しており、大腸には約30兆から100兆個の細菌が存在するといわれています。大腸は腸内細菌の主要な生息場所であり、ここで多くの細菌が共生しています。
(4) 腸内細菌の役割
・ 消化と栄養吸収
腸内細菌は食物の消化を助け、特に食物繊維の分解によって短鎖脂肪酸を生成します。これにより、エネルギー供給や腸内環境の維持に寄与します。
・免疫機能の調節
大腸は体内の最大の免疫器官の一つであり、腸内細菌が免疫システムの発達と機能に影響を与えることが知られています。腸内細菌は、免疫細胞の成熟を促し、病原菌の侵入を防ぐバリアとして機能します。
・病原体の抑制
常在菌は病原性細菌の増殖を抑制し、感染症のに予防に寄与します。これを「菌叢バリア」と呼びます。
・コレステロールの調節
一部の腸内細菌は、食事由来の胆汁酸を二次胆汁酸に変換することによってコレステロールの代謝に関与しています。これにより、コレステロールの再吸収を抑制し、全体的なコレステロールレベルの調節に寄与します。
・ビタミンの合成
一部の腸内細菌はビタミン(特にビタミンKやビタミンB群)を合成し、宿主の健康に貢献します。
・神経系への影響
腸内細菌は腸脳相関を通じて脳の機能や気分に影響を与えることが知られています。これにより、ストレスやうつ病との関連も示唆されています。
(5)まとめ
人の体内には多様な細菌が存在し、これらは消化、免疫、栄養合成、病原体抑制など、さまざまな重要な役割を果たしています。これらの細菌は健康維持に不可欠であり、そのバランスが崩れると健康問題が生じることもあります。細菌叢(フローラ)の研究は今後も進み、健康維持や病気治療における新しい可能性が期待されています。
2. 第2部
腸内環境を改善するために効果的な食べ物、及び留意すべき点について説明します。
(1)腸内の善玉細菌を増やす食品
① 発酵食品
発酵食品には有用なプロバイオティクス(善玉菌)が多く含まれています。
(例)
・ヨーグルト:プロバイオティクスが豊富。
・キムチ:乳酸菌が豊富。
・味噌:発酵による有用菌が含まれています。
・納豆:納豆菌が腸内環境を整えます。
・漬物:特にぬか漬けは有用菌が多い。
② 食物繊維が豊富な食品
・食物繊維は善玉菌の餌になります。
(例)
・野菜:特に葉物野菜(キャベツ、ほうれん草など)。
・果物:リンゴ、バナナ、ベリー類など。
・全粒穀物:玄米、全粒パン、オートミールなど。
・豆類:黒豆、レンズ豆、ひよこ豆など。
➂ プレバイオティクスを含む食品
・プレバイオティクス(注1)は善玉菌の増殖を助ける成分です。
注1:プレバイオティクスは英国の微生物学者Gibsonによって1995年に提唱された用語で、プロバイオティクスが微生物を指すのに対してプレバイオティクス(prebiotics;pre 前に、先立って)は、①消化管上部で分解・吸収されない、②大腸に共生する有益な細菌の選択的な栄養源となり、それらの増殖を促進する、③大腸の腸内フローラ構成を健康的なバランスに改善し維持する、④人の健康の増進維持に役立つ、の条件を満たす食品成分を指します。
(例)
・バナナ、玉ねぎ、にんにく、ごぼう、チコリ、アスパラガスなど
(2)悪玉細菌を増やさないための留意点
・便秘をしないこと
便秘は腸内環境を悪化させる大きな要因です。日頃から便秘に気をつけましょう。
・過剰な砂糖摂取を避ける。
砂糖は悪玉菌の餌になります。
・加工食品やファーストフードを制限する。
これらには添加物やトランス脂肪酸が多く含まれ、腸内環境に悪影響を与えることがあります。
・抗生物質の使用に注意
必要な場合以外は抗生物質の使用を避ける。抗生物質は有用菌も殺してしまいます。
・ストレス管理をすること
ストレスは腸内環境に悪影響を与えますので、適切なストレス管理が重要です。
(3)その他の留意点
・適度な運動
運動は腸内環境を整える効果があります。
・十分な水分補給:
水分は腸の動きを助けます。
3.第3部
以下では、乳酸菌、オリゴ糖、ビオフェルミンを例に、その効果と、それらの摂取がなぜ便秘の解消につながるのかについて説明します。
便秘は腸内環境を悪化させる大きな要因です。便秘を解消するために刺激性の便秘薬を使うと確かに便秘は解消されますが、便秘の根本的な解決にはならないばかりか、刺激性の便秘薬の長期間の服用により、便秘が習慣化したり、色素沈着により腸壁が黒く変色するといった副作用が問題になります。実は前述したような腸内環境の改善が、同時に便秘の解消、ひいては全身の健康につながるのです。
(1)乳酸菌の効果について
乳酸菌はプロバイオティクスと呼ばれる有益な微生物の一種であり、以下のような方法で腸内環境を改善し、便秘解消に役立ちます。
① 腸内細菌のバランス改善:
乳酸菌は腸内の有害な細菌の増殖を抑え、有益な細菌の増殖を促進します。これにより、腸内細菌のバランスが改善され、腸の健康が保たれます。
② 腸の運動促進:
乳酸菌は短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)を生成します。これらの物質は腸の運動を促進し、便通を改善する効果があります。
➂ 便の軟化:
乳酸菌が生成する乳酸や他の代謝産物は、水分を腸内に引き込む作用があり、便を柔らかくするのに役立ちます。
(2)オリゴ糖の効果について
オリゴ糖はプレバイオティクスと呼ばれる成分であり、腸内の有益な細菌の餌となり、以下のように腸内環境を改善します。
① 有益な細菌の増殖促進:
オリゴ糖は乳酸菌やビフィズス菌などの有益な細菌の餌となり、これらの細菌の増殖を促進します。これにより、腸内細菌のバランスが整い、便通が改善されます。
② 腸の運動促進:
オリゴ糖が腸内細菌により発酵されると、短鎖脂肪酸が生成され、これが腸の運動を活性化させます。
(3)ビオフェルミンの効果について
ビオフェルミンは、日本で広く使用されているプロバイオティクスの一種であり、病院でよく処方される薬です。以下のように便秘の改善に役立ちます。(私もこの薬を服用しているのですが、効果覿面で腸内環境が改善し体調が非常によくなってきました。)
① 腸内細菌のバランス改善
ビオフェルミンには乳酸菌が含まれており、腸内の有益な細菌の増殖を助け、有害な細菌の増殖を抑えます。
② 腸の運動促進
ビオフェルミンの乳酸菌が腸内で増殖し、短鎖脂肪酸を生成することで、腸の運動を促進します。
➂ 便の軟化
ビオフェルミンに含まれる乳酸菌が腸内で乳酸を生成し、水分を引き込む作用があるため、便が柔らかくなり、排便が容易になります。
これらのプロバイオティクスやプレバイオティクスを含む製品を適切に摂取することで、腸内環境が整い、便秘の改善が期待できます。ただし、効果には個人差があるため、症状が改善しない場合は医師に相談することが重要です。
以上